2 無性・無産・不死人間の時代(16)

 どこからともなく人々の体の奥深くから湧き上がる不安と苛立ちの感情が、多くの人々の心にありました。考えてみれば、無性人間と言っても全員かつて両性人間だったいわば去勢人間ですから、性の記憶がどこかに残っていたのでしょう。複雑です。信じられないことに、苛立ちは暴力にかわり、殺人事件は激増しました。殺人容疑者たちの少なからずが、恐ろしいことにその動機を

「人の死ぬところが見たかった。」

と自白しました。大昔においてはごく一部の異常者だったこの種の人が、劇増していきました。死と生から遠ざかったせいでしょうか?

 さらにはテロの暴力、そして国家間の戦争で、わざわざ大量殺戮を繰り返し、本来な無い死を生産していきました。せっかく永遠の生命を得たのに。もう望みはすべてかなったはずでした。戦争の原因となる嫉妬も悩みも不平等も無い世界でしたから。何という愚かな!

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