20 山育ち、コラボ配信をする

「あー、ええと……コレでいいのだろうか」

「問題ないわ、探索者アプリがいい感じに音を拾ってくれるから、マイクとかは気にしなくていいわよ」

「マイク……?」


 マイクとは何だ……? と思ったが、返答はなかった。

 まぁ、すでに配信は始まっているし、気にしなくていいということは今この場に存在しないものなのだろう。

 後で調べるのがいいな。

 シオリ殿も、まさかマイクを知らないとは思わなかったのだろう。

 コレは単純に、俺が中途半端に現代知識を吸収しているのが悪い。

 何を知っていて何を知らないのか、いちいち聞かないとわからないくらいには知っているからな。


「と、いうわけで、こんばんオー、シオリよ。皆、見ていてくれているかしら?」

『待ってました』

『シオリちゃんこんばんオー』


 ええと、確かこんばんオーはシオリ殿の配信時に使う独自挨拶だったか。

 そういう物があるというのは聞いているので、戸惑ったりはしない。

 一番戸惑うのは――視界の端に映るコメント欄だな。

 ぶいあーる……というらしい、視界に映像を映す技術。

 その応用で、ダンジョン受付で貸してもらったメガネを通して、視界の端に半透明の画面が現れて、そこにコメントが流れているわけだ。

 ちなみにシオリ殿は目に直接メガネを入れている、コンタクトという方式らしいが……痛くないのか?


 ともあれ。

 コメント欄はシオリ殿に対する挨拶が五割、残りが隣に写っている俺への言及だ。

 こいつ誰、とか。

 こいつが例の、とか。

 そんな感じだな。


「それじゃあ改めて、以前話した通り今回はゲストを呼んでるわ。早速自己紹介をしてもらいましょう」

「あー、えー……コホン、俺は草埜コウジ、探索者をしている。以前、シオリ殿とは暴走タイラントの際にご一緒した。今回はそれに関する説明を求められてこうして出演している」

『殿て』

『なんかキャラ濃いぞ』


 話す内容は、事前にシオリ殿と打ち合わせをしている。

 色々と不慣れなので、きちんと打ち合わせをしないとボロが出るからな。

 それから、シオリ殿が俺とシオリ殿の関係について説明する。

 基本的には暴走でのことと、その後シオリ殿が俺に関する説明を求められて対応することになったことを話す。

 他には……俺の来歴に関してはこれから、質問を受け付ける形で話していく感じだ。

 いや、正確にはすでに集めた質問をシオリ殿が聞いていく感じか?


「じゃあ、次は事前に集めておいた質問を、彼にしていくわ。1つ目は……これね」


 そう言って、シオリ殿は俺がどこから来たのかという質問をする。


「あー、俺は山から降りてきたんだ。その山というのが、凄まじく田舎でな……現代文明に関するものは何もなかった」

「スマホとかも?」

「ああ。山を降りたのも、現代社会を勉強するためなんだ。色々と不慣れだろうがよろしく頼む」

『キャラ濃すぎだろこいつ……』


 どうやら俺はキャラとやらが濃いらしい。

 というか、視聴者は俺の言っていることが信じられないようで、色々と俺が知っているものと知らないものについて聞いてくる。

 『スマホは?』流石に知っている、これの使い方を覚えないと現代社会で生活できないと言われたからな。

 『ゲームは?』ゲームとはなんだ? そういえば前にも聞いたことがある気がするが、気にしたことはなかったな。

 『漫画とか見る?』絵の書かれた書物のことだな、時折見かけるが興味深い。電子書籍……? あんな分厚いものがこの小さい板に入るわけないだろう。

 などなど。

 一通り質問を終えると、視聴者の反応は概ね俺を山育ちの田舎者だと認識したようだ。


 俺は横文字をそれなりに使うが、知らない横文字にはとことん疎い。

 使い方を理解しているスマホとかはともかく、スマホとかにいれるらしいそしゃげというやつはさっぱりわからない。

 そういう感じのことが、視聴者の間で共有されたようだ。

 よくわからないが、それで正しいと思う。


 話が一段落したので、シオリ殿が次の話題を提供する。


「じゃあ、次はそうね……どうして探索者になったの?」

「腕を鈍らせないためだ」

『???』

『何いってんの?』


 答えると、即座にコメント欄がはてなマークで埋まる。

 まぁ、これは予測できていたことだ。

 流石に、何度も引かれたりしたら、俺だって学習する。


「俺は山にいた頃、祖父から色々と稽古をつけられていてな、現代社会では本格的な稽古ができないと思っていたのだが」

『ダンジョンなら稽古ができると?』

「ああ、そのとおりだ。幸い、ダンジョンでの経験は非常に身のあるものだ。現代社会にこんな場所があることに感謝したいものだな」

『ダンジョンと現代社会に相関性はないと思うけど』


 反応は、困惑がほとんどだ。

 けれどもあまり疑われてはいない。

 どうも俺には理屈がわからないが、シオリ殿いわく先に俺の田舎者っぷりを見せつけておけば「まぁそういうこともあるか」となるらしい。

 よくわからん。


 他にも、俺のパーソナリティに関して色々と話していく。

 山から降りて、知り合いの家に下宿しつつ学生をしているとか。

 山にいた頃から大食漢だったので、食い扶持は自分で稼ぐようにしているとか。

 反応は概ね好評だった。

 面白い奴の話を聞いている、という感じだな。


「想定より、疑ってるコメントが少ないけど……先日の暴走タイラントでもその実力を遺憾なく発揮したのが動画として残ってるからかしら」

「ふむ、そうなのかシオリ殿」

「まぁ推測だけどね。さて、それじゃあある程度彼のことも理解ったことだし……」


 ふと、シオリ殿は視線を後ろに向ける。

 今、俺達が話をしている場所は――ダンジョンの中だ。

 幸い、ここまでモンスターがやってきてはいないが――

 というか、やってきても周りで生で配信を見ている探索者が排除するだろうが。

 そもそも俺達がわざわざダンジョンにやってきたのは、この後のためだ。



「次は、実際に彼の実力を視聴者にも見てもらおうかしら」



 さて、俺としては結構楽しみにしていたコーナーだぞ、これは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る