第31話 流行りに乗りたい!

 休日明けの月曜日、昼休憩からずっとスマホに目を向けていた。


 数秒単位で大塚とメッセージにてやり取りを交わしていたのだが、どうやら穏やかではなさそうな雰囲気だ。


「ん、大塚さんからか?」


「あぁ……」


 食堂に一緒に食べにきていた秋人からそう言われた。


 水族館以来、あの場にいた秋人には大塚との関係を粗方知られたため、別に隠す必要もなくそう答えた。


 こいつのことだから、知られていないことまで予想して勝手に解釈しているのだろう。


 食べ途中のカレーに再びガッついた秋人も尻目に、スマホに目を落とした。


 つい昨日のことの水族館でのできごとで迷惑をかけたのならごめんだとか、美玖と秋人によろしく言っといてという、何とも大塚らしい謙虚な話題だ。


『でも、昨日は本当に楽しかった』


『もしまた機会があったら一緒にどこか行こうよ』


 なんて提案されて断る理由はどこにもない。


『次はもう少し遠出してもいいかもしれないな』


 季節はもう過ぎ去ってしまったが、海に行くなんてのもいいかもしれない。


 ここが海から遠い場所の地域であるが故に、移り住んでからこれまで海に行ったことはない。


 昔はよく友達と遊びに行っていたんだが、それももう遠い過去の記憶となってあまり覚えていない。


 大塚から送られてきた「OK!」と親指をグーにしているオジサンのスタンプを最後にメッセージは終了して、少し早めにご飯を食べ終わると秋人に続いてトレーを返却しに行った。


 ここ最近で大塚とのメッセージによるやり取りは頻繁に行われているが、そんな大塚よりも断トツで多くメッセージを交わしている人物が他にいる。


 制服のポケットに入れているスマホは今もブッブッとメッセージが来ていることを知らせている。


 ここのところ一方的にメッセージが飛んでくるから半ば無視しながらも度々目を通している。


 そんな彼女に放課後呼び出されており、六時限目の授業が終わってから淡々と支度を済ませて、一人部活に急ぐ生徒に次いでセカンドバッターとして教室を後にした。


「やっ、榎本くん」


 昇降口を出た直後のところで待っていた夕紀がひょこっと顔を出してきた。


 他の誰もいない二人きりの時はこうして軽い感じで話しかけてくるのに、第三者がいるとこうもいかず、途端に辿々しくなったと思ったら一言も発さなくなってしまう。


「ねぇこれ見てよ。ここに行ってみたい」


「……イチゴがたっぷりのった贅沢だらけのビッグパフェ?」


 ご機嫌な様子でスマホの画面をこちらに提示してきた。


 そこには、最近SNSで話題のパフェが食べられると大々的に書かれた広告が映っていた。


 場所は今俺たちがいるここからそう遠くない、一駅先の駅近にあるスイーツ専門店だ。


「ここに今から行くと、俺とお前の二人で?」


「そうだよ。私一人では到底足を踏み入れることなんてできないからね、榎本くんと行くことでダメージを和らげようと思ってる」


「なるほど、リア充からの雰囲気攻撃か」


 俺や夕紀からしたら、そういった場所へ行くことに大きな抵抗がある。


 場違い感だったり、周りからの視線が気になってしまうのだ。


 だがどうだろう、俺という同類を連れていったところで効果はあるのか。


 しかし夕紀がこういった流行のスイーツを食べたがるのは少し意外とも思えた。


 言っては悪いが、どこにでもいる女子高生とは変わっているためにそういったものに興味がないのかと勝手にかんがえていた。


「だーーーんっ、ここだよ!!」


 電車を乗ってものの数十分で到着したのは、オシャレなカフェのような建物だ。


 特に彩られていないシンプルな外装は古民家を漂わせるように、それがむしろオシャレと思わせられる。


 派手なパフェというよりは、コーヒーをゆっくり飲みながらシンプルなショートケーキを食べるという方が合っていそうだ。


「ここは放課後になると他方の女子高生たちがたくさん来るらしいんだよ。だから早く……入ろ………」


 俺たちの横を通り過ぎて入店していった女子高生二人組は、片方がレッドヘアーにもう片方が金髪というド派手っぷりだった。


 そんな彼女らを見ただけで圧に押されて声量ダウンしてしまった夕紀を連れて、俺たちも早速入店することにした。


 外装に違わず落ち着いた雰囲気の店内には、多くの学生で溢れかえりそうなほどだった。


 奥のテーブル席が空いていたため、そこに通された。


 他にもソファ席やカウンター席など、今風でありながらもやはりレトロカフェをイメージしているような感じがしている。


 夕紀と対面になってイスに着席し、テーブルに置かれたメニュー表に目を通していく。


「おっ、いろいろあるじゃん。どうしよっかな〜……夕紀はどうする?」


「わ、私はっ、べべ別にどれでも……」


「……いやパフェ食べにきたんだろ」


 俺たちの席の両隣には同年代と思われる女子高生がスマホ両手に写真を撮ったり、自撮りをしたりと楽しんでいる。


 どのテーブルにも、広告で見たビッグパフェがある。


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