21 異常事態

 その後、迷宮ダンジョンから出るまで進化が完了することはなかった。


 出てきてからは、警察や警備会社、その他にも探索者協会やミミックハント開催委員会の人間などが集まっていた。

 全員が迷宮の進化の詳細を難波なんばに聞いていた。

 迷宮から出てきた瞬間こちらにも人が飛んできて詳細を求められたが、とりあえずボスを倒した報告だけはしてその場を離れた。



 ――――――――――—————



 正直に言うとかなり気分が悪い。テンションは最悪もいいところだ。

 宿の一室で椅子に腰かけながら込み上げてくる気持ち悪さをなんとか抑える。

 理由は明確に分かっている。

 あの白黒の魔石が出てきたからだ。

 が何なのかは正確には分からない。


 ただ、もし仮にだが、今持っている情報と合わせて考えた時に推測通りだった場合…………あれは最悪の代物だと言い切れる。


 何かの間違いか俺の推測が外れていることをどうしようもなく祈ってしまう。




 そうしているうちにかなりの時間がたってしまったのか部屋に難波が訪ねてくる。


「大丈夫か?白斗」


「ああ……すまん難波。対応全部まかせっきりにさせちゃって……」


「いや、それは別にいいけどよ~。一応聞くけどめちゃくちゃ強いボスだったとか、そんな感じか?」


「いや、完全に別件だ……あの迷宮とは一切関係ないところで心にダメージを受けただけ」


 正確には一切関係ないわけでは無い。

 あの迷宮の新しいボスの魔石の件なのだから無関係ではない。



「ま~ないと思うけど一応言っとくな?

 お前との仕事でトラブルにならなかったことなんて無かったし、今回も予想してたからそんなに驚いてもない、気にすんなよ!」


「ああ、ありがとう。

 ただ一応言っとくけど、お前に迷惑かけたことを気に病んでたわけでもねぇよ?」


「ハハ、うっせぇわ」


 難波は相変わらず良い奴だ。

 しかしながら、あいにくとこの話題は難波には話すことはできないので、迷宮とは無関係だと言い張る。



 これを相談できるような相手は帆鳥ほとり先輩を筆頭に特級探索者の人間か、協会で信用のおける野水のみずさんくらいしかいない。


 そもそも、こんな問題一人で抱え込んでも解決できるわけがないのでさっさと相談してしまおう。


 そうと決まれば、さっそく帰ろう。

 もう、帰ろう。はよ帰ろう。

 帆鳥先輩が足りてない。




 ――――――――――—————




 そうして三日ぶりに家に帰ってきた。

 玄関を開けるとそこには先輩が立っていた。

 先輩がお出迎えとはかなり珍しい。


「おかえり、うん……ちゃんとメニューはこなしてたみたいだね」


「ただいまです。今回はちゃんと成長した実感ありますからね。褒めてくれてもいいですよ?」


「うんうん、えらいねえらいね、それでメッセージで言ってた話したい事って何?」


「あ、はい……」


 どうやら先輩が出迎えてくれたのは俺がメッセージでいつ頃帰るかの報告と相談したいことがあるからという旨を送っていたかららしい……


 いや……うん、なんだか少し残念である……



「とりあえず中で話しましょう。荷物置いてくるんで待っててください」


「わかった」



 ――――――――――—————



 とりあえず装備や荷物をしまって部屋着に着替えてリビングのドアを開けて中に入る。

 いつもならソファーでぐでっとしていることの多い先輩も今回の話がかなりまじめなものであると察したのか椅子に座って待ってくれていた。


 心なしか先輩の顔がキリッとしている。

 いつもの三倍増しでかっこよく見えるのは、俺があの魔石に関してショッキングな想像を働かせているせいもあるのかもしれない。



 とりあえず今後の話を進めていくためにも先輩の対面に座り、取り出した白黒の魔石を慎重にテーブルに置く。


「相談したかった内容はコレに関してです」



「なるほどね。魔石……白と黒が入り混じった魔石ね……

 うん、ハクがなんで相談したがっていたのかは分かった。私も同じ意見かな。もし推測が当たっているなら……

 これは……だ」


 置かれた魔石をみる帆鳥先輩の顔は、大きく目を見開き珍しく驚いた顔をしている。

 やはり帆鳥先輩も同じことを考えたようだ。



 そう……この魔石の存在は異常なのだ。



 通常迷宮でモンスターから獲れる魔石は白色をしていることが多い。

 稀にスキルを得られる色付きの魔石が存在することはあるが、その色の中に黒色は存在しない。



 黒色の魔石は通常の迷宮からは得られない特殊な魔石。

 特定の条件をそろえることによってだけが例外的に黒色をしている。


 例えば俺の持っている黒色の魔石。

 あれは俺自身から生み出され、その後に抜き取った魔石だ。




 色付きの魔石で色がいくつかあるものは、基本的になんらかの二つの属性を兼ね備えたモンスターからドロップする。


 だからこそ白黒の魔石はおかしい。

 本来モンスターからしか得られない白と、人間からしか得られない黒を併せ持つ。


 現段階の情報からの推察でしかないが、あの白黒の魔石はモンスターと人間の両方の性質を兼ね備えた存在から生まれたものである。




 もしこれがあのミミック限定の話で、たまたま人間を捕食してしまいその性質を得たというのならまだギリギリ分かる話であるが、そもそも迷宮内において人間を捕食してしまうようなモンスターは他にもいる。

 そして、そういったモンスターから白黒の魔石が出てきたということはない。


 今までになかったことであり、あり得なかったことでもある。

 本来混じることのないはずの二つの性質がまじりあった存在。


 到底理解不能な得体が知れないモノであり、だからこそ恐怖を感じる。




「それで、どうしましょうか?」


「とりあえず、この件に関しては野水のみずさんに報告を上げよう。協会から研究機関にでも回してくれるはずだし」


「俺たちは何か動きますか?」


「現状判断材料が少ないからナシかな。黒の魔石についても知っているのはあくまでもハクの一件だけだし、推測が外れてる可能性もあるから……」


 外れてる可能性があると帆鳥先輩は言うが、その言葉尻はどんどん小さくなっているし、おそらく外れていない可能性の方が高いのだろう。



 兎にも角にも先輩の判断でも動けることはなさそうなので一旦はこれ以上考えることはやめることにする。



 考えても仕方ないことは考えない方が精神衛生上良い。



 何かが起これば潰せばいい。


 その時は帆鳥先輩も動くだろう。

 ならばその時までに俺がすべきは、なるべく力をつけて先輩に付いていく準備をしておくことだ。






――――――――――————————————————————

これにて第一章『騒乱の始まり』編が終了となります。

ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます!


この後はいくつかの閑話を挟んでからから第二章に入っていきます。



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