第4話 幼馴染の襲来
ピンポーン
大塚の用意してくれた朝食を食べ終わった頃に、玄関のインターホンが鳴り響いた。
それを聞き、インターホンのカメラに該当の人物が写っていることを確認すると、応答することなく俺は玄関へと向かった。
玄関の扉へ手を伸ばしていくも掴めずに空を切った。
俺が開けるよりも早く開かれた扉の先に見えた人物の顔。
「あっ、やっほー楽。入るよ」
「………」
俺の横を通って侵入してきたこの女は幼馴染の美玖
大量のメッセージを送りつけてきた張本人ともいう。
「こんな朝っぱらから何の用だよ」
リビングへ向かう美玖についていく形で後を追う。
「どうもこうも、私があんだけ心配してあげたのに一言も返してこなかったからでしょー」
ドカッと大胆にソファに座り込むと、足と腕を思い切り広げてだらけ出した。
「あーー、まだ暑いねー。この家に来るまでにも汗かいちゃった。ねぇ楽、プールでも行かない?」
「行かねーよ。ていうかお前泳げないだろ」
「はぁー?泳げないとプールにいっちゃダメなんてルールないしー、浅いから泳げなくても心配入りませーん」
「はいはいそーかよ。いいからお前とりあえず足閉じとけ」
「えっ、なんで?やだよ、蒸れて暑いんだから」
ポカンとした表情を浮かべて何も気づいていない様子の美玖。
いや、気づいていても気にしていないパターンだろう。
上は半袖を着ており、下はというと太腿まで大胆に丸見えの短パンを履いている。
俺からすればそれはもうパンツと丈の長さが変わらないと思うのだが、女子はこういうのを平気で履いているからきっと俺がおかしいのだろう。
身体を大の字にしてソファでだらけている美玖の太腿付近からチラリとあるものが姿を覗かせている。
そのチラリと見えている水色のモノが気になって仕方がない。
「見えてんだよ。嫌だろ、そういうの見られるの。だから足閉じろって言ってんだよ」
「ん?……あ、もしかしてパンツのこと?」
自ら広げた足の付け根に目を向けてそうはっきりと言った。
「いやいや別に気にしないってこんなの。ていうか今更のことすぎない?何年楽と一緒にいると思ってんのよ」
彼女とは親の仲から、小さい頃からずっと一緒に育ってきた。
家が近いのは、美玖の両親がわざわざここら近辺に引っ越してきたからだ。
昔から変わらないガサツな性格の美玖に散々手を焼いてきたが、結局その性格が治ることなく高校生になってしまっている。
彼女が足を閉じることはなく、終始大の字姿でいた。
「どう、そろそろ一人暮らしも慣れてきたんじゃない?おばさんたちが居なくなってから」
美玖がソファで寝そべり、俺はその下のカーペットに座りソファに背を預けてスマホを見ていた。
「そうだなー、まぁ流石に」
「寂しい?」
「むしろ静かで過ごしやすい」
自分以外に音を発する人がいない空間の中だと、やること全てに集中することができる。
「えーー、寂しいんなら私が一緒に住んであげようと思ったのにぃー。楽しいよ、私がいると」
「自分で言うな。やらなきゃいけない事が二倍に増えるだけじゃねぇか」
「そんなことないよ。色々手伝う」
「料理できないだろ」
「それは無理だね」
「掃除やってくれんのか?」
「……ちょっとめんどう」
「洗濯は?」
「洗濯機の使い方がわからない」
つまりは何もできないで家に居候するだけの未来が安易に想像できてしまう。
「これだけ外面が良くて内面が死んでるやつ、そうそういないぞ」
偏っているのにも程があるというものだ。
「なんだぁ?褒めたって何もあげないからなー」
「貶してんだよッ!!」
午前中、この家でぐったりしていた後に美玖は親に呼ばれたとかで家に帰って行った。
土曜、日曜とまったりとした休日を過ごしていた俺。
途中途中で家に侵入してくる幼馴染がいただけで、特に何も起きず平和な休日は刻々と過ぎていった。
週明けの月曜日は、新たに始まる一週間への憂鬱からスタートしていく。
日曜日の就寝前からそれは始まり、寝る直前まで嫌だ嫌だと思っていると気がつけば起きて月曜日を迎えている。
ダルさ全開で定時に家を出て、学校までの道のりを、足を重たくして歩く。
いつも決まった時間に家を出ているのは、ただ単にそうしろと言われているからである。
「おっはよーっ!」
家を出てものの数秒で背中に重たい感触が伝わってきた。
「朝から激しいですって……」
「えっ、これが通常運転なんですけど?」
俺の背中に大胆な体当たりをかました後、横に並んで同じ歩幅で歩き出した美玖。
「もうすぐ本格的に始まるよー、体育祭」
「あっ、もうそんな時期か。確か体育祭の実行委員会に入ったって言ってたよな」
「うん、なんか断りづらくて引き受けちゃった」
「……まぁキャラを押し通すのなら断れねぇわな。ていうかさ、その前に期末試験あるよな?もうこんな早くから何を話し合うんだよ」
「いろいろやらなきゃいけない事があるんですー」
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