17 インタビュー


「は~、どこにでも馬鹿の一匹や二匹いるもんだな……」


「プフッやめてよ白斗。そういうのは口に出すもんじゃないよ。カメラも回してるしね」


「すまんすまん。でもああいう手合いはうんざりしてるんだよ……」


 二人でのんきに話しながら迷宮の通路を歩く。



 迷宮への準備中に突撃してきた少年。

 彼曰く自身はいずれ特級に届く実力があるので今のうちに動画への出演してやってもいい、という主張のもと突撃してきたらしい。

 聞けば今年18歳。探索者になってからも三ヶ月しかたっていないちんちくりん。

 ただ、今回のミミックハントの抽選に当たったのは自身の潜在的な実力が評価されたからだと言いきっていた。


 まったくもって馬鹿なことを言うなという話であった。

 特級という枠組みに入る才能などそうそうない。

 そして仮にその才能があるならすでにその才能は発見されているはずだ。


 それこそ数週間後受け持つことになるはずの特級候補者も18歳。

 彼と同じ年齢で彼よりも冒険者としての経歴は短いが、それでもその才能を協会から認められている。



 そしてどれだけ才能があろうともあの場でああいうことを言ったりするような輩は嫌いである。

 他にはどこでも勝負を持ちかけてきたりするような奴も等しく煩わしく思っている。

 なんせ今までそういった手合いにはたくさん絡まれてきたから。

 もう飽きるほど対応させられてきたのだから、あしらい方も知っているがそれでも面倒なものは面倒だと感じる。



「ま、仕事は仕事だからね?あの子へのインタビューがあっても嫌な顔したりはすんなよ~?」


「しねえよ……いや、あいつへのインタビューはなしの方向でいk」


「そこはちゃんと平等に扱うよ。仕事だからね。そもそも近場でミミック倒した報告が入ったところに優先的に行くから人は選べないよ」


「チッ」


「嫌がりすぎでしょ……っていうかカットしなきゃいけないとこ増えるからそういう発言禁止ね?」


「分かったよ……あっ」


 しぶしぶ了承したその時、手に持っていたレーダーに反応がある。

 それは、参加者がミミックを倒し何かしらの成果を得られた時に白斗と難波インタビュアーを呼び出すために持たされている物からの反応であった。


「おっ、さっそく一人目の方がミミックか何か得たみたいですね。それでは我々もそちらに向かいましょう」


「楽しみだな~」


 動画用に作られた難波のセリフに合わせてこちらも動画用に用意したものを答える。



 そのまま通路を駆け出す。全力疾走ではないし、今度は途中でこける様なヘマはしない。


 そのままレーダーの反応があったところに到着すると、そこにいたのは年若い男性三名。

 全員周囲の地面に落ちてる戦利品をみてホクホク顔である。


「やぁやぁ、どうも!なんと皆さん、今回が初のインタビューとなります!おめでとう~!」


 高速で走ってくる存在に気づき顔を上げた男性たちは近づいてきた存在が誰なのかを認めるとその顔を輝かせる。


「いよぉぉっっしッ!!俺らが最初だってよ!」


「やっぱりか!入ってすぐに遭遇したし、速攻で倒せたからなッ!」


「これ、動画で使われますか!?」


 三人ともテンションぶち上げで若者らしい反応だが、迷宮に入る前に突撃してきた小僧とは違いこちらは見ていて微笑ましくなる。


「使うと思いますよ~。ということでさっそく自己紹介をどうぞ!」


「あ、え、えっとぉ、俺は猪田健吾と申します。探索者歴は1年ほ……」


「いやちげえって、ココはびしっとだな……俺たち『ジビエーズ』です!ヨロシクゥ!!」


「あ、自分は兎野です」


 挨拶は三者三様。急に自己紹介を振られて緊張する者。勢いよすぎてパーティ名のみ紹介して自分の名前を紹介し忘れている者。冷静に名前を告げる者。非常に面白い。


「なかなか相性とかバランスのよさそうなパーティですね『ジビエーズ』」


「確かに、仲良さそうで羨ましいですね~。それでは早速ですがどのような物を手に入れたのか紹介してもらってもいいですか?」


 今回の仕事は主に難波が主導で動いてくれる。それが本職であるのだから任せた方が良い。餅は餅屋に任せるのが一番である。

 だから俺は感想を添えておくだけでいい。非常に楽な仕事である。


「はい!俺たちが手に入れたのがコレ!剣です!剣!」


「おお~これはこれは、なかなか手入れの行き届いたいい剣に見えますね?白斗はどう見る?」


「おそらく欠けが多かったり、最悪折れた剣だったんでしょうね。ここに送られるものは何も迷宮ダンジョン産のものだけとは限りませんから。元は探索者の使っていた剣でしょう」


「ほぉーう。にしてはきれいな状態じゃない?魔力が通りやすそうな良い武器に見えるけど?」


「それもまた、ミミックの性質の一つですね。取り込んだもの次第ですが内部で合成して一つにまとめたりする個体だとこういうことも起こり得ます。今回はかなり運が良かったんだと思います。よかったですね」


「「「おおおおおお!!」」」


 三人とも自分たちがラッキーだと言われて相当嬉しそうに喜んでいる。

 まぁ、うれしいだろう。ゴミが出てくる可能性のある宝箱ミミックから良さげな剣が出てきたなら誰だって嬉しいものだろう。


 それからいくつか感想を引き出して彼らへのインタビューは終わりになる。


「それでは、引き続き探索がんばってください~」


「「「はい!」」」




 あの男性三人組を相手している間に二つほどレーダーの反応が増えていた。

 他の探索者もミミックを倒して何かしらの成果を得たのだろう。


 レーダーを見て一番近い場所を確認し、再び走り出す。



「やっぱインタビューとかうまいな、ありがとう難波」


 かなりの速度を出しつつ隣を並走する難波へと先ほどのインタビューの感想と感謝を混ぜて送りつける。


「そりゃあ動画で飯食ってますから」


 返ってくるのは当然と言いたげな表情とそれに違わぬ自信を感じさせる言葉。



 先ほどのインタビューで俺は適当に感想を言うくらいになるかと思っていた。

 しかし、インタビュー中にあえてこちらに意見を求め、さらにそこに付随する疑問もぶつけてきたことによって、自然とコメントを引き出してくれた。

 ミミックの性質なんて知っているはずのことをわざわざ聞いてくれたからこそ俺が適当な感想だけ言っておしまいになることもなかった。



 昔からこういった細かな気遣いはできる男だと思っていたが、さらに磨きがかかっているようである。






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ジビエーズ:地元の同級生組で作られた大学生パーティ。ちなみに名前を紹介してなかった男は鹿場。

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