21 山育ち、実力を披露する
実をいうと、人前で実力を披露することを俺はそれなりに楽しみにしていた。
別に、そこまで自己顕示欲が強いわけではない。
それでも、今までただ山の奥で拳を振るってきた身。
少しくらい自分の実力を評価されたいと思うのは普通だろう。
もしくは、単純に興味があるのだ。
自分の実力が、見ず知らずの相手に評価されるということに。
それと、もう一つ。
というか、こちらの方が主たる理由だ。
――俺の実力を知った実力者が、俺に目をつけて声をかけたりしないかなぁ!
だって、そうだろう。
アーシア殿のような強者は、相対するだけでその感覚がピリピリと肌を焼く。
話をすれば、相手の力に対する考え方がわかる。
肩を並べて戦えたら最高だ!
ああ、強者の力を存分に側で感じたい。
叶うなら、直接拳を交えたいのだが――ダンジョンであっても人対人は普通ではない。
殺しがご法度なこの世界で、そのような蛮行は許されない。
ああでもやはり、強者との死闘……したいなぁ!
コホン。
さて、俺達がいるのは第三階層の一角だ。
周囲には、シオリ殿の告知を聞いて集まった数名の冒険者。
彼らはシオリ殿の配信を生で見れる代わりに、配信中にモンスターが邪魔をしてきた場合それを排除するという役割がある。
今回、俺達がゆったりとダンジョン内で雑談できていたのは彼らのおかげだな。
まぁ、別に俺がやってきた魔物を片っ端から血祭りにあげていいのだが。
シオリ殿が段取りを重視したいというので、基本は彼らに任せることとしていた。
結局最後までモンスターは現れなかったが。
「では、ここからは俺がモンスターと戦っていくとしよう」
そう語る俺の隣には、宙に浮かぶ光の玉。
どうやらこれが、カメラとやらになっているらしい。
視聴者はこの光の玊を通して俺の戦いを見るのだとか。
「まずはあいつだな」
そう言って、俺は気配を察知したハイアルミラージの方へ向かっていく。
コメント欄は『今どうやって感知した?』『スキルでしょ、便利だな』とか言われている。
スキルではないのだが、そこら辺は話さないとシオリ殿と決めていた。
話が俺の来歴どころじゃなくなるからだそうだ。
「――フッ!」
ハイアルミラージを視認すると同時、俺は踏み込んでケリをハイアルミラージに叩き込む。
一切容赦の無い最速のケリは、ハイアルミラージを吹き飛ばして倒した。
うむ、いい感じに決まったな。
さて、反応は――
『何今の』
『何も見えなかったんだけど』
おっと。
「しまった、すまない。ダンジョンの外にいるということは魔力で反応速度を上げられないのだったな」
『ええ何今の、明らかこんな階層で振るわれていい暴力じゃないよ』
「それは若干俺もそう思う」
この階層のモンスターが弱いのがいけないのだ。
とにかく、視聴者は今、ほとんどがダンジョンの外で視聴している。
だから魔力による身体能力補正がなくて俺を視認できないのだ。
それだと高ランク探索者の配信とか、どうやって視聴しているのだろうとか思うのだが。
そういう探索者の配信スフィア――光の球をこう呼ぶらしい――は高性能だから高速で動き回ってもいい感じに補正してくれるのだとか。
配信後にシオリ殿が教えてくれた。
「……今の、見えた?」
「い、いえ」
……遠くで、シオリ殿が現場にいる探索者に問いかけて否定されているが。
まぁ、俺が早すぎただけだな。
今度は見える速度で倒すとしよう。
そこからは、モンスターを視聴者の見える速度で狩っていった。
といっても調整が難しく、何度も何度も速度を落としたのだが。
結局視聴者が俺を視認したのは、最初にハイアルミラージを倒してから十回ほど魔物と戦った後だった。
『いやホント早すぎ、強い探索者は色々いるけど、ここまで早いのは初めてみた』
『これ高級スフィア用のスパチャです』
などなど、視聴者は俺の速度に呆れるばかり。
まぁ最終的に強さを疑うものは誰もいなくなったけれど。
それにしても、あえて抑えて戦うのを何度もやらされると流石に疲れるな。
「私、戦闘が早すぎて追いつけないから配信用スフィア買ってくれってスパチャ貰ったの初めてだわ……」
「そうか……」
この時点では知らない単語である配信用スフィアとスパチャという単語をよく理解らずに頷いて流しつつ。
俺は少しの疲れを呼吸を整えることで払った。
そのすべてが速度を落とすために集中した疲れだ。
手加減とは……難しいな。
「とにかく、これで彼の強さは理解ってくれたと思うわ。今後彼はこの東地区中央ダンジョンで活動すると思うから、見かけたらよろしくね」
『おー』
『わかった!』
さて、俺が実力を示したことで俺に関する説明は概ね終わった。
俺が山育ちで、最近までダンジョンの存在を知らなかったこと。
そして山育ち故に鍛え抜いた力で、ダンジョン内でも実力を発揮していること。
これがわかってもらえれば今回の配信は成功だろう。
「今後は、俺もSNSを開設するから、個人的な連絡はそちらに頼む。といっても、配信を積極的にするわけではないからあまり反応はしないだろうが……」
「あんまり、変なメッセージ送るんじゃないわよ!」
最後に、そこら辺の告知も忘れない。
このあたりは、配信の内容を考えてくれたシオリ殿に感謝だな。
かくして無事に配信は終わり――
「じゃあ、今日の配信はこれで――」
『彼となら今度こそ“ブッチャー”を倒せるかも知れませんね、応援してます!』
「――――」
「……シオリ殿?」
何かのコメントに意識が向いたのか、一瞬シオリ殿が口をつむぐ。
俺が呼びかけると、ハッとして進行を再開した。
「――あっ、ごめん。じゃあ改めて、今日の配信はこれで終わりよ! この配信が面白かったら、高評価とチャンネル登録よろしく!」
「よろしく頼むぞ」
「じゃあねー」
かくして、配信は終わった。
概ね進行はつつがなかったと思うが――最後のアレは一体……?
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