第16話 何がどうというわけじゃない
金髪ギャルが好みという男も一定数いるのだろうが、俺は圧倒的清純派を推したい。
優しい喋り口調で、まるで天使のような清楚系美少女──…なんていうのは、まぁ……妄想膨らませすぎの非リアオタクの脳みそによる考えになってしまう。
「……あっ、でも大塚は何気にギャップが凄いよな。そんな見た目なのに、中身はまるで清純派のいいやつだし。そのギャップ萌えは男には刺さりまくりだろうな」
「褒められてるって思ってていいんだよね……?」
「当然だとも。大塚が外も内も最悪の正真正銘ギャルだったら、それは正しく俺の苦手なギャルだ。あのとき大雨の中助けたのがそんなのだったら、今頃は学校中に有りもしない偽話を流されて、俺の高校人生がたった一年目で終了していた」
そう、一度はそんなことも考えていたが、今俺の知る大塚からは全く有り得ないことだ。
「それはいくら何でも考えすぎでしょ。何から何まで本当に感謝してるんだから」
「うぅ……ちょっとだけ大塚を家に泊まらせて良かったって思えた」
「……ちょっとだけなんだ」
食べ終わった後の食器を台所まで持っていき、お詫びに食器洗いをやろうとしたら断られた。
以前の時と同じシチュエーションで借りを返さないと気が済まないらしいため、ここは潔く引き下がって一人リビングでくつろいでいた。
やがて食器洗いが終わったのか、大塚が戻ってきて二人で何もすることなく床に座っている。
「………クッション、いや座布団くらいは欲しいな」
「それは私も思ってはいるんだけど、中々買いに行く暇がなくてさ」
「明日は試験の振替で休みになってるぞ。時間はあるんじゃないのか?」
「明日は………その、バイトが入ってるの」
「バイト………」
数秒の間ポカーンと頭が考えることを止めてしまっていた。
あまり知られていないが、うちの高校ではバイトは禁止されていない。
ただ部活動に所属することを積極的に推進している意味の分からない校風で、無所属の生徒がほとんどいない。
部活をやっていればバイトどころではないからな。
「バイトで稼いだお金って、やっぱり遊ぶために貯めてるのか?」
バイトをしたことがなく、好奇心で聞きたいことが幾つが出てきた。
「他の人はそうかもしれないけど、私の場合は生活費のため……かな」
「あっ………、ごめん。色々と事情があるだろうに余計なこと聞いた」
「いいよ、全然。あんたに非がないことくらい分かってるから。ただ少し、他とは複雑なだけだよ」
一人暮らしをしているのだって事情があってのことだと、以前に大塚が言っていた。
「ここの家賃とか光熱費なんかも出してもらってるから、実際はそこまで大変なわけじゃないよ。週二でしかバイトも入れてないし」
両手のひらをこちらに向けてフルフルと振っている。
だから全然気にしなくていいよ、というような大塚の想いが伝わってくる。
「………バイトか。俺もやってみようかな」
暇で勉強しかしていない日々も別に嫌ではないが、これを機に俺もバイトをして自分で稼ぐということを経験してみようと思う。
俺が生活する上での費用は全て親が出しているが、娯楽のためには一切使っていない。
自分で稼いだお金で何か買いたいな。
「うちはもう人手が足りてるから、たぶん入れないよ」
「あー……そうか、楽に入れるかと思ったが……自分で探してみるよ」
最近はバイトを探すためのアプリやサイトの広告をよく目にする。
バイトを始めるのにそう苦労もしないだろう。
ただ入ったら頑張らなければいけないし、簡単に諦めてしまっては意味がない。
やると決めて入ったのならやり切るべきだろう。
そのためには慎重にバイト探しをする必要があるな。
自分に合う合わないをしっかり見極めなければいけない。
「なんか……榎本の方が私なんかよりよっぽどいい奴に見えるよ」
「それはないだろ。生活費のためにバイトして頑張ってる高校生なんてそうそういないぞ」
「いや……うーん……………私はそんなのでいい奴とか思われたくないし。自分から家を出て尚も親から支援されて一人暮らししてるから、残りをバイトで稼ぐのは当たり前だもん」
いい奴は自分ではなくそっちの方だと、そう主張する大塚。
互いに互いをいい奴だと言って聞かないこの状況があまりに可笑しくて、二人して笑った。
「高校の教育費なんかも出してもらってるんだろ?」
「うん、流石に私じゃどうにもならないから。勝手に家を出たとは言ったけど、別に家出をしてきたわけじゃないの。なんて言うか……」
「まぁ複雑な事情ってことだろ?」
「そんなとこ」
それから少し、くだらない事を話して15時頃に俺は大塚の家を後にした。
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