33 山育ち、決戦を決意する。

「やったぁ、終わりました!」


 やがて、スラ子が嬉しそうに声を上げる。

 見ればそこには、消えゆくスライムとぴょんぴょんと跳ねて喜びを表現するスラ子。

 微笑ましい光景だ。

 それにしても、本当に成し遂げるとは。

 さすがはスラ子。

 ”目覚めた”だけのことはある。


 と、思っていると。


「んぅ?」


 スラ子が、不思議な反応を見せる。


「ひあああああっ!? な、なんですか!? か、体が……!」

「スラ子!? どうしたのだ!?」

「あー、これは」


 体、そう言われてスラ子の体を確かめる。

 というか、体内を。

 そうして確かめてわかった。


「スラ子ちゃんに経験値……というか、倒したスライムの魔力が集まってるんだ」

「ふぇえ!?」


 なるほど、魔力がスラ子に集まっているのが解る。

 基本的にダンジョンでは魔力を集めることで強くなるわけだが――


「スラ子ちゃんはまだまだ低ランクの探索者、魔力もほとんど集まってない。そこにこうして、コレまでとは考えられない魔力が集まれば――」

「一気にレベルアップ……ってことですか?」

「レベルアップ……?」


 スラ子の言い回しはよくわからなかった。

 だがアーシア殿がわかっているようなので問題はないのだろう。

 うんうんと頷いている。


「わ、わ……スキルがいっぱい増えてます!」

「そうだろう、そうだろう。スラ子ちゃんは頑張ったからね」

「スライム特効スキルがこんなに! 嬉しいです!」

「そ、そう……」


 アーシア殿が引いている。

 スラ子にとって何より優先すべきはスライム狩りだ。

 だから、コレでいいと思うのだが。


「やったな、スラ子」

「うん、ありがとう草埜くん。私、これからも頑張ってスライム倒すね!」

「応」


 華やぐような笑みのスラ子を眩しく思いつつ。

 ひとしきりスラ子と話をしてから――俺とアーシア殿はスライムがいなくなった室内をみた。


「中には転移陣……ボス部屋につながってるタイプと同じ形だ」

「そう言えば、ボス部屋に繋がる転移陣と、通常の転移陣は形が違ったな」

「わかりやすくて助かるよね」


 そう話す俺達の後ろから、スラ子が転移陣を眺めている。

 自分とは関係ないことと思いつつ、好奇心はあるのだろう。

 と、そんな時だ。



「へぇ、やっぱりスライムを倒すとボス部屋につながってるんだ」



 聞き慣れた声――シオリ殿が声をかけてきた。


「おや、シオリ殿。今日は予定があったのでは?」

「意外と早く片付いたわ、まだ皆がいるかもと思って、急いできたの」

「ふぇ!?」


 シオリ殿に俺が挨拶すると、スラ子が凄まじく驚いていた。


「え、え、え!? も、もしかして……シオリちゃん!?」

「あら、私のこと知ってるの? ええ、多分そのシオリで合ってるわ」

「なんか、私の時よりリアクションが大きくない?」


 どうやら、スラ子はシオリ殿の事も知っていたようだ。

 まぁ、人気配信者だからな。

 S級とはいえ、配信とかはしていないらしいアーシア殿より知名度はあるのではないか?


「あ、アーシアさんやシオリちゃんと知り合いだなんて、草埜くんはすごいね……」

「有名人と知り合いだからといって、すごいということにはならんと思うが……」

「草埜くんも、すごいんだよ!」

「そ、そうか」


 なんだか楽しげなスラ子を見て、まぁスラ子が楽しいならそれでいいかと思うことにする。

 横で何やら、シオリ殿とアーシア殿がひそひそと話をしていた。


「ねぇ、もしかして彼女って草埜くんのこと……」

「おそらくは……青春だねぇ」

「なんだか羨ましいわね……」


 ……俺は耳がいいから、聞こえているのだが。

 それを見越して、一番重要な部分をぼかしているのか?

 青春とは……?


「さて、とりあえずシオリも来たことだし――」

「……どうする? 侵入してみるか?」

「え、いきなり突入するの?」


 一応、シオリ殿がここに来たということは、これからボス部屋に突入してもいいということだ。

 とはいえ、流石にすぐ突入することはないだろう。


「いや、もともと本来の予定なら明日、三人で集まる予定だった。それは崩さないでいこう」

「そりゃそうよね。いや、別に行くって言うならいいんだけど……」

「撤退前提での偵察ならありだろう、ほら、ボス部屋から脱出できるアイテムもあるのだし」


 以前、シオリ殿がブッチャー戦で言っていた緊急脱出アイテム。

 ボス部屋から脱出するアイテムがあるのだ。

 暴走タイラントの際は使えないから、あまり意味はない気がするが。


「いや、できれば使うのは避けたいな。というのも、このさきのボス部屋が暴走タイラント状態の可能性がある」

「それは……そもそも、この事件が前例のない暴走タイラントから始まっているからか?」

「そうだね、だから慎重に行きたい。後は、やっぱり脱出アイテム高いからねぇ。加護薬くらいの値段はするよ」


 ……そちらが本当の理由ではないだろうな?

 ともあれ、そういうわけで俺達の今後の方針は決まった。

 決戦は明日。

 それまでに、色々と準備――心の準備を含めて――済ませておくようにということで。

 今日は解散となった。

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