13 評価

「まずは評価からいこう。馬喰ばくろう、直接戦闘したお前の率直な感想を言ってくれ」


「ん~、戦闘力はまぁまぁってとこかな?階級で言うなら1級中位には勝てるだろうけど上位に居座ってるやつらだと厳しい相手もいるんじゃない?あそこって変な奴多いからさ、ハクっちみたいにいろんなスキルこまめに使って戦うやり方だと相手がごり押しで何とかしてくるやつの時に怪しくなりそうって印象かな☆」


 思っていたよりも高評価なようで何よりではあるが、本来望むべき評価と比べると当然低い。

 まぁ、それは覚悟していた。

 とりあえずは最低限実力を評価してもらえる段階ではあるということだ。そこにすら値しなかったら「ん~、雑魚☆」とか言われて終わりだっただろう。


「うむ、観戦していて感じた印象と同じだな。ただ、細かなスキルの使い方はもう少し評価してもいいだろう。」


「ま、そうかも。最後に使った雷ジジィのパクリ技みたいなのはよかったかな。あれが戦闘で常にできるならもう少し評価上げてもいいかも」


「いえ、確かにあれは音鳴さんからもらった魔石で習得しましたが、俺はあのひとみたく、戦闘中に常時あれを発動させ続けるなんてことはできません」


 最後に使ったスキル『ライトニングステップ』は特級探索者——音鳴響おとなりひびきからもらったスキルである。

 あの人は田舎のご近所さんみたいな感覚で魔石をくれたりするやばい人であるため、前に仕事で一緒になったときにこのスキルの魔石をもらった。

 おかげで使えるようになったが、実際のところほとんど使いこなせていない。



「ま、戦闘の評価はまずまずってところだろう。で、どうだ?特級おまえらから見てこの状態で……騙せるか?」


 戦闘についての評価が一段落したところで野水のみずさんが本題に切り込む。


 ココが一番重要なところだろう。

 戦闘力が高いに越したことはないが、一番重要なのは俺のもとに来てしまう特級候補となる人間がこれまでの『伏野白斗』を疑わないかどうか。

 ストレートな言い方をしたが本当にという点が重要だ。


「たぶん……大丈夫だと……思います」


「ぎりいけなくもないって……感じ?」


「指導の内容に注意を払えば可能といったところだな」


 先輩とモナさんは不安はあるといった感じの回答。

 一番具体的な可能性に言及したのは空霧そらぎりさんだ。


「ふむ……空霧、どういった点についての注意を払うべきだと考える?」


「そうだな、まず直接の技術指導は避けるべきだろう。

 代わりに白斗はその他の部分で指導をすることにすればいい。具体的には領外地帯アドバンスド・エリアでの立ち回りなどについてだな」


「理由は?」


「第一にくだんの人物たちは協会側から特級の候補に挙げてもいいと思われる奴だろう?その強さに関しては疑う必要はないだろう。

 特級と言い切るには難しい実力の白斗は直接的な技術指導を行うのは避けるべきだ。

 第二にいくら強いといっても彼らは領外地帯アドバンスド・エリアでの探索は行ったことはないはずだ。

 この点に関しては白斗の方が圧倒的にアドバンテージがある。実力が足りなかろうが迷宮発生以来領外地帯アドバンスド・エリアで活動し続けた白斗の経験は得難いものだからな」



 うん……めちゃくちゃ全うな意見である。


 現状においての問題点とその問題に対する解決策の提示。

 考えうる限りで最大の対策といえる。

 頭の中で候補者たちの実力が上であることから俺が指導できることなんてないんじゃないかと考えていたし、どうにか実力をごまかす方法を見つけようとしていたが、確かによく考えたら俺にもアドバンテージとなるものは存在していた。

 


「おーなるほど」


「それならハクっちでもいけそうかも☆」


「ああ、その方向性なら文句も出ないだろう」



 他の三人もうなずいている。

 これが特級という自我の塊のような集団をまとめることが可能な男の力だと思うと尊敬の念がわいてくる。




「それはそうと伏野ふしの様、指導をなさる候補者の方は誰にしますか?」


「え?それって決まってる話じゃないんですか?」


 今まで話に入っていなかった一ノ瀬さんから投げかけられた質問に逆に質問を返してしまう。

 依頼が来た段階で既に誰を担当することになるのかについての記述があったはずだ。


 おそらくそれを決めたであろう人物に疑問の目を向ける。


「あ~それな、一応言っとくが依頼書に嘘はねぇ。

 ただ、そもそも今回のやつらは4人中3人がお前について欲しいっていってたんだが、それは俺が何とか阻止したわけだ。

 その際に、いろいろと条件つけて競わせたりして一番よさげなやつをお前の担当に決めたんだが、三人にはその結果をまだ伝えてねぇからな……

 今なら色々とやれば変えようはあるって話だ」



 なるほど……野水さんは野水さんでいろいろと手をまわしてくれて入れたらしい。

 本当に頭の下がる話だ。



 改めて手元の資料に目を落とし、候補者たちの情報を見ていく。


 ただ、どれだけ見ても正直あまり変わらない。

 書いてあるのはどれも候補者たちの経歴についてだが、どいつもこいつも意味の分からん功績をぶち立てている。

 これが全員年下で、なおかつこちらに憧れをもってくるなど、どう考えても絶望するしかない。

 今からでも可能なら全員断りたいところだ……


「いえ、そこに関しては変えなくて大丈夫だと思います」


 全員お断りだなんてそんなことは不可能だ。

 それならば野水さんの考えた中で最良の相手をとる方が何かとうまくいきそうである。


「そうか、じゃあお前が担当することになるのは『鬼嶋きじまアリア』で決定になる。

 上との話し合いをしつつ予定を調整するだろうから、多分開始時期は早くて二週間後、遅くても一か月後くらいになると予想しといてくれ」


「わかりました」




「うしッ!仕事の話は終わりだな!集まってくれたお前らもお疲れさん。

 これから飯でもどうだ?ここにゃ特級が三人もいるんだ。接待のために相当な高級店に行こうがなーんも文句なんて言われねぇぜ」


 仕事の話が終わると野水さんはまるで小躍りでもしかねないようなテンションで全員をご飯に誘っている。

 会議前までは死にそうなくらい疲れていたが、始まる前に数分の休憩をとっただけで元気になった。

 この人もたいがい人間やめてる気がする……



 それは差し置いても高級店に連れて行ってくれるというのであれば是非とも連れていててもらおう。

 しばらくすれば地獄が始まるのだ。せいぜい英気を養わせてもらうとしよう。



「「「「「「ゴチになります!!!」」」」」」



 会議室に六人の声がこだまする。






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この後:行ったのは超高級焼き肉店。経費です経費

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