第21話 ぼっちとギャル
「……悪りぃ、さすがに無理だったか」
「ひどいよっ……!?なんであんな事、……私が加藤さんと喋れるわけないじゃん!!生きる世界そのものが違う人と会話するなんて、有り得ないんだよ!!?」
言い切っちゃったよこの子。
「そこまで言うほどのことか?案外加藤さんと夕紀は仲良くなれると思ってるんだけどな、俺は」
「それ!その俺は、って付け加えた!少なくとも自分はそう思っているだけで実際のところは分からないから知らないけど、っていう保険かけたでしょっ!?そうやってまた私をあの人の前に放り出して殺そうとするんでしょ!!」
涙目になりながら力の限り言い尽くした夕紀は、息が上がってハァハァと疲れている。
「あー……ごめん、さすがに同じことはもうしないって。まさかここまでとは思わなかったからさ……、この件は俺の方から今度言ってみるよ。これでいいか……?」
「…………うん」
許してもらえたようだ。
しかし、そうか。
美玖は夕紀にとってはそんな風に見えていたのか。
彼女に美玖と仲良くなれるかもしれないと言ったことは本音からのものだったんだけどな。
もちろん素の美玖と、なのだが、波長というか気が合うと思っている。
この件はとりあえず俺の方から美玖に伝えるとして、今度二人をまた合わせてみてもいいかもな。
もちろん夕紀を騙した形ではなくしっかりとセッティングした上での話だ。
美玖にとっても、夕紀にとっても気を許せる同性の友達となれるかもしれない。
「ピコンッ」
スマホの通知音が鳴り、制服のポケットから取り出して見てみると、美玖からだった。
『あとで詳しく聞かせてもらうから』
「………」
とりあえず『はい』とだけ打って送信しておいた。
「ね、ねぇ……なんかあの人、こっちに向かって来てない……?」
俺の制服の袖を強引に引っ張ってきて、廊下の方向を見ている夕紀。
「なに………」
スマホの方に落としていた視線を前へ向けた。
廊下に俺たち以外に誰もいない中で、確かにこちらの方向に一直線に向かって来ているのは大塚だった。
いったいどういうつもりなのだろうか。
「藍川さん、だよね。期末試験で榎本の一つ上の順位だった」
「あっ、えっと………その」
しどろもどろになりながら、大塚のから顔を背けた夕紀。
たった短時間で夕紀が極度の人見知りであることが分かっている。
「図書室で私と榎本のことを見てたでしょ。私と目が合った途端どっか行っちゃったけど」
「あっ………その、人違いとか………」
「絶対ない。だって私と目が合ったでしょ?」
「うぅ…………」
誤魔化そうと試みてみるも、大塚の圧に負けて呆気なく終わった夕紀。
あの時、大塚に勉強を押していた光景を夕紀に見られていたのか。
「本当なのか、夕紀?」
「…………うん」
今更誤魔化すこともせず、素直に首を縦に振った。
美玖と登校していた姿を目にして、図書室では大塚といたところを見られていた。
「夕紀………、お前もしかして俺のこと──」
「違う、違うのっ!ただ……気になっちゃってて、その気がついたら後を追ってた………的な」
「それをストーカーって言うの」
即座に大塚がズバリと言い放った。
「うぅ……だってぇ………、キ……榎本くんしか頼れる人がいなかったんだもん。こうやってようやく友達になれたのに………お願いだから見捨てないでぇ…………」
「いやさすがにそこまではしないけどさ……」
夕紀って、もしかしなくとも友達がこれまで一人もいなかったのでは……?ということは今は本人に言う必要がないので黙っておく。
「……まぁ、そのストーカーまがいのことをしていたのは大目に見てやるよ。でもこれからは友達の関係なんだから、後をつけることはするなよ?」
「……はい。ありがとう……榎本くん」
ぺこりと頭を下げて謝罪してきた夕紀に対して、これ以上その話をすることはなくなった。
「それでさ、あんたたちは何してたわけ?単なる友達同士で歩いてた……ってのは違うって分かったけど」
「あぁ、ちょっと体育祭実行委員会の方に顔を出してたんだけど、それももう済んだ。な、夕紀」
「うん」
「…………そっ、ならいいけど。ねぇ榎本、今日の放課後ヒマなら付き合ってよ。ちょっと話したいこともあるし。詳しくはまた連絡するよ」
「別にいいけど……」
「じゃあそういうことだから。私はもう行くね」
そう言って、俺たちの横を通って反対方向の廊下を歩いていった。
わざわざそんなことを言うために話しかけて来たのか……?
口頭で暇かどうかを聞いてくるなんて大塚らしくないなと感じた。
だってそういうことは必ずと言っていいほどメッセージで言ってきていた。
「なんか、大塚さんってイメージ通りというか……ちょっと怖かった」
「え……?」
「いや、だってさっき去り際に睨まれちゃったもん、私。あっ、連絡先交換しよーぜ榎本くん」
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