26 腕試し
「じゃあ、見せてもらおうかな」
「わかりました」
「さっきも言った通り俺は一切手も口も出さない。
アリアがどう
「はい」
目の前で装備の点検を済ませ、軽く準備運動をしている彼女はこちらに視線を向けて気負いなく答える。
現在、俺は
理由は彼女の探索を見せてもらうため。
本来であれば必要のないことではある。
特級の候補者に挙げられてる時点で探索の実力などあって当たり前なのだから。
ただし、彼女には懸念すべき点があった。
それは彼女が探索者になってからの時間があまりも短い、という点。
彼女は未だに――というか時間が足りなかったため当たり前だが、二級探索者であった。
普通なら実力を上げる段階で迷宮の攻略に必要な知識等も身につく。
だが、彼女の場合はその有り余る才能を以て常識など捨てた攻略をしていた可能性がある。
協会は獲得してきた魔石やモンスターの素材から探索者を評価をする。
素材の傷などから一撃で余裕で仕留めたのか、はたまた苦戦して仕留めたのか程度は把握できても、実際の戦闘や探索自体の能力は関知しない。
極論どんな方法であっても成果をもぎ取ることができるなら評価されてしまう。
それこそ、才能が有れば大量の等級の高い魔石を獲得できるし、その事実で才能を見出せる点では有用だ。
ただの探索者であり続けるならそれでもかまわないが、特級になるなら話は別となる。
むしろ常識的なことをきちんと知ったうえで非常識に挑まなくては一瞬で呑まれる。
だからこそ基礎から確認する。
まぁ、おそらく協会の評価方法が杜撰すぎるということもないだろうし、大丈夫だとは思うが、念のためである。
準備運動を終えてこちらに向くアリアに対してまじめな顔をしながら今回の探索の条件を説明する。
「制限時間は二時間。魔石や素材の剥ぎ取りも当然俺は手伝わない。
最低条件はこの
一応言っとくけどこの程度の
分かった?」
「わかりました」
「よし、始めようか」
この程度の迷宮、とは言ったものの世間的にみるとここは一級探索者を含むパーティで挑むべき迷宮ではある。
迷宮内は谷のような地形になっており、谷底はもちろん上から降ってくるモンスターへの対処もしなければならない。
さらにはメインで出現する蛇系のモンスターは様々な状態異常を引き起こすため、戦闘能力だけが高くても進めない迷宮となっている。
そんな迷宮を一人で、かつ制限時間付きで攻略しなければならないといわれると一般的な探索者だとかなりキツいだろう。
ただし、今目の前で気合を入れている彼女は特級候補に挙げられる人間。
少なくとも特級になるにはこの程度楽勝でこなしてもらわなければ務まらないだろう。
「行きます!!」
「おう、俺は後ろからついてくけど気にすんなよ」
――――――――――—————
「ッシィッッ」
アリアが振るう鞭が神速でうねり蛇型モンスターの群れをたやすく吹き飛ばす。
迷宮に入ってから一時間。
アリアはとどまるところを知らないかのように快進撃を続けていた。
谷底に群れる蛇も谷上から降ってくる蛇も、その他のモンスターもすべてを薙ぎ払っている。
迷宮に入ってから基本的に身体能力に物言わせた高速移動、最低でも小走り程度の速度で進行している。
モンスターが襲ってきても足を止めることなく鞭を振るって倒している。
倒しているというか、鞭を振るうごとに蛇の体が吹き飛んでる。
基本的にアリアから三メートル以内にはモンスターはおろか返り血すら飛んでいない。
右手の鞭で遠中距離を攻撃、左手は常に短剣を構えて近距離に対応しているが、左手が敵に向かって活用される場面がない。
敵が群れで来ても速度に物を言わせた鞭によって刻まれるし、敵からの毒などの遠距離攻撃に対しては周りにある自然物に鞭を巻き付けて即席の盾として扱っている。
さらには谷上のモンスターからの投石と思われる攻撃も的確に弾き飛ばす。
倒した後の処理の仕方も問題ない。
魔石や素材の剥ぎ取り時もほとんど足を止めずに一瞬で抜き取るし、なにより周囲への警戒を怠っていない。
総じて、強い。
ごり押しのように見えるが要所要所での動きが経験に基づいたベテランと大差ない。
問題点があればメモでもして後で指摘をしようとか考えてたけど、まったくもって無駄となった。
後ろで見ているだけなのも暇なのでアリアが群れを相手取っている時なんかは、適当にモンスターのスケッチをしている。
残り時間も一時間ほど残っているが、もうボスのいるところまで着く。
アリアの様子を見る限り疲れている感じもないので、おそらくボスだろうが問題なく倒せる。
もう少しくらい時間がかかると予想していたが、思っていたよりも早い。
まあ、遅いよりも早い方が良い。何よりである……
◆◆◆
白斗さんから出された課題は今のところ問題なくこなせている。
手助けがないことも、制限時間も何も問題がない。
あとは、ボスを無傷で倒せば今回は問題ない。
それ自体はおそらくこなせる。
この『蛇怨の死叫谷』で出てくるモンスターのレベルは十分に対処できるレベルだった。
だからこそ、怖い。
正直言って――簡単すぎる。
修行についての話を聞いた時はてっきりこの前の会議室であったような戦闘訓練のようなものが来るのではないかと身構えていたせいなのか、随分と簡単に思える。
おそらくこれは修行というよりもその前段階でのテストのようなものなのだろう。
だが、テストであったとするなら何を見られているのか?
それが分からない。自分は今合格点を出せる動きをしているのか?
とりあえず、最高速度での攻略、モンスターは発見次第即殺、倒す際はなるべく魔石をとりやすいように倒し、剥ぎ取りは魔石に限定することでスピードを意識した動きをしている。
迷宮に入ってから白斗さんは事前に言っていたように手も口も出さない。
ただ淡々と後ろをついてくる。
途中でメモに何か書き込んでいるようだが、メモを取っているのは大体群れを相手にしている時である。
あれが問題点の指摘なら今は着々と点数を減らしている可能性がある。
とんでもなくプレッシャーを感じるが、それでもミスはしないように少し息を整える。
この後はボス戦となる。
今までが簡単だったからと言って油断するのはだめだ。
むしろボス戦だからこそここで減った(かもしれない)点数を回復する戦いぶりを見せつけねばと気合を入れて進みだす。
――――――――――————————————————————
白斗:かなり絵がうまい。即興のスケッチでも結構様になっている。
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