39 その後

 転移陣を抜けて、気がつけばダンジョン入口に戻っていた。

 すでに俺の身体は元の人間の姿に戻っている。


「あ、戻ってきた」

「あそこから一人で決めきるとは、一体どんな手品を使ったんだい?」


 戻れば、そこにはシオリ殿とアーシア殿の姿もあった。

 俺自身が戻ってこれているのだから当然だが、無事で良かった。

 特にシオリ殿は、消え方が消え方だったからな。

 肝を冷やしたぞ、本当に。


「手品ではないぞ、鍛錬の成果だ」

「それは……人によっては手品にしか視えないんじゃないかなぁ」


 なぜか苦笑いするアーシア殿、どうしてシオリ殿も同意するのだ?

 ともかく。

 二人の他に、思わぬ人物が俺をねぎらってくれた。


「あ、お、お疲れ様、草埜くん」

「む、スラ子もいるのか。……お疲れ様、でいいのか?」

「帰ろうと思ったら、ちょうど二人と行き合って」


 なるほど、と頷く。

 まぁ、タイミングが良かったということだろう。


「それで、アンタが戻ってきたってことは――」

「ああ、勝ったぞ。完勝だ」

「やったじゃない」


 そして、なんだか心配そうなシオリ殿。

 ブッチャー戦でも言ったが、俺を信じてほしいのだがな。


「何にせよ、シオリ殿があそこでかばってくれたおかげで、俺は勝利できた。ありがとう」

「え、あ、う、うん……こっちこそ」


 お礼をいうと、何やら気恥ずかしそうにシオリ殿は俯いてしまった。

 

「え、ええと……最終的には勝てたってことでいいんですよね?」

「そうだね、スラ子ちゃん。後できちんと確認した方が良いけど。ただ少し意外だったのは――」


 スラ子の質問にアーシア殿が答える。

 自分の体を見渡しながら、あることを指摘した。



「ロストしたのに、スキルとかそのままっぽいね、私達」



 ふむ、と俺も少し身体を確認する。

 取り込んだ魔力は、確かにそのままだった。

 シオリ殿も、おそらくは同じ状態だろう。


「……正直に言えば、シオリがロストしてもそのままというのは想定していた」

「と、いうと?」

「加護薬の緊急脱出はダンジョンの魔力を利用している。それなら、ダンジョンに魔力を付与された君たちなら、何かしらの影響はあるんじゃないかと思ってたんだ」


 そもそも、ダンジョンがあのベルセル・ドラグニスを倒させようとしていたとして。

 まさか初見で勝てるとは思っていなかったのだろう。

 スキルさえ無事なら、何度でも挑戦できる。

 時間をかけて挑戦し、いずれ討伐してもらうことを想定していた……とか。

 そんなことも、あるかもしれないな。


「それ、結局加護薬を調達するのにめちゃくちゃお金かかるんですけど」

「それはまぁ……ダンジョンがそのことを把握してないからじゃないかな? 加護薬の費用とか、完全にこっちの事情だし」


 問題はアーシア殿だ、彼女もスキルを維持したままというのは少し可笑しい。

 だが、そのことに答えを提示するものがいた。


「あの……もしかしてなんですけど」


 スラ子だ。


「私がじゃないですか? 魔力が付着した時の話、草埜くんから聞きました。直接ブラックミノタウロスを倒していなくても、それに関わっていたら魔力が付着した……って」

「……なるほど」


 要するに、シオリ殿と同じ現象が起きたのだ。

 あの部屋を覆うスライムを倒した時、その場にはアーシア殿もいた。

 アーシア殿がスライム討伐に貢献したかはともかく、今回の戦闘に参加して俺達を助けてくれた。

 そのことを把握していたダンジョンが、アーシア殿にもスライムの魔力を付着させていてもおかしくはない。


「まぁ、何にせよスキルが失われなくてよかった。後で加護薬を調達してくるから、それを呑んだら倒せたかどうか確認しに行こう」

「ああ、わかった」


 それにしても、と俺は周りにいる者たちを見る。

 平和に談笑する、シオリ殿とアーシア殿。

 スラ子は、こっちに意識を向けている。

 なんというか、この光景を見ると――



「……勝ったのだなぁ、俺達は」



 そう、実感するのだ。


 ――それから、改めて未知のエリアのボス部屋に入り、モンスターがいないことを確認した。

 これからのことは、そのうち落ち着いたら決めようということに成った。


 それから、俺とシオリ殿はたんまりと報酬を貰った。

 今回の件が大々的に周知されることはなかったが、そもそもどう周知したものか決めあぐねているらしい。

 まぁそりゃ、推測に推測を重ねて色々した結果、未知のエリアのボスを討伐しましたとか言われても、皆反応に困るだろう。


 そういうわけで、今回の件はとりあえず内密に処理された。

 そのうち公表されるかもしれないが、今は気にする必要もないだろう。

 アレからスラ子はいつもどおりスライム狩りに戻り、俺とシオリ殿もそれぞれの探索者生活に戻っている。

 未だにアーシア殿は忙しそうだが、それが仕事なのだと彼女は言っていた。

 大変そうだが、充実しているようだ。


 さて、そうして少しの時が経った頃。

 俺はある人物に呼ばれて、とある場所に来ていた。



 そこは、「クテン産業」の本社。



 呼び出し人は――黒羽ソラ殿。

 シオリ殿やアーシア殿は呼ばれていないらしい。

 さて、一体何の用事で俺は呼び出されたのやら。

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