25 責任


 あの後、全員が資料を読みつつ駒場こまば会長からの説明を受けた。


 俺はいったいどんな情報を上げてしまったせいでこんな事態に陥ってしまったのかと疑問だったが、資料によるとあまり関係がなかった。


 そもそも今回のことが計画され始めた時点では俺からの情報は何もなかった。

 今後起こる可能性のある事態、それを会長が予測するに至った情報がもたらされたのはもう一人の情報提供者によってである。


 提供された情報——それは、白黒魔石についての情報であった。



 あの変なモンスター。

 人間のような手を生やしてきたモンスターから出てきた本来あり得ない魔石。


 あれは協会関連の研究機関に回されたという話だったが、結果は出ていたことは知らなかった。

 おそらくもう一人が提供した情報は同じで、既に白黒魔石についてある程度どのような物かを把握していたのだろう。そのうえで俺からの情報も加わったというのが今回の話の全容らしい。



 そして、あの白黒魔石についてだが、想像通りかなり厄介な代物であった。

 どうしてできたかは不明。

そしてこの魔石をもつモンスターは二例しか確認されていないがそのどちらもが何らかの形で人間の体の一部のような器官を備えていた。


 俺が戦ったおてて付き宝箱ハンディーミミックは俺でも余裕をもって倒せる程度であったが、もう一人の情報提供者が対峙したモンスターはその人を以てすら『そこそこ手強い』と評価されるほどの強さだったらしい。


 だからこそ会長は現在の特級だけでは対処できなくなる可能性について触れた。

 なんせもう一人の情報提供者——仙洞常夜せんどうとこよは現特級の中でも頭抜けた実力者だったのだから。



 ―――――――――――――――



「はぁ~、なんでこんな事態になってんですかね……」


「そうだな、話にあった例のモンスターが今後も出てくるのであれば会長の話も納得はできるが……」


「私は早く戦いてえな~」


「僕も一目見てみたいなぁ」


 会議が終わって集まった人員は解散となり、廊下を並んで歩く四人。


 俺は憂鬱な気持ちになっているし、空霧そらぎりさんも先の話の内容を憂慮している。

 しかしながらあの話を聞いたうえで狂戦士バーサーカーや、変人へんたいはむしろワクワクしちゃってる。



伏野ふしのはもう戦ってんだろ?強かったのか?」


「いえ、強さはさほど……なんか通路が埋まるくらいに手を生やしてきただけでしたね」


「手がいっぱいあるとできること増えるから羨ましいねぇ」


 朱王すおうさんと裏田うらだから色々質問されるが、少なくとも俺が出会った変なモンスターは二人のお眼鏡にかなうようなモンスターではない気がする……


 いくつかの質問に答えながら歩いていると黙っていた空霧さんが立ち止まり口を開く。



「おそらく白黒の魔石については常夜と友禅ゆうぜんの二人が会長からの依頼を受けて調査する形になると思う……現状フリーで動かせる人員だしな」


「……」


「だろうな、私もそっちに加わりたかったぜ」


「羨ましいねぇ」


 空霧さんの言ったことはおそらく間違っていない。

 俺も正直言うなら帆鳥ほとり先輩の手伝いをしたかったが……


「そうなると普段の仕事をメインで出来るのは馬喰ばくろうひびきの二人になる。これが意味するところが――分からんわけでは無いだろう?」



 特級の普段の仕事——領外地帯アドバンスド・エリアの探索。

 これをこなせる人間が減るということは端的に言ってかなりの危機的状況である。

 それも想定外の事態が進行しているかもしれない現状では特に。



「もちろん、理解……してます」


「私だってわーってるよ」


「僕たちにはさっさと使える戦力を育て上げることを期待されてるって感じかぁ」


「そうだ、我々の責務を忘れるなよ。

 まぁ、白斗に関しては多少仕方ない部分もあるだろうが、それでもだ」



 仕方のない部分——俺が特級としての実力がないことは加味しても、なおその上でなるべく早く鬼嶋きじまアリアを特級にふさわしい戦力へと育て上げろ。


 空霧さんの発言からすると彼は相当今回の事態を重く見ているようだった。


 ならばこそ今回も覚悟を決めなければいけない。

 既に賽は投げられているのだか、後はどうあってもやるしかない。


「……できる限りの全力を尽くします」


「そうか、期待しておこう」


「がんばれよ~」


「相談だったらいつでも聞くよぉ」


 とりあえず帰ってから指導メニューの見直しを行おう……



 ――――――――――———————



「なるほどね、どんな感じかは大体わかった。

 私の方にはまだ話が来てないから時間はあるし、メニューの見直しもできると思う。

 一応可能性として、白黒魔石については仙洞さんだけで調査する可能性もあるし、そうなったら予定通りにハクのサポートもできると思う……」


 家に帰宅して会議のあらましを話し、帆鳥先輩と今後の対策を考えようとしていた。


 しかし、可能性の話をしていたが先輩の言葉尻はだんだん弱々しくなっているところからなんとなく分かるが、おそらく会長からの依頼は来ると思っているのだろう。


 まだ来ていないだけでそのうち来る。理由は知らないがおそらくは先輩特有の勘でそう感じたのだろう。


「とりあえずは、俺一人でも遂行できる形を整えようかなと思います。

 サポートも鵜飼うかいさんが手伝いで出来る範囲で決めておいて、もし先輩の手が空いてるようでしたらそこを変わる形をとっておきましょう」


「うん……ごめん」


「先輩が謝ることじゃないです!」


「……ありがとう」



 ダメだ……先輩が落ち込んでしまっている。

 一応もともと立てていたメニューでも帆鳥ほとり先輩によるサポートは極力なくす方向で考えていたので、現状でも大きな変更が必要なわけでは無いが、なぜか落ち込んでいる。

 とりあえず励まそうとするが、いい言葉が出てこない。

 先輩は必要ないです。とか言えるわけがないし……



「あ、そうだ。候補者の話聞きません?

 俺が担当する子、アリアなんですけどね、話し合い始めようとしたら『師匠って呼んでいいか?』なんて聞いてきちゃって、全く困ったもんでしたよ……アハハ」





「ほぉーん、アリア、ねぇ?下の名前呼びなんだ?

 で、師匠って呼ばせていい気になってるんだ?

 仲良くできそうなんだ?」


「いや……あれ、違いますよ?先輩……?師匠呼びは拒否しましたし……その……」



 帆鳥先輩の目が突如として冷たくなる。

 さっきまで申し訳なさそうにこちらを見ていた視線が、今は極寒の視線に様変わりしている。



 あっれぇ……?なんでぇ?






――――――――――————————————————————

特級7名(8名)の名前


伏野白斗ふしのはくと

友禅帆鳥ゆうぜんほとり(非公式)

空霧実巳そらぎりさねみ

馬喰ばくろうモナ

音鳴響おとなりひびき

裏田表うらだおもて

朱王萌美すおうもえみ

仙洞常夜せんどうとこよ







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