22 山育ち、シオリの過去を聞く
かくして配信は無事に終わった。
生で視聴していた探索者もぞろぞろとその場を後にする。
彼らは時折、厄介なリア凸とやらになる可能性もあるそうだが――今日に限っては、俺がアレだけ実力を発揮してリア凸とやらをすることはありえないだろうとシオリ殿は言っていた。
人気がなくなったのを確認して、シオリ殿は色々と変装をした。
「変装をしても、あの後俺と一緒にいる時点でシオリ殿とバレないか?」
「変装をしているっていう事実が大事なのよ。そうすれば、よっぽど変なやつ以外は話しかけてこないわ」
そんなものか、と頷く。
正直そこら辺の塩梅はさっぱりだ。
後はまぁ、変装事態もしっかりしている。
今のシオリ殿を見て、一目でシオリ殿と看破できる人間がどれだけいるだろう。
俺のように、魔力の流れから相手の正体を感知できないと難しいかもしれないな。
「それで、まずはお疲れ様。おかげで良い配信になったわ」
「こちらこそ、これで少しくらいシオリ殿が落ち着けるならいいが」
「まぁ大丈夫でしょ、基本的に話題ってのは水物だからしばらくすれば落ち着くわ」
そんなものか。
ウチの爺ちゃんと婆ちゃんはいつも同じ話をしているから、話題が水物という感覚はよくわからないが。
現代社会は時間の流れが早い、外では概ねそんな感じなのだろう。
「それで、これが報酬の……第三階層のマップよ」
「おお……かたじけない、これで第四階層に進むことができる」
そう言いながら、シオリ殿が俺の端末にマップを登録してくれた。
今回、俺はシオリ殿の依頼を受けるに当たってシオリ殿から報酬を提案されていたのだ。
わざわざこちらのことに巻き込むのだから、と。
とはいえ正直俺としては、あまり欲しい報酬もない。
今はお金にも困っていないな。
そこで、こうして現在探索中の第三階層マップを頂いたというわけだ。
基本的に、マップはタダで他人に教えてはいけない決まりになっているらしい。
今回のように報酬として教えるか、金を払って運営から買うかしないとダメだそうで。
何にせよ、ありがたいことこの上ない話だ。
「でも……第三階層だけでよかったの? 私、第四階層のマップも持ってるわよ?」
「いや、問題ない。ある程度は自分でも探索がしたいからな。別に仕事で探索者をしているわけではないのだから、この程度でいいのだよ」
「仕事でしているわけじゃない……か」
ふむ、何やら色々と思うところがある様子。
踏み込むべきか否か少し迷うが……ここは聞いてみるべきか。
「シオリ殿は、なぜ探索者を?」
「私? 私は……一応私も学生なんだけどね、貴方の一つ上で」
「先輩というやつであったか」
「学校違うんだし、そこまで気にしないでいいでしょ。……そもそも、学校も真面目に行ってないし」
なんとなく、後ろめたさを感じる表情でシオリ殿は自嘲する。
そりゃあ、学生の身で探索者として大成しているのだから学業にかまけている余裕がないのは当然ではないだろうか。
「学校では……そもそも私存在しないようなもんだし、一応留年だけはしないようにしてるけど……まぁ、やっぱり探索者としての比重が大きいわね」
「そのことを……後悔してるのか?」
「どうかしら。人間って単純じゃないから、そのことに不安を感じる時もあれば何も感じないときもある。ただまぁ……トラウマとか後悔ってほどじゃないかも」
正直、俺は人がよくわからない。
俺の周囲に人間なんて俺しかいなかったし、妖怪達は良くも悪くも単純だ。
中にはソラ殿のように胡散臭い妖怪もいるが。
まぁ、爺ちゃんも婆ちゃんも一本気な人ではある。
多分、俺自身もだ。
とはいえ、そんな俺でも解ることはある。
「……それ以上に後悔していることがあるから、わかっちゃうのよ」
「…………”ブッチャー”とやらか」
「……そうね」
シオリ殿が後悔している何か。
きっと、俺には到底想像もできないようなことなのだろう。
何せ、俺と彼女では歩いてきた道のりが余りにも違いすぎるのだから。
「まぁ、よくある話といえばよくある話なんだけど。私ね、昔はパーティを組んでたのよ」
「パーティ?」
「探索者同士で、チームを組んで……あー、一緒になって行動することよ」
「なるほど、チームは解る」
どうやら、シオリ殿は昔パーティとやらを組んでいたらしい。
同年代の……当時は中学生同士のパーティだったとか。
若いと思わなくはないが、探索者というのはなるのに勇気の必要な存在だ。
若くなければ、勇気を奮い立たせるのは難しいだろう。
「結構いいパーティだったのよ。中学生でCランクにまでなって、ここの五階層ボスを討伐しようってくらい強かったんだもの」
「なるほど、それで当時のことを知っている者もいるのだな」
「ま、昔は今と違って配信もしてなかったし、知名度は全然だったけどね」
しかし、問題が起きた。
それがブッチャーか。
「でも、第五階層のボスを討伐しようとした時、そいつが現れた。――ブッチャー、出現確率千分の一とすら言われる希少で最悪の強さを持つそいつに私達は、全滅させられたの」
それで、私以外の全員が冒険者をやめちゃった。
そう語るシオリ殿の目は、どこか遠くを眺め、心ここにあらずといった様子であった。
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