閑話 期待の新人
◆◆◆
探索者協会の地方支部。
そこで本日の迷宮探索を終えた二人組が反省会をしながら談笑している。
「そういえばお前は例の話聞いたか?」
「あ?何だよ例の話って?」
「あれだよ、あれ、一ヶ月前に探索者になったばっかだってのにくそ強えって噂の新人の話だよ」
「ああーそれか、聞いたぜ聞いた。試験も最初に受けたやつだけで後は飛ばして筆記だけして終わったやつの話だろ?」
「そうそうそれそれ、ったくどんだけの力があれば実技試験のほとんどを飛ばして合格なんてできるんだか……全くこの業界は才能がモノを言うとは思ってたが、とんだバケモンもいるもんだな……」
「ま、俺らには遠すぎる話ではあるなー」
「ククッ、事実だけど一言余計だよ、まったく。
俺らだってこの世界で探索者して成り上がっていこうじゃねえか。俺らのペースでよ」
「そうだな。じゃ、とりあえず飯でも食いに行くかー」
二人はその噂を嘘とは思わない。
時に優れた才能の持ち主は異常なスピードでこの世界を駆け上がっていく。
それでも腐ることなく自分たちなりに探索者を続けていける者こそがいつか輝くことができるのだと信じているから歩みを止めることはない。
今日の探索でも反省点はあったが目標は達成できている。
ならばこれから反省すべきミスを潰して進めばいいだけだと心に決めて歩みだす。
差し当って二人は腹ごしらえのために飯屋への一歩を踏み出した。
◆◆◆
「現特級探索者からの指導と監査?」
私——
なんと言われたのかは分かったが、その言葉が意味するところは飲み込み切れない。
なんせ今までにそういう制度があるということは聞いたことがなかったから。
「はい、そうです。鬼嶋さんが探索者になられてからまだ一ヶ月ほどではありますが、我々はその才能を非常に高く評価しております。
そして我々は、才能のある者をしっかりと育て上げるために今回のことを計画しております」
「なるほど……」
私には目的がある。
探索者になった目的が。
そもそも探索者になると決めたのは自分に才能があったからというわけでは無い。
才能が有ろうが無かろうが探索者になっていた。
なぜならそれが私の目的を達成するために一番の近道だと思ったから。
そして幸いなことに私は才能に恵まれていた。
これならより早く目的を達成できると思っていた。
そんな時に降ってわいた現特級探索者からの指導と監査。
才能が見込まれてトップからの指導を受けられるということは、協会は私の才能は特級に届きうると判断したのかもしれない。
なんという……なんという……幸運か。
現在日本に7人しかいない特級探索者。
探索者のトップに近づけばより一層私の目的も達成しやすくなるだろう。
こんな望外のチャンス、是非もない。
もちろんこの話は受ける。受ける以外の選択肢など、存在しない。
頭の中で思考を巡らせていると職員さんは少し残念そうな顔をしながらこちらをのぞき込む。
「それで、どうなさいますか?今回の話を受けたくないと言われるのであれば仕方ありませんが無しになります。
探索者の方の中には自分で力を高めたいという方がおられることも承知しておりますので……」
どうやら、時間をおいてしまったせいでこの話に否定的だと思われたのだろう。
少し慌てながら答えを出す。
「も、もちろん受けさせてもらいます!
少し動揺して考えてしまっただけで、嫌というわけでは無いです!」
こちらが話を受けようと思っていることを伝えると職員さんも心なしかほっとしたような表情を見せ、そしてすぐに疲れた顔をした。
なぜそんなげんなりとした表情を見せるのか疑問に思ったが、疑問が口から出る前に職員さんの口が開く。
「一応ほかにも候補者の方がおられまして……皆さんにどの特級探索者様に指導していただくかの希望をとってるのですが……あ、一応言っておきますが、あくまで希望です。希望。必ずそうなるとは限らないですよ。
それで……どの特級探索者様がいいかの希望はございますか?」
「『
「はい……やっぱり、そうですよねぇ」
職員さんは分かっていたように半分涙目になりながら落ち込んでいる。
おそらくほかの候補者も同じ名前を出したのだろう。
ただ、例えどれだけ倍率が高くなろうとも私が希望を出すのであれば選ぶのは一人しかいない。
そもそも探索者になった目的の一つは伏野白斗に会うことでもある。
会って話を聞きたい。
あの日、あの場所で、何が起きて、伏野白斗は何をして、どうなったのか。
そのすべてを本人の口から聞きたい。
そうしなければ先に進めない。
あの日から私はずっとあの場所に囚われ続けている。
「では、この話はいったん持ち帰らせていただきます。
後日追って連絡が行くことになると思います」
「分かりました……」
――――――――――—————
「おう、全員集まってるな。
まずは自己紹介をしておこう。俺は
後日、探索者協会の本部に呼び出され集められた会議室。
室内にいるのは協会職員の野水という男ともうあと二人。
この二人はどちらも高い実力があるように見える。
ならば、集められたのは少し前に話があった特級候補者となる者たちだろうと予測できる。
「早速だがお前らを集めた理由について説明しよう。
察してるとは思うがお前らに話しがあった特級への弟子入りの件についての試験みたいなものだ」
推測は当たっていたようである。ほかの二人も同じ考えを持っていたようで大きな反応はない。
「ま、試験とはいっても落ちたら話がなくなるわけじゃねえ。
これは……誰が『伏野白斗』の指導を受けられるかを決めるための試験だ。」
「「「……ッッ!!」」」
先ほどは大きな反応を見せなかった全員それを聞いて息をのむのが分かる。
「これからお前たちには色々条件を付けてこちらが出す課題をこなしてもらう。
その結果を見て誰を推薦するかを判断する。
要は選ばれたきゃ示せってことだ。分かりやすいだろ?」
「望むところだぜッ!!!!」
「試験とかほんまに嫌やわぁ」
「……」
三者三様、みな反応が違う。
前向きな姿勢を示す者、口では嫌だという者、言葉は発さない者。
ただ、全員の目には一様に火がついている。
残りの二人はライバルだ。だが、関係ない。
この二人と自分は違う。目的も執念も何もかも……負けるはずがない。
「全員、いい目してんなァ。
じゃ、さっそく始めんぞ!」
試験?それがどうした、望むところである。
示さなければ勝ち取れないなら示すまでの話だ。
――――――――――————————————————————
閑話:二章から登場予定の人たちのお話。
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