第17話 競い合う者たち
試験の結果が出るよりも前に、各々の生徒たちは次の行事へと気持ちを転換していっている。
それぞれの委員会に属している生徒は、試験が終わったことで本格的に仕事に取り組んでいるようで、美玖も忙しそうに体育委員を務めている。
俺はというと、特に何にも所属していないため、体育祭の準備が始められている様子を遠くから眺めているだけだ。
部活に所属する者は早速とばかりに練習を再開し、試験勉強の休間で鈍った体を叩き起こしているその風景を、俺は朝から目にしていた。
試験期間でピリついていた教室にはいつも通りの賑やかさが戻り、されど俺にとっては居心地が悪かった。
昼休憩の時間になり、一人で食堂へと向かった。
今日は秋人はサッカー部の昼練があるため、食堂でも一人飯をかますことが決定している。
トレーを手に取って、直感で食べたいと思ったものをおばちゃんに伝えると、ものの数十秒でトレーに乗せられた。
早めに食堂に来たから、まだ多くの席が空いている。
適当に周りに誰もいないところを選んで、手に持っているトレーをテーブルに置いた──。
俺がトレーを置いたのと同時に、右隣で同じようにしてトレーをテーブルに叩きつける様子が視界に入った。
「となり、いいかな?」
「えっ…………、はい……」
誰かも知らない女子生徒が、周囲がガラガラに空いている中で俺の真隣に座った。
身につけているリボンを見るに同学年……なのだが、同じクラス………ではないだろう。
明らかに始めてみる顔だ。
「どうしたの、そんなに私が不審に見える?」
「い、いや。ただ少し驚いているっていうか……」
当たり前だが、不審人物にしか見えていない。
誰だよお前。
「同じクラス、じゃないよな……?」
「違うね。キミ、1ーBでしょ、私はAだもの」
「そ、そうだよな………。えーっと……もしかしてどこかで会ってるとか?」
一応、確認をしておく。
「これが初対面じゃないかな。私が覚えてないってことも、多分ないし」
そう言いながら自らの昼食を食べすすめていく謎の女。
えっ…………は?
じゃあなんでわざわざ俺の隣に座ってきたんだよ。
意味が分からなすぎて、目の前の昼食に手が出せずにいると、女が口に含んだものをゴクンと喉に通してさらに水を一口流し込んでから、サラッと一言放った。
「キミさ、大塚ありさと付き合ってるの?」
そう言ってから再び食事を進めている。
「はぁ……?何言ってんの?」
「だって、放課後の図書室で密着しながら勉強をしていたじゃないか。あの光景を見ればキミと大塚ありさが付き合っていると考えても不思議じゃない」
放課後の図書室……あの場で見られていたということか。
特別周囲の目を気にしていなかったから、誰かに見られているかもしれないとは思っていたが……。
これを周囲にバラされると面倒なことになってしまう。
「分かるよ、キミの考えていることは。だけど安心していい。別にバラすつもりもないし、何ならこれを弱みにして脅迫することもしない」
「……じゃあ何でわざわざ俺に言いに来たんだよ。これを言うために俺に近づいたってことだろ」
「おいおい、だから何もする気はないって言ったばかりじゃないか。私はただ、キミに私のことを知って欲しくてここ来ただけだ。そして、私もキミを知りたい」
「分からないな。何を企んでるんだ……?」
「今日を機に、それから今後、私はキミのライバルのような存在になりたい。私の名前は
そう言って、いつの間にか食べ終わりトレーを持って席を立った。
困惑する俺をおいて、夕紀と名乗った女は振り返ることなくそのままこの場を去っていった。
苗字を言わずに下の名前だけで名乗ったやつは彼女が初めてだった。
試験結果は、先に各科目ごとに答案用紙が返却されて、生徒自身で採点ミスがないかを確認する。
いずれも不備がなければそれらの結果を集計して合計点だけが記された紙が廊下で公開掲示される。
中間試験とは異なり、全9科目の試験が行われた今回の期末試験。
試験が終わってからおよそ一週間で全ての科目の答案用紙が返却された。
どの科目も大したミスは見当たらず、ケアレスミスをところどころしていたのが少し目立っていた。
集計が終了したのか、翌週月曜日に公開掲示を行うと、金曜日の放課後に担任から連絡があった。
流れるように過ぎていく退屈な休日を過ごし、当たり前に家には美玖が入り浸っていた。
日曜日の夕方に、大塚から連絡があった。
俺と図書館で勉強していた姿を見られていたことを伝えたが、本人は何とも思わず気にしていないらしい。
それならば俺もとやかく言う必要はない。
月曜日の朝、少し遅れて家を出た。
一人で学校までの道のりを歩いていく。
事前に美玖から、今日は先に行くとの連絡を受けていた。
下駄箱で上履きに履き替えていると、スマホから通知音が鳴った。
『あんた凄いね、本当に頭良いんだ』
唐突にこんなメッセージが送られてきた。
おそらく開示された試験結果を見たのだろうか。
この高校での初めての試みとあって、今日一日は校内が騒がしくなりそうだ。
読み通り、廊下に設置された掲示板には多くの生徒が群がっていた。
「おっ、楽」
俺の姿を見て近づいてきたのは秋人だ。
「もう見たか、掲示板」
「いや、今登校してきたばっかだ。順位はどうだったんだ?秋人なら結構上行くんじゃねぇか?」
「……いや、思ったよりも上がいたよ。楽よりも下の七位だった」
悔しがる素振りを見せてはいるものの、してやられたと言う風に笑っている。
俺も掲示板に目を通すべく、生徒が群がる中心へ入ろうとした。
すると、おもむろに周囲の生徒が俺に道を開けるようにして掲示板の前から退いてくれた。
生徒の名前と順位が紙一面にズラーっと書き出されている。
秋人が言ってくれたおかげで七位のところから順に俺の名前を見つけていく。
最初に見えたのは、秋人の一つ下にある美玖の名前。
それから何人か知らない名前が続き、四位にまさかの人物の名前を発見した。
三位には、俺の名前があった。
そして………………
「え、なんか外国人混じってる」
──────
──────
1位 Sienna Anderson 891点
2位 藍川 夕紀 887点
3位 榎本 楽 884点
4位 安藤 孝介 879点
……
7位 最上 秋人 870点
8位 加藤 美玖 869点
…………
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