15 山育ち、有名配信者と密会
週末、ダンジョンに向かう。
スラ子とは住んでいる地域が近いので、ダンジョンへ向かうため乗る駅が同じだ。
せっかく同じダンジョンへ向かうのだからと、時間を合わせて一緒に行くことにした。
まぁ、ダンジョンの中では行動する目的が違うので、途中で別れるのだが。
「ところで草埜くんって、どうしてダンジョンに潜るの?」
「食い扶持を稼ぐためというのと、体を鈍らせないためだな」
スラ子の質問に、それぞれ答える。
社会勉強と馬鹿にならない食費を稼ぐために、ダンジョン探索を家主から勧められたこと。
ダンジョンが現代社会で生活しながら体を動かせる場所が主な理由。
「……草埜くんは立派だね」
「そんな大層なものではないと思うが……スラ子はどうなのだ?」
「私は……それしか取り柄がないからかな?」
スラ子は、相当度胸のある性格をしている。
ただ、何事にも動じない代わりに自分から積極性を発揮する能力に乏しい。
そこで、一人で稼ぐことができて度胸さえアレば最悪加護薬を失うだけで済むダンジョン探索者が向いていた……と。
「といっても、第一階層でお小遣いを稼ぐくらいしかできないんだけど」
「それができるだけでも、スラ子は度胸があるとおもうがな」
「そう言ってくれると、少し嬉しい……かも」
電車に揺られながらそんなことを話す。
何でも、あと少しで両親から借りていた加護薬二つ目の代金を支払終わるのだとか。
加護薬の値段は、結構お高いというのにそれは凄い。
今でこそ
他にも色々と話しをしていると、あっという間に駅につく。
駅からダンジョンは直につながっているので、目的地はもうすぐそこだ。
「それじゃあ、私は第一階層に用事があるから……」
「うむ、頑張ってくれ」
スラ子ともそこでお別れ。
話すことは尽きないが、別にこれからも関係は続いていくのだ。
ゆっくりと話せばいいだろう。
ダンジョンに入って、最初にすることは装備の用意だ。
無料の更衣室を借りて、アイテム倉庫から装備を取り出す。
別に俺の場合、無手なのだから装備が必要というわけではないのだが。
山にいたころも、拳を痛めてはいけないからと手袋をつけたりはしていた。
完全な素手よりそちらのほうが、体に馴染むということで店売りでグローブとやらを用意している。
皮で作られた軍手のような、簡素な代物だ。
加えて、服は汚さないように専用のものへと切り替える。
道着のような服だ、グローブと合わせて格闘家という感じがする。
最後に、赤い宝石のはめ込まれたペンダントを身に着けて準備完了だ。
このペンダントは、特殊な効果が付与されたアクセサリーである。
効果の中身は即死効果完全無効。
他にも不意を打たれて受けたくない、いろいろな状態異常に関する耐性が付与されている。
麻痺とか毒とか。
氣を使えば払うことができるものの、現在は魔力をまとって戦っている。
結構な高級品で、一着一万とかで買えた道着や数百円くらいの安物グローブと違い、数十万円以上する代物だ。
まぁでも、それに見合う買い物だったのは間違いない。
俺はこういった呪いや異常の類には強いけれど、それはあくまで万全の状態での話。
万が一、それが崩れることがあった場合の対策は必要だ。
直接の打ち合いで遅れを取るならともかく、搦手に敗北するのはこちらが軟弱だからだ。
というわけで、こういうアイテムは俺にとっては大変ありがたいものだった。
「さて、今日も第三階層の探索だ。はやく次の階層を見つけたいものだな」
かくして第三階層にやってきた。
各階層への移動は、転移陣というもので行う。
第二階層にある第三階層への入口も、この転移陣だった。
コレに乗ると、次の階層のランダムな場所へ転移する。
入口の転移陣は、指定した階層のランダムな場所へ転移する。
指定できる階層は到達したことのある階層までだ。
かくしてダンジョンに侵入した俺は、適当に見つけたモンスターを倒しながらマップの未踏破部分を埋めていく。
相変わらず、出てくるモンスターは大した存在ではない。
第二階層との違いは、アルミラージがハイアルミラージになった時のように、遠隔攻撃をしてくるモンスターが増えたことか。
いわゆる、スキルとやらを使うモンスターが出てきたのである。
第二階層の魔物は、一般的な動物の動きを逸脱していなかったからな。
まぁ、威力はあるし加護薬で魔力を体内に取り込んでいなければ人間は相手にならないだろうが。
そんな風に、魔物を倒していたその時である。
「あの、ちょっといいですか?」
声をかけられた。
年若い女子の声、なんだか聞き覚えのある声だ。
振り返るとそこには――
「何だ、シオリ殿ではないか。どうしたのだ?」
「え!?」
仮装をして正体を隠したシオリ殿が立っていた。
帽子で髪を隠しつつ、メガネをつけたり、髪色を変えたり。
全体的に先日見た時と比べて、目立たないように気をつけているのを感じる。
ただ、周囲に俺とシオリ殿以外に人はいないことは氣で探って確認している。
だから正体が指摘しても問題ないと思ったのだが――何かまずかっただろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます