14 お仕事

 先日の緊急会議から5日。

 あれから家に帰り帆鳥ほとり先輩とともに今後のプランなどを考えていた。

 方針が決まったこともありその後アイデアが生まれ、野水のみずさんへの確認を済ませて詳細を詰めていった。

 おかげでいくつかの指導用プランを立てることができた。


 ここ最近はかなり考えることが多い。

 日々の鍛錬は欠かせないし、今後来る候補者用の対策もやらなければいけない。

 さらに普通の仕事が入っている。

 主にテレビの取材だったり普通の迷宮ダンジョンへの探索だったりの仕事である。


 実際に今日から三日ほど仕事が入っている。

 ただ正直に言うと最近のスケジュールの中ではこの仕事が一番楽な気がしている。


 候補者用の対策はどれだけ悩んでも明確な正解やゴールがないため不安の種が尽きない。

 鍛錬の方はモナさんとの戦いにおいて奥の手を使おうとしていたことを受けて、鍛え方が足りなかったからこんなものに頼ってしまうのだ、と言う帆鳥先輩によって以前より圧倒的に苛烈なメニューが組まれ割と毎日血反吐を吐くくらいに地獄を見ている。


 そのためテレビに出るという少し前まであまり好きではなかった仕事が相対的にマシに見えてしまう。



「じゃあ先輩、俺はそろそろ行きますんで」


「うん、いってらっしゃい。向こうでも私の言ったメニューこなすんだよ?帰ってきたときに一目見たらわかるんだから、サボってたら容赦しないからね?」


 しばし地獄のような鍛錬から解放されるかと淡い期待をしていたがそんなことはないらしい。

 先輩が分かるというのであれば、それは本当に分かるのだろう。

 つまりサボっていた場合に待っているのはより絶望的な地獄であることが確定した。


「もちろん、サボる気なんて最初からありませんでしたよ!」


「ほぉーん」


 うん。どうやら先輩の勘は全くの陰りを見せておらず、最高の笑顔でついたはずの嘘は余裕でばれているようである。

 仕事先で意味不明レベルのメニューをこなす変な人扱いされるだろうが、それが先輩の命令であるのならば粛々とこなさなければならない。


 今回の仕事先には昔の知り合いとかもいるし、できればやりたくなかったが仕方がない。

 比較的楽だと思っていた仕事も全然楽じゃなくなってしまった……



 ―――――――――――――――



 鵜飼うかいさんの運転で連れてこられたのはかつては工場だった跡地。

 本日の仕事はとある有名な迷宮ダンジョンに行くこと。

 日本において、というより世界的に見てもかなり珍しい迷宮ダンジョンでの仕事となっている。

 ダンジョンの名は『ミミックファクトリ―』

 世にも珍しいミミック以外出てこないという迷宮ダンジョン

 ココでの仕事は探索をすることでもあるが、主に宣伝をすることである。





「と、いうわけでやってきました。ミミックファクトリ―!!」


「いえーい!いやぁー、ここがかの有名な『箱庭』ですか!」


 ふわふわと浮かぶカメラの前で二人の男が話している。

 一人は当然白斗はくと。そしてもう一人は今回の仕事で相方を務める難波なんばという男であった。




 この迷宮ダンジョンは発見当初ほとんどうまみのないダンジョンだった。

 しかしその状況はミミックの性質の解明により覆る。


 ミミックの基本的な行動は近くにある物質を捕食すること。捕食対象は生物、無生物問わず魔力の籠ったもの。

 そしてその際にミミックは捕食した対象を変質させる。取り込んだ物質を変質させ、それを狙いに来たものをまた捕食する。


 この性質が明らかになったことである実験が行われた。

 即ち、ミミックに餌となるものを与えてしばらく放置して回収するとどうなるのか?

 そんな実験がとある探索者によって試されたことで状況は一変。


 今まで探索の際に取得したが、傷がついているという理由だったり利用価値がないという理由で買い取り金額が著しく低い、もしくは買取不可とされた素材ごみをこの迷宮へと投げ入れ、しばらくしてからミミック狩りを行うことでお金に換える素晴らしきエコ錬金術へと発展した。


 ただ、この行為は個人でやるとトラブルが頻発したため個人での利用は禁止され、現在では市が請け負う形になってこのプロジェクトを進めている。

 


 「今日はそんな珍しいダンジョンのミミック狩りデーということで」


 「今回、マブダチである我々二人は迷宮内をめぐりつつ、他の参加者がどのようなモノを引き当てたのか紹介していきたいと思います!」


「一応伝えておくけど、この迷宮は通常時は入れない特殊指定迷宮となっております!ご注意ください」


「こちらのイベントに参加したい方は普段からこの迷宮に投資を続けて抽選で当たることを祈っておくしかないです!」


「聞いた話によると今回は倍率が50倍くらいあったらしいですね」


「ひえ、そう考えると僕らはかなりラッキーってことですね!」



 そう、この事業自体は市の主導で進められているが、そもそもこの迷宮の中に入れる素材ごみ自体は一般の探索者からも集められたりする。

 その代わりに市は寄付してくれた一般探索者たちからミミック狩りハンターを抽選で選び、迷宮内で得た成果の一部を報酬として渡す形で協力してもらっている。


 実際に探索者からもせっかく迷宮内で得た成果が、売れないゴミになるくらいならとここに寄付をし、さらに運が良ければミミックしかいない迷宮を探索するだけで時に一攫千金できる面白ギャンブルに参加できる一石二鳥のシステムとして人気を博している。



 それがこの迷宮への投資と祈り。


 当たらなかった人たちが大勢いる中、今回は市からの宣伝兼出演依頼ということで二人は参加しているのであった。






――――――――――――――――――――――――――――――


難波:実は3話で名前が登場している。



せっかくネットに一話ずつの形で小説を投稿しているのでどうせならたまにちょっとしたあとがきスペース設けようかなと思います。

一応これまで公開済みの話にも順次付け足していこうかなと思うので、気になった方は是非見てみてください。


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