第24話 狙うは3!

 教室を出て、クラスメイトの集団について行きながら更衣室へ入った。


 今日は二時間分の体育の授業がある日。


 事前に知っての通り、体育祭の種目を決めるために今日は測定をメインに行う。


 そうとあってか、更衣室ではやる気を見せている男子が意気揚々とがやがや騒ぎながら体育着に着替えている。


「足の速さなら誰にも負けないからなっ!」


「よっ、東葉高校の盗塁王!!」


「聞こえはいいけど、こいつバッターとしての才能は全然ないぜ?当たりゃ逃げれるだろうけど、三振が当たり前だからな」


「まだこれから成長するんだよ……!いいだろ、野球部の中じゃ誰にも負けないんだから」


「じゃあ体育祭では我らが盗塁坊主に活躍してもらおうかっ!」


「坊主じゃつまんねぇよ。盗塁坊やでいいんじゃねぇか?応援のときに皆んなで叫んでやろうぜ」


「おっ、それいいなやろう」


「お、おい!なんか全然格好良くないぞそれ!?」


 俺はそそくさと着替えを済ませて早々に更衣室を出た。


 今日測定するのは1500メートル走と、二時間目に100メートル走とハードル走だ。


 二日に分けてやればいいものを、なんと来週再来週と体育の授業が潰れていることが判明した。


 体育祭についてクラス内での話し合い兼メンバー決めをその時間で行うらしい。


 一時間目は1500メートル走を行ったら後は休憩の時間となり、体力を十分に回復させてから二時間目の測定を行うという流れ。


 グラウンドに出てみれば、そこにはクラスの女子たちの姿があった。


 男女合同で測定を行うというのは聞かされていなかったな。


 更衣室から出てきた男たちはその光景を目の当たりにして、より一層──いや三層くらい──やる気を倍増させて自信に満ちた表情ではじめの準備体操を行っていた。


 女子たちの中には当然大塚の姿もあり、彼女の体育着姿を一目見た男どもはその目に炎を宿さんばかりの熱気を辺りに漂わせているのが伝わってくる。


 しかしその予想に反して、1500メートル走がスタートしてからほんの二周──グラウンド一周200メートル──で大半の生徒の勢いが落ちていっているのが目に見えて明らかだった。


 スタート直後は快進的な走りで爆走していたが、当然ながら中距離走でそんな無謀なことをしてしまえば後半で大きく失速してしまう。


 やる気だけは人一倍あった男子は次々とトップ集団から離れていき、先頭を走っているのはやはりこの男、佐古田大喜だいきだ。


 その周辺にはサッカー部や陸上部がすぐ後ろを走っている。


 当然俺もその集団の中にいる。


 この集団から遅れをとってしまえば1500メートル走の種目に立候補することはほぼ叶わないだろう。


 佐古田をはじめ、俺の前を走っているクラスメイトたちは俺がここにいることに驚きの表情を浮かべながら走っている。


 帰宅部で影の薄い生徒だと思われていることは百も承知。


 だが俺だって週三で家の周りをランニングしている。


 一時もトレーニングを欠かしたことはない。


 一位にはなれずともこの中で上位三名に入ることができればそれで構わないのだ。


 最後までトップ集団に食らいつき、前に二人いる中の三着でフィニッシュした。


 向けられる視線の数々を背中に受けながら、グラウンド裏に設置されている水道水の蛇口がある方へと向かった。


 走った後に飲む水は例え水道水であってもおいしく感じる。


 普段ならばカルキの味がして嫌なのだが、今はそれすらもおいしく感じる。


「三位おめでと、榎本」


「……大塚か」


「まさかとは思うけど、ちょっと手を抜いてたんじゃないの?」


 俺は蛇口を捻って水の勢いを止めて後ろへ振り返った。


「まぁ……できる限り体力を温存しておきたいし、それに一位を取るわけにもいかないだろ」


「………ホントに速いんだ。流石にちょっと驚いちゃった」


「努力してるからな、これでも」


「元陸上部だったりするの?」


「……外れだ」


 陸上部から見たら俺の走るフォームは決していいものではないだろう。


「もしかして野球部?」


「…………剣道部だよ」


「そうなんだ、ちょっと意外かも。あれ、でもこの高校にもあるでしょ、剣道部。入部しなかったんだ」


「いろいろと事情があってな」


「ふーん……色々ね」


「そう、色々とだ」


 それ以上大塚が聞いてくることはなく、次に女子の測定があるため先に戻っていった大塚の後ろ姿を眺めていた。


 授業の後半が休憩時間となったその次の時限、全員が自由に体力を回復させた後は100メートル走とハードル走の測定を行う。


 俺が頑張るべきは100メートル走のみ。


 ハードルなんて飛び方すら分からないし。


 100メートル走の種目にエントリーできるのは各クラスから七名までとなっている。


 美玖から事前に情報をゲットしておいたおかげで、大して頑張る必要も無くなった。


 しかし七位圏内ギリギリで入ったところで、もう一つの肝心であるリレーアンカーになれる確率も低くなってしまう。


 となると、やはりここも三位を目指す気持ちで頑張らなければいけない。


 測定を行う前に先生から手順の説明を受けることになった。


 それを聞いて、確実に三位に食い込める確率が上がってきた。

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