18 自信

 ◆◆◆

 ――――――――――



 16歳の誕生日の日、魔石検査を行った。

 魔石検査とは簡易的に行える魔石の吸収能力を調べられるものだ。


 そこで自分の才能を知った。

 機械の補助に頼らないで直接魔石を吸収できる才能。

 つまり、探索者で言う一級になれる才能が俺にはあった。


 探索者になれる年齢に達していなかったのですぐになることはできなかったけれども、18歳になったら探索者になろうと決めた。


 最初父親に反対されていたりしたが、俺の熱量が通じて最終的には折れてくれた。

 それどころか、18歳になるまでに最低限の力はつけておくようにと、現役の探索者を呼んで指導してくれるように頼んでくれた。

 指導は武器の使い方、迷宮ダンジョンの歩き方、気を付けること、探索者の心構えなど、様々なことを教えてもらった。

 そして、そのすべてで指導してくれる探索者からは「筋が良い」と褒めてくれた。


 やはり自分には才能があったのだろう。

 学校や周りでも俺のような才能がある人間はいなかった。


 そして18歳になったその日に探索者として登録をした。

 最初の方は指導してくれた先生と一緒になって迷宮を探索したが、俺はその必要性を感じなかった。

 なぜなら迷宮を攻略するのに先生の力を頼らなかったから。

 俺は最初から一人の力で迷宮を踏破できた。



 やはり俺はもっと早く上にいくべき人間だ。

 『赤平真琴あかひらまこと』は英雄と呼ばれる特級探索者に名を連ねる存在になれるのだと確信した。



 ――――――――――



「ハァ……ハァ、なんなんだよォォォ」


 後ろから迫るのは複数の『手』。


 おかしい、おかしい……ここはミミックしかでない迷宮ダンジョンのはずなのに……


 ミミックに手は生えていない。

 なら、ならば、今自分を追ってきているこの『手』はいったい何なのか?


 分からない……だから怖い。



 手から逃げながら数時間前にあった会話を思い出す。

 

 この迷宮ダンジョンに入る前に有名人と会った。一人は俺でも知ってる英雄『伏野白斗ふしのはくと』。もう一人も見たことはあるが名前は知らない男だった。

 どうやらその男の動画に出れば自身の名を売れるチャンスだと司会の女が言っていた。

 だから声をかけたが、英雄には冷たく笑われ、もう一人にもあしらわれた。


 その際に名前の知らない男――難波なんばから一言アドバイスのようなものを言われた。


「ハハ、今は動画撮ってないし、誰を映すかは平等に決めさせてもらうよ。

 だから君も迷宮でミミックを倒して僕らを呼んでくれたらチャンスはあるよ」


 それはつまり、映してほしければ実力を示せ、というもの。


 ならば、示してやると意気込んで迷宮への探索を開始した。


 目指すは最奥部、いわゆるボスと呼ばれるミミックを倒してあの二人を呼びつけてやると、意気込んで探索が始まった。



 そうして現在、事前に渡されていたマップからボスがいるであろう場所にあたりをつけ、道中のミミックは無視して直進し、ボスと相対して……ミミックの箱の中から出てきた『手』に追われていた。


「なんでだよ!ミミックしか出ねぇんじゃなかったのかよ!チクショウ、騙された!クソ、あいつら次会ったらぶち殺してやるッ!!」


 なぜこんなものに追われているかは定かではない。

 ただ、そのわからない原因を自身に冷たい態度をとった二人だと勝手に決め込んで憎悪交じりの悪態をついていた。



 ◆◆◆



「では、引き続き探索頑張ってくださいね~」


「応援してますよ」


「「はい、がんばります~♡」」


 あれから数組ほどインタビューを終わらせたが、みんなの反応はまちまちだ。

 男性だとやはり憧れや畏怖のような感情を全面に出してくることが多く、女性の場合は今みたいにこちらの顔に集中してしまうような事案が多発する。


 女性二人組から離れていくと先ほどからこちらに向かってニヤニヤした表情を浮かべる難波がカメラを向けてくる。


「白斗さぁ、随分モテモテだね~。やっぱり困っちゃう?」


 普段ならウザいので無視するところだが、おそらく参加者へのインタビューだけではなく、こうして二人が会話するところが欲しいのだろうと会話に応じることにする。


「いや、慣れてるからそんな困ったりはしない。顔が良いのは自分でも認めてる長所だし……」


「っかぁ~~、イケメンは言うことが違うねぇ!僕も言ってみたいよ、そんなセリフ」


「お前も十分イケメンっぽい顔してるだろ?」


「ぽいってなんだよ!ぽいって!そこは言い切れよ……ん?」



 難波が何かに気づくと同時に俺もそれに気づく。


 二人が同時に取り出したのは白斗と難波インタビュアーを呼び出すための端末ではなく、もう一つの似た端末。


 迷宮ダンジョン探索に行く際に携行が義務付けされている必須端末と呼ばれるものがこの迷宮内での緊急信号を受信した。


 どちらも一瞬前まであったおちゃらけた雰囲気を消し、真剣な顔をする。


「難波」


「分かってる。カメラモード『コード:レッド』」


 即座に判断する。


 この迷宮内ではモンスターミミックによる危機はおそらくあり得ない。

 ならば、この緊急信号はおそらく探索者同士、おそらく獲物がかち合ったとか、獲った成果を自慢してキレさせてしまったとか、そういったことに起因するトラブルだ。


 迷宮内であっても故意に人を傷つける様な真似は当然許されていない。

 むしろ外に対して力が幅を利かせている迷宮内での暴行などは外よりも罰が重くなる傾向にある。

 ただでさえ治安という意味では最悪の場所なのだからこそ、その場の秩序すら壊すような存在は容認されない。

 力を持ち、それを振るう立場にいるのであれば、より一層の自制心が必要なのだ。



 難波が起動したカメラモード『コード:レッド』は録画状態であっても即座に配信状態に切り替わり、協会が提携する警察や警備会社にそのまま映像が送られる。

 主に迷宮内での対人トラブルに関してのためであり、これを起動することは、一種の通報と同じ扱いになる。

 万が一迷宮内で刃傷沙汰に及んだ場合。警察や警備が即座に迷宮を封鎖し、犯人確保に向けて動けるようになっている。



 難波もまた同じ判断のもと動き出す。


 既に二人とも信号の発信地点に向けて全力で通路を駆け抜けている。

 これまでのインタビューに向かう際の速度とは比にならない速度を以て現場に駆け付ける。






「うおおああああああああ!!!だれか!だれか、た、たすけてくれぇぇぇぇぇ!!!!」


 現着してまず目に入ったのは、おびただしい数の『手』であった。

 そしてその先頭、緊急信号の発信者であると思われる存在は、先刻絡んできたバカ


 ただし、目の前に映る光景は到底笑って馬鹿にできるような状況ではなかった。






――――――――――————————————————————

カメラ:探索者用の高機能カメラ。配信や投稿が目的でなくとも戦闘を録画して分析に使う人も結構いる。いろいろな機能がついてたりする。その分お値段はお察し……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る