27 山育ち、免疫になる
つまり、アレだ。
先日の
あの
いや、それだけではないな。
ブラックミノタウロスを倒せる強さも欲しかったのだ。
助ける行動を取る人間だけを選ぶなら、あの場にいた俺が助けた人たちをまとめていた彼――タスク殿も選ばれているはずだ。
とはいえ、シオリ殿はそれに納得言っていない様子だ。
「いや、でもそれ。私が選ばれるのはおかしくない? ブラックミノタウロスは草埜が一人で倒したのよ?」
「彼がブラックミノタウロスを倒す間、君たちが連れてきた要救助者を一人で守ったことが評価されたんじゃないかなぁ」
まぁ、おそらくはそんなところだろうな。
しかしそれにしても、ダンジョンの病気を治療すると来たか。
「そもそも、どうして治療役を人間に任せるんだ? 魔物がダンジョンを治療する存在だとするなら、それを倒す人間はむしろ害悪だろう」
「そうとも限らないよ。こうも考えられる、魔物はダンジョンを治療する存在であると同時に、淀みを溜め込んでいる。私達が魔物を倒すことで、魔物はその淀みごとダンジョンから消え失せるとしたら?」
俺の質問に対し、アーシア殿は一つの可能性を提示する。
「ちょうど、魔物を倒したことで魔物が落とし、我々がダンジョンの外に持ち出すものが一つあるじゃないか」
「……つまり、アーシアは魔物のドロップする素材がダンジョンの淀みっていいたいの?」
「他にも、ダンジョンは時折ランダムに宝箱を出現させる。その中身も、ダンジョンの淀みである可能性もある」
どちらにせよ、アーシア殿が言いたいことは一つ。
その結論を、アーシア殿は口にした。
「つまり、君たちはダンジョンの免疫に選ばれたんだよ。それが名誉なことか、不名誉なことかはまだ解らないけど」
そんなアーシア殿の結論に、俺達は何とも上手く答えることができなかった。
その後、アーシア殿は「じゃあこれからどうすればいいんだ」と問う俺達に、「そこまではわからない」と答えた。
しかも、「そもそもこの推察は、加護薬を開発したとある研究者の仮説なんだ。今のところ確証はない」とも言ってのけている。
つまり、今の俺達に言える確かなことは一つ。
俺達がブラックミノタウロスの魔力を取り込んでいるという事実だけだ。
「結局、何か変なことに巻き込まれているということしか理解らなかったわね。そもそもその研究者の仮説って正しいの?」
「そうだな……コレは俺の直感だが、大枠は間違っていないと思う」
「直感かぁ」
少し信じられないという様子のシオリ殿だが、案外勘というのはバカにならないぞ。
自分の中で得た情報を元に、最も正しいと思えた最初の判断を俺は勘と読んでいる。
深く考えるよりも、直感にまかせて行動したほうが俺は上手く行くことがお多いのだ。
「そもそも、魔物の存在が免疫であるという情報は、すでにその研究者をはじめ専門家たちが考えていた仮説だろう。アーシア殿は、それを俺達にも当てはめているにすぎない」
「そこはまぁ、そうかもね」
「大事なのは、これからどうすべきなのかをその研究者達も判断できないということだ」
ここから先は、何が正しく何が間違っているのかわからない。
いや、ダンジョンだけはわかっているのかも知れない。
そしてそのダンジョンは俺達を選んだ。
と、するなら。
「ここから先は、俺達の取る行動が正しい行動ということになる」
「……そこまで言い切っていいものかしら」
「アーシア殿が行動に待ったをかけなかったのだ。そう判断するのがいいだろう」
「それもそうね」
さて、ここから俺達の取るべき行動は単純だ。
最初の予定通り、第五階層のボスを倒しに行くのがいいだろう。
「幸い、アーシア殿の話は思ったよりもすんなり終わった。とくれば、元の予定通りにボスを倒すのがいいだろう」
「それもそうね……よし、じゃあ早速第五階層のボス部屋まで向かうわよ」
うむ、と頷いて俺達はダンジョンへ向かうこととなった。
さて、ダンジョンの踏破事態はそこまで問題じゃない。
個人的に、第三階層から第四階層でのモンスターの変化と比べて、第五階層の変化は地味だ。
武器を持っただけなのだから。
実際、武器を手にするというのはより高い知性をモンスターが得たという証拠だ。
だが、零が一になるのと比べて、一が二になることはそこまで大きな変化ではない。
「まぁ実際、第四階層までは階層を経るごとにモンスターは強くなってた。対して第五階層のモンスターはそこまででもないわよ」
「やはりそうか」
「でも、第五階層にはボス部屋がある。本命はこっちよ」
なるほど、それは確かに。
「ブラックミノタウロスだって、貴方なら問題なく倒せるけど……第五階層の敵を問題なく倒せるようになった探索者程度じゃ、絶対に倒せない壁だもの」
「……ましてや、ぞれがブッチャーともなれば、か」
俺達はボス部屋の前で言葉を交わす。
ここまで来たということは、後はボス部屋に入るだけという状況だ。
時間もまだ余裕はある。
「まぁ、でもブッチャーなんでそうそう出るわけもないし――」
俺達は、ボス部屋へと足を踏み入れて――
そこには、巨大な肉の塊が待っていた。
「……嘘でしょ?」
シオリ殿が、恐怖に顔をひきつらせている。
その反応から、俺はこの肉の塊が何なのかを察することができた。
「なんでブッチャーが、ここにいるのよ!」
まさか、まさか。
シオリ殿にとっての宿敵が、今まさに俺達の眼の前に出現していた。
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