6 日々トレーニング


「148……149……150っとぉ」


 それまで担いでいたバーベルを床に置く。

 バーベルの重量は150㎏。この重量を担いだまま余裕でスクワットをできることも、まだまだ余裕がある体力も、すべては魔石吸収による恩恵である。

 

 汗をぬぐいながら横に置いていた魔石を吸収する。

 巷では疲労時に魔石を吸収したほうがより強くなれる。ということが眉唾のうわさとして言われているが、割と本当にそうだと思っている。

 自身の体を追い込んだ後だったり、迷宮内で吸収するほうが強くなる気がする。まぁ、多分気がするだけだが……



 ―――――――――――――――



 魔石——迷宮ダンジョンに生息するモンスターが体内に持つ核のようなものであり、6年前に世界が変わったときから今現在までで、最も世の中を変えることになった物質の一つである。


 魔石の使い道はエネルギー産業、武器関連、など多岐にわたる。


 しかし、その中でも最もおかしな効果をもたらすのが人体への吸収である。

 魔石とは結晶化した魔力の塊。

 ただの魔力を人体に直接注入しても人は強くならない。魔石という未だに謎の多い物質を経て人体への吸収がなされた時、初めて人の体は規格を超えた強さを手にすることができる。

 そして、魔石吸収の恩恵は単純な身体能力の強化だけにとどまらない。

 魔石にもその純度によって等級があるが、3等級以上の魔石から直接吸収を行った場合、その魔石の本来の持ち主であったモンスターの一部の特性——スキルを獲得することが可能となる。


 この2点の特性によって6年前と比べ、人ひとりの持てる力は圧倒的なものとなった。



 ただし、圧倒的な力を手に入れられるかどうかは、以前と変わらず才能による部分がある。むしろ、魔石吸収という成長手段が存在し、それによって持てる力の上限が上がったせいで、以前よりも才能の有無による差は広がったともいえる。



 才能の差——それは、魔石吸収ができるかどうかの差である。



 それはあまりにも残酷な差であり、迷宮が出現するようになった超常の世の中においても未だ『ただの人』である人間と『超人』である人間がいる理由である。



 才能の差は絶対的かと問われれば、必ずしもそうであるというわけではない。世の中にはわずかだが例外というものも存在する。

 だが、その例外以外のほとんどは、才能の差に従って持てる力に限界がある。



 現在では世界中で採用されている探索者制度。そこに属する探索者たちは実力によって6段階に分けられている。一番下は5級、基本的に上がれる階級で一番上が1級。そして例外的な力を持つ、英雄と呼ばれるにふさわしい人物のみに許された特級。


 この6段階による階級差の中でも才能によって壁が存在する。



 4級と3級の間に存在する『吸収の壁』


 2級と1級の間に存在する『技の壁』


 そして、1級と特級の間に存在する『人の壁』



 まず、一番下の5級と4級。この階級に属する者は、基本的に魔石の吸収ができない者たちがほとんどである。

 一応探索者になった人間は等しく5級からスタートするので吸収できる者もいるが、そういった人間は早々に階級を上げる。

 そのため一般的に、4級より上に上がれず停滞している者は『魔石吸収の才能』がない者たちと呼ばれている。

 それでも探索者としての活動が可能なのは、魔石を武器の動力として動かす魔石武器の技術が発展したためである。



 次の層である3級と2級。この階級に属する者も、魔石の吸収ができない。正確に言うのであれば、機械による補助がないと魔石の吸収ができない。

 迷宮が発生するようになって半年後、それまで極々一部の人間にしか不可能であった魔石の吸収。その方法を分析し、エネルギーとして抽出できないかを調べていた時に生まれた補助具によって、それまでよりも多くの人間が魔石吸収の恩恵を受けることが可能になった。

 ただし、吸収は4等級以下の魔石でしか不可能となっている。

 3等級以上のスキルを得れる魔石を機械の補助ありで吸収しようとすると、激痛が走るし、吸収しきれば数時間ほどで体が崩壊する。

 そのため3級と2級は身体能力が高いが、『スキルを得る才能』がない者たちと呼ばれている。



 そしてその上、1級。この階級は、魔石の吸収という才能においてできないことは何もない。

 最初からできる者たち。なんとなく魔石に触れれば知識がなくとも吸収可能な者たち。1級の皆が口をそろえて言う


「なんとなく吸収できることがわかる」


 人の枠を明らかに超え、超スピードでの戦闘、それに対応する神経、そして超常的なスキル。

 一般に人間の枠組みを逸脱した超人。基本的に才能のある者が到達できる最高地点であると言われている。

 その1級をもってしても特級との間には差があると理解できる。いや、才能があるからこそ、わかる。自分たちと同じはずなのに全く違う者たちだと。『人として隔たりがある』そう感じられる存在が特級という枠組みにいるのだと。



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「あー、気持ちわる……」


 魔石の吸収は才能だ。できるかできないかは本人の資質次第。

 初めの森で狼から出てきた魔石を、帆鳥ほとり先輩だけが吸収できて、俺や鵜飼うかいさんが吸収できなかったのも才能がなかったからだ。


 探索者としての俺はせいぜい2級までしか登れない。本来ならば俺の才能はそこで頭打ちとなるはずだった。

 英雄を名乗るにはどうあがいても力不足でしかないはずだった。



 だが、世の中にはごく少数ながら例外というものが存在する。



 魔石の吸収とは別の特別な才能があったわけではない、先輩への憧れの気持ちで世界の法則を捻じ曲げたわけでも、唐突に秘められた力が覚醒したわけでもない。


 ただ、運が良かった。命を投げ出すほどの覚悟を決めたら、たまたま救いの手が差し伸べられて、その手をつかんだら魔石を吸収できるようになっただけだ。


 そんな運で手に入れたまがい物の才能だからか、魔石の吸収をするとものすごく気分が悪くなる。体調が悪い時の3倍くらい気持ち悪くなる。


 それでも魔石の吸収はやめない。どれだけ気持ち悪くなっても、英雄と呼ばれる人と同じ舞台に立とうとするなら必要なことだから。






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白斗の才能:10段階中6くらい。覚悟決まってる民なので+1か2くらいあるかもしれない

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