16 開催の挨拶
「ふわぁ~~あ」
「寝不足か?いくら
「いや、大丈夫。このあと参加者に紹介されるからちょっと緊張しただけ」
「ならいい」
「そっちは大丈夫?緊張して眠れなかったとか……まぁ、ないか」
「ないな。それよりもこの装備の方が不安だな……」
「確かにみんなの前でズッコケたりしないでよ?」
「一応昨日のうちに最低限の感覚は掴んだつもりだから……大丈夫……たぶん」
そう言いながら頭の中では昨日のことを思い出す。
昨日は迷宮での下見を終えすぐに宿に戻った。
食事をとってすぐに迷宮内での修行を思い出しながら体に覚えこませるように復習する。
体の中の魔力を巡らせることで昼間の感覚に対応できるようにする。
それ寝る直前まで行う。先輩からは寝ながらでもできるように言われているが、さすがにいきなりできるとは思わないのでそのまま寝たが。
今日も朝起きてから装備を着用して基礎的な動きの確認したので昨日のように走れもせずにズッコケるようなことにはならない……はずである。
集中していると
「白斗、そろそろ時間だから行くぞ~」
「ん、もうそんな時間か……」
しばらく体内で魔力を流すポイントと量を細かく切り替える訓練をしていたらいつの間にか開催のあいさつの時間になったようだった。
そうしてやってきた広場では既に5~60人ほどの探索者が集まっていた。
時間的にはすぐに開催の挨拶が始まるので参加者はこれでほぼすべてだ。
広場に足を踏み入れたらいくつかの視線がこちらを貫く。
しばらくして気づいた人たちの間でがやがやと喧騒が広がっていくのが分かる。
「おい、あれって」
「うっそぉ!」
「『白銀剣』!初めて生で見た!」
「隣にいるの誰だ?」
「マジかよ……今回のライバルきちぃ」
「あれ『迷宮泊』じゃん」
「あー二人って昔から知り合いってネットの記事かなんかで見たことあるな」
「マジか!激レアすぎ」
「せっかく当たったのにぃ~」
「今回は運がなかったかな」
「いや、逆に運あったでしょ、これ!」
「サイン用の紙用意してくる!」
だんだんと周囲の声が大きくなっていく。
歯止めが利かなくなる前に手を振ったりして反応していく。
集まっていた人たちを見ていると隣の難波は何か言いたげな目を向けてきている。
ちらりと目を遣ると向こうも気づいて口を開く。
「いや、なんか思ったよりも若い子が多いなーって思って」
そう言われて周りを見てみると確かに集まっている人は若い。
「確かにな。それに知った顔の一人や二人くらいいるもんだと思ったが案外いないもんだな」
「そうだね。パッと見1級以上は僕らだけって感じかな?」
「だったらこの騒ぎ方も納得いくな……」
今回の抽選で当たった人たちの中に実力の高い探索者はほとんどいないようだった。
だとしても戦力的に不安が残るということはない。
これから入る迷宮はたとえ5級であっても対処法さえ知っておけば死ぬことはない。
むしろ、初心者用の迷宮であると言える程度には簡単な迷宮である。
ただ、実力が低い――未熟な探索者が集まると問題が発生することもある。
それは例えば、戦闘中の探索者同士の誤射だったり、戦利品をめぐる諍いであったりなどが起きやすいということでもあった。
「ま、俺らの仕事はお守りでもないんだし、気にしないでいいだろ」
「そうだけど怖いな~、有名人に会えたってテンション上がって突っ込んじゃう子とかいそうで……」
「やめろよ……そういうこと言うの……」
それで本当に突っ込んじゃう子がいるとさすがに寝覚めが悪い。
一応開催のの挨拶のために人が壇上に登ったあたりで騒ぎの声は小さくなっていったので常識知らずのような奴はいないように見えて少し安心する。
しばらくして皆が落ち着くころに壇上から声が上がる。
「えー、皆さん本日はお集まりいただきありがとうございます。開催の挨拶を務めさせていただきますのは、現役探索者にして世紀の美人司会者こと私『
えー……どうやら先ほどから既に気づかれた方たちもおられるようなので先に紹介しておきますが、今回の探索では二人ほど有名な方をお招きしております」
一時的に落ち着いてた喧騒に再び火が付き、周囲にいる人間は一様にこちらに視線を向けてくる。
まぁ、この場面で有名人二人と言われたら間違いなくこの二人だろうことは誰だってわかるので仕方がないだろう。
「本日ミミックハントに参加していただくのは現特級探索者である
「「「「うおおおおおおお」」」」
「うおおおおお」
なぜか隣で一緒になって声を上げてる馬鹿がいるが、声を上げてしまうと同じような馬鹿と思われるかもしれないので手を振るだけにしておく。
手を振るだけで割れんばかりの歓声が飛んでくる。
「はい皆さんテンションが上がるのは分かりますが、落ち着いてくださーい。落ち着いてくださいねー。
いやー、私もお仕事の話を受けた時に聞いて驚きましたが、今回お二人は探索をメインでされるわけでは無いそうです!!」
その言葉を聞いて周囲の人の顔には疑問と希望を浮かべる顔が半々存在する。
疑問は特級と一級が二人来て探索メインでの参加ではないことへの純粋な疑問。
そして希望は探索メインでないなら成果をとられるような心配がないことへの希望だろうと予想できる。
「今回お二人の仕事はこの祭りの盛り上げと宣伝のため、参加者の皆様の活躍を記録し動画にすること。と、私は伝えられております!
つまりここにいる皆様は難波さんのチャンネル――それもあの伏野白斗さんがゲストとして出ていただける回への出演のチャンスがあるというわけです!
有名になりたい方、自身をアピールしたい方はインタビューの機会がございましたら是非逃さずに頑張ってください!
私はもっと売れたい!!ので!この挨拶シーンも動画で使用されることを祈っております!!」
「「「「うおおおおお」」」」
「だってよ」
「ハハ、面白いから使おうかな」
説明を続けながらこちらに向かってバチコーン☆とウインクしてくる司会の女性。
なかなか根性が据わっている。
自身の売り込みも欠かさないが、それでも開会の挨拶はしっかりとつつがなく進行している。
迷宮内でのルールや気を付けるべきことを話しながらちょくちょく冗談が混じるのは聞いていてわかりやすい説明だ。
そんなこんなで開催の挨拶が終わり、参加者は迷宮に入るための最終確認と準備をしているところに大きな声が響き渡る。
「おい!!!!そこのお前ら!将来有望なこの俺を映せ!!いや、映してやってもいいぞ!!お前らのチャンネルに出演してやってもいい!」
ずいぶんな大声でものすごく馬鹿なことを叫ぶ
まだ、迷宮に入っていないのに不安の種というか、変な奴にあってしまった……
どうやら常識知らずの馬鹿というのは紛れていたらしい……
―――――――――――――――――――――――――――――――
葉梨マーキュリー:ほんとに二秒で考えた名前。話しまくりの葉梨マーキュリー。もちろん芸名。呼ばれれば迷宮内でもどこでも司会・実況をする。最近仕事が増えた。
熱出して更新遅れました。すみません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます