20 ボス戦
「フゥゥゥッ」
今まで手加減してきたこともあるが、延々と対処的に斬るしかできなかった。
いきなり巻き込まれた
それら全てが、だからどうしたという話でしかない。
無限に生えてくるように思える『手』も、刻一刻と迫るリミットもすべて。
最近たまり続けるストレスの解消にちょうどいいとしか思えない。
敵は
いつも味わう緊張感と比べればお遊戯会にも等しいレベルだ。
「ッシィ」
大上段に構えた剣を全力で振り抜く。
それだけで相手の『手』で埋まっていた通路が大きく開く。
開いた通路に無理やり体をねじ込み、そのまま周囲から迫る『手』を振り払いながら前へ前へと進んでいく。
自身の周囲はすべて囲まれているが、向こうが『手』を伸ばしてくるよりもこちらが剣を振るスピードの方が圧倒的に速いので相手の攻撃が体に触れることはない。
全ての方向からの攻撃に対処するために意識を集中させていく。
よりスムーズに、相手の『手』の動かし方の癖を見つけられるように、斬る瞬間だけでなくそれ以外の動きも感知できるように体すべてで『手』の情報をとる。
「んッ?あ……ッゴフッッ」
相手の動きを完全に読み切り次に来るであろう伸ばされてきた『手』に対して、剣を振ろうとしたその瞬間、背中から肩にかけての装備がガキンと音を立てて詰まった。
そして、対応が遅れ『手』による攻撃を食らってしまった。
「……チッ、今のはラッキーだったな。でも、チョーシ乗んなよ?」
しゃべりもしない、どころか顔も見えない相手にくぎを刺す。
忘れていた。今つけている
いや、正確には別に忘れていたわけでは無い。
迷宮内での移動中はそこまで意識しなくとも問題なく活動できていたせいで、いつもの感覚で動いてしまっただけだった。
幸いにも敵の攻撃はたとえ食らっても一発で行動不能になるような強さはない。
一度退いて今取り付けてる拡張パーツをはずしても敵の攻撃は脅威ではないだろうし、こちらは楽に攻撃できるだろう。
しかし、いつもの万倍楽な環境で、そのぬるま湯につかり続けたままでは、何時までたっても成長などできるはずもない。
難波と一緒にいた時の移動スピードと今の戦闘スピードは別次元で、求められる体の動かし方や繊細さもまた別次元だ。
ただ、それでもさっきまではほぼ無意識下でこの
なら、その時の感覚を今の戦闘スピードについてこられるように研ぎ澄ませばいいだけの話。
特級探索者に必要な力は数多い。
その中の一つに適応能力と呼ばれるものがある。
全てが異常な
実力は足りずとも、偽物であろうとも、それでも特級探索者に名を連ねるのならばこの程度の簡単なことなど出来ろと己に鞭打って、その感覚をつかみにかかる。
無意識下ですら支配してこの感覚に適応する。
自身を追い込み、操作感覚を調整するために周囲の『手』はちょうどいい相手だ。
キツ過ぎず、楽過ぎず、一回で成功しないなら百回試行するだけ。
相手なら周囲に勝手に沸いてくれるのだから――
――――――――――—————
「フゥ……で、それがお前の本体か?」
練習台にちょうどいいと斬り刻みながら通路を進み、
「お前はいい相手だったよ。先輩との訓練じゃどうしても最低限の安全なラインがある。
そんな中お前は弱く、それでいてて数だけは多くて、こっちの命を狙う気があった。
ものすごく……ちょうどいい相手だったよ」
純粋な感謝の気持ちを述べると、目の前の『
おそらく
ただ、面白いからと言って見続ける気もない。
剣を構えて
「お前のおかげでなんとなくわかったんだ。お礼に見せてやるよ」
こちらの言葉なんてわからないはずのモンスターだが、それでも合図が分かったかのように言葉の終わりに合わせて攻撃をしてくる。
相手の箱から出てきている『手』の数は三本。
ただ、そのどれもが今まで見たものよりも太く、速い。
一番速度ののった一本目を先頭からなます斬りにする。
そのまま二本目を迎撃し、三本目に対処しようとして剣を振り上げたところで違和感に気づく。
斬ったはずの一本目と二本目の様子がおかしいことに。既に斬り落として地面に落ちていたはずの先端が僅かに震えたことに気が付いた。
地面に落ちてる欠片の震えが大きくなり、そこから槍のようにこちらに向かって手が伸びてくる。
「ッヌンッ!!」
変な声が出てしまったが仕方がない。
本来動こうとしていた予定とは違う動きで対処したせいである。
これがさっきまでの練習でつかんだ成果。
先輩のやらせたかったことが実感としてわかる。
今までなら地面からの攻撃に気づいても避けようとしただろう。
そういうパターンもあると蓄積して次からは気を付けて、反撃できるようにしただろう。
だが、今は違う。
見て、何が起こったかを考え、分析しながら、ほぼ無意識下で魔力を無理やり操作して強制的に
この
正確には適量の魔力さえ送れば、あとは魔力の操作で無理やり体を動かすことのできるパーツというのが正しい。
だからこそ、先ほどの反撃も頭で考えて体を動かしたわけでは無い。
考えたのは分析まで、反射レベルで魔力を操作して動かした。
次につなげるための蓄積ではなく、今の攻撃すら潰す蓄積をしながらの反撃。
「そんじゃ……終わりだッ」
不意打ち気味の攻撃を反撃でつぶした直後、固まってしまった相手に容赦することなく、滑るように近づきその
「いや~、今回は運が良かったな~」
ボスを倒せたことがそれほどうれしいわけでは無い。
ただ、修行の成果で新しい技術を得られたことはうれしくて、どうしても頬が緩む。
「っとぉ、そんなことより魔石だけでも回収してさっさと外出ますか~」
成長できてうれしいが、現状
なるべく早く脱出するに越したことはない。
そう思いながら一刀両断したミミックから魔石を取り出す。
「……ッッッッ!!!??」
取り出した魔石をしまうために布で拭き、その色を確かめて驚愕する。
驚きすぎて声も出ない。
危うくとり落としそうになって慌てて掴み取る。
取り出した魔石は二色の色がマーブル模様のように入り混じった半分色付きといえる奇妙な色合い。
稀に色付きの魔石にはおかしな色合いが混じることはあるが、これはあり得ない。
出てきた魔石は白と黒の混じった魔石であった。
その瞬間、新しく技術を習得できた喜びも何もかもが吹き飛んだ。
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白斗の新技:実は帆鳥先輩のよく使う技の劣化版みたいなモノ。なお先輩が異常すぎるだけ。
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