34 山育ち、踏み込む
とりあえず、今日のところは解散と相成ったわけだが、どういうわけか。
「それじゃあ、スラ子ちゃんはちゃんとコウジくんが送っていくのよ」
「きちんとエスコートするのよ」
と言って、俺とスラ子は一緒に帰ることとなった。
一体何なのだ……?
スラ子も言われて何やらモジモジしているし。
俺にはよくわからん。
スラ子と帰り道を一緒に帰るのは初めてのことだ。
行きは何度か一緒になったことはあるのだが。
まぁ、それなら結局最終的にやることは変わらんな。
「――というわけで、どうやら俺とシオリ殿はダンジョンの免疫とやらになったらしい」
「そうなんだ……よくわからないけど、すごいね」
「俺も全く同じ感想だよ」
さて、帰り道に話すことと言えば一つしかない。
そもそもどうしてスラ子があの場に呼ばれたのかという話。
加えて俺が今、何をしているのかという話だ。
「まぁ、その免疫という話も推論でしかないのだが」
「でも未知のエリアのボス部屋を見つけたんだよね? あながち、間違いでもないのかも」
「スライムにも覆われていたしな……」
アーシア殿の反応を見る限り、ボス部屋入口がスライムに覆われるなど前代未聞もいいところなのだろう。
素人の俺にはさっぱりわからないが、何やらおかしな事じたいは間違いなく起きている状況。
なるほどそれは、スラ子の言う通り”間違いでもないのかも”という表現が正しいのかもな。
「草埜くんは、明日もあのエリアに行くんだよね?」
「ああ、あの二人とボスに挑む事となるだろうな」
「……なんだかごめんね、私は行けなくて」
足手まといになっちゃうから、と自嘲するスラ子。
しかし、そうではないと俺は思うがな。
「何を言う、そもそもスラ子がいなければボスに挑むことすらできなかったのだぞ?」
「そう、かな……?」
「そうだとも、アーシア殿がスライム特効スキルの存在を知らなかった時点でな」
ともあれ。
ここからは俺達の仕事だ。
「……草埜くんは、どうして戦うの?」
「どうして、とは?」
「えっと……色々と理由はあると思うんだ。誰かのためだったり、お金のためだったり、自分のためだったり」
今回の件に関しても、同じことだとスラ子は言う。
ダンジョンの免疫。
実際にそれが正しいのかどうかはともかく、仮にそれが事実ならとんでもない使命を背負わされているのだろう、俺達は。
それに対する使命感で事件を解決するために動くのか。
それとも、事件を解決した後にもらえる報酬を目当てに動くのか。
もしくは――
「まぁ、俺は基本的には自分のために戦っているよ。強くなりたいから、戦っているんだ」
「……そう、だよね。なんとなく、草埜くんらしい気がする」
「そして本質的には……俺は、勝つために戦っているんだ」
勝つため? とスラ子が首を傾げてこちらを見上げる。
そうだ、死と隣り合わせの激闘も、血湧き肉躍るような闘いも。
結局は、それを乗り越えた後の勝利を噛みしめるために戦っている。
だから俺は――
「俺は、勝つためなら自分に納得できる範囲でやるべきことは全部やるよ」
そう、スラ子に宣言した。
そして、翌日。
「よし、皆集まっているね」
「今日はよろしく頼む」
「張り切っていくわよ」
俺達は例のボス部屋前に集まっていた。
スライムが消えたことで、ボス部屋への未知は開けている。
あの後、またスライムが復活したりとかはしなかったみたいだ。
まぁその場合も、今日も第一階層にスラ子はいるし、探索者アプリで連絡を取れば問題ないのだが。
スラ子もよろこんで飛んでくるだろう。
「ところで、シオリ」
「……何かしら?」
「本当に行くのかい?」
と、そこでそんなことをアーシア殿がシオリ殿に問いかけた。
「君はブッチャー戦でも、コウジくんの戦闘についていけていなかった。……酷なことを言うが、次のボス戦もついていけるとは限らないよ」
「……そうね」
酷なことだ。
シオリ殿は、現状俺とアーシア殿に比べたら、その実力は一流ではあっても頂点ではない。
ブッチャー戦はシオリ殿がいなければブッチャーを倒すことはできなかっただろうが、戦闘自体は俺一人が行っていた。
今回もそうなるのではないかと、アーシア殿は危惧している。
「でも私、決めたから。草埜を信じるって」
「……シオリ殿」
「彼が信じていいって言ったから、私は彼を信じることにした。戦う理由なんて、それで十分よ」
「……わかった。野暮なことを聞いたね」
そうしてシオリ殿と視線を交わしたアーシア殿が、今度は俺の方を見てくる。
「そして、君も。どうしても、この先に進むのかい?」
「当然だ。俺はダンジョンに死闘を求めてやってきた。俺が求めているものは、間違いなくこの先にある」
「…………本気みたいだねぇ」
やれやれ、とアーシア殿はため息をついた。
もうこれは諦めるしかないな、と言わんばかりの。
まったく失礼な話だが、けれどもコレが俺の性分なので仕方がない。
「まぁ、君の実力は疑っていない。 期待しているよ、無手の英雄」
「そう言われるとこそばゆいが……こちらも、アーシア殿の絶技を楽しみにしているぞ」
かくして、俺達は三人で頷き合う。
行こう、とそれで覚悟を決めて。
俺達を待っていたのは――
「……ねぇ、アーシアこれって」
「ああ、まさか……こんなところで出てくるとはな」
龍だ。
圧倒的な威圧感を放つ龍。
四つ足に、翼。
西洋の龍はああいった形をしていると、ソラ殿が以前話していた気がするが。
とかく、その龍は特徴的な目をしていた。
「アレは……なんなのだ?」
「あの龍は――」
その眼は、狂っていた。
「ベルセル・ドラグニス。――ダンジョンがこの世界に出現して以来、一度として討伐されたことのない魔物よ」
狂気の龍。
ベルセル・ドラグニスが――俺達の前に現れた。
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