16 山育ち、一発で変装を看破する

「な、なんで解ったの!?」

「なんでと言われてもな、魔力の流れを感知したら一発で解るだろう」

「……そういうスキルかぁ」


 帽子を脱いで、髪をガシガシとするシオリ殿。

 割と帽子の有り無しで印象がぜんぜん違うな。

 こうしてみると、魔力を確かめなくてもシオリ殿だと解る。

 ただ、少し違和感があるな。

 前は感じなかった違和感だが……よくわからん、とりあえず結論はでなさそうだ。

 ともあれ、帽子の有無による印象の差はシオリ殿も自覚しているのか、すぐに帽子を被り直した。


 ところで、俺の感知はスキルではないのだが……


「ええと、それじゃあ改めて。私は飯束シオリ、知ってると思うけどダンジョン配信者」

「俺は草埜コウジだ、配信はしていないからただの探索者だな」


 そのことを指摘する前に、話が進んでしまった。

 まぁいいか、別に訂正するようなことでもない。


「まずは先日の暴走タイラントの件、人命救助の協力に感謝します。といっても、私は別に運営の人間じゃないんだけど」

「何、あの場にいて同じ目的のために行動した者同士だ、素直に受け取っておこう。こちらからも、貴方のお陰で助かった」

「私のおかげ?」


 首を傾げるシオリ殿に、シオリ殿の後を追うことで第三階層への入口にたどり着けた話をする。

 まぁ、俺が人を救助するうちに結構大所帯になっていたから、誰かは第三階層への入口を知っていたんだろうけど。

 それを確認するよりも、シオリ殿の音を追いかけたほうが早かったのだ。


「なるほど、それで私の後ろから来たんだ」

「ああ、派手に貴方が魔法を使ってくれたおかげだ」

「まぁそれしか取り柄がないのが私だし……というか、貴方ずいぶん探知スキル多いわね」


 ふむ。

 どうやら俺の音を拾ったり、魔力を見分けたりするのを探知スキルだとシオリ殿は思っているらしい。

 別にそういうわけではないのだが……。


「それで、シオリ殿。わざわざこうして正体を隠して、こっそり話をしてきたということは何か用事があるのだろう?」

「そうね。こうして話しかけてきたのは……貴方と連絡を取りたかったから」

「連絡を?」

「そう、それと……お願いがあるの!」


 パン、とシオリ殿は手を叩いた。

 頼み込むように、頭を下げてくる。



「私と、コラボ配信をしてほしいの!」



 コラボ……配信?

 ええと、確かコラボというのは――アレか。


「それはいわゆる、探索者同士が同じ配信に出るという……アレか?」

「そう、そのコラボ配信。私と貴方で、お願いできないかしら」

「ふぅむ……理由を聞かせてもらっていいか?」


 コラボ配信の意味があっていたことに安堵する。

 ソラ殿から、色々と聞いておいて正解だった。

 そしてその提案はなんというか、思っても見ない話だった。

 まず、俺のような無名……というには、例の暴走タイラント事件での活躍は注目を集めすぎているが。

 一介の探索者が、比較的知名度のありそうな配信者とコラボするというのは、普通のことではないのではないか?


「それがね……貴方のことを知りたいっていう連絡が、私のところに殺到しているのよ」

「……俺とシオリ殿に、繋がりはないとおもうのだが」

「繋がりはなくても、貴方のことを知れる可能性のある人間が私しかいないから!」


 ああ、確かに。

 俺とシオリ殿に繋がりはなくとも、接点はある。

 暴走事件で一緒にいたという、少なくはない接点が。

 それでシオリ殿へ問い合わせをするのはお門違いな気もするが、同時にシオリ殿以外の誰に聞けばいいのかという話でもある。

 運営に問い合わせればいいのか?


「本当ならあの場で話をして、連絡先くらいは交換しておきたかったんだけど」

「ああすまない、俺はさっさと帰ってしまったからな」

「……それに、私も結構目立つから、ヘタに見られて貴方に迷惑をかけても困るし」


 そりゃあ人気配信者なのだから当然だろう、と思うが。

 まぁ、細かい機微は俺にはわからん。

 シオリ殿が言うなら、そうなのだろう。


「まぁ、こうして変装して第三階層で探していれば、そのうち会えると思ってたし」

「それはそうだろうな、俺は第三階層を未踏破だから、どうしたってしばらくは第三階層にこもることになる」

「そうね。……と、いうわけなんだけど。どうかしら、お願いしてもいい?」

「ふむ……」


 いいか悪いかで言えば、構わない。

 どうも、シオリ殿に対する問い合わせはかなりの数に登っているようだ。

 これをどうにかするには、コラボ配信で俺のことを説明するしかないというのは自然な成り行き。


「解った、これ以上シオリ殿に迷惑をかけるわけにもいかないからな。そのコラボ配信、受けさせてもらおう」

「やった。ありがとう、助かるわ」


 流石にこれ以上問い合わせが増えると、案件依頼のDMとかが埋もれちゃうから……とは、シオリ殿の言。

 そのでぃーえむとやらが何か俺にはさっぱりだが。

 ……後でソラ殿に聞いておこう、こういうことはあの人に聞くのが一番いい。


「それじゃあ早速、コラボ配信にあたって少し聞きたいことがあるのだけど」

「打ち合わせというやつだな、解った。何でも聞いてくれ」

「じゃあ、早速。貴方のビルド……スキル構成を教えてもらってもいい?」


 ふむ。

 ビルドという言葉の意味がわからないが、スキル構成ということならなんとなく推察できる。

 専門用語なのだろう、俺がコラボという単語に疎いことからそこを悟って、言い換えてくれたようだ。


 とはいえ――



「スキルはないぞ。感知も戦闘も、魔力を直接操作して行っているからな」



 答えとしては、コレなのだが。


「…………え?」


 そして、シオリ殿は再び首をかしげてしまった。

 ううむ、真面目な人なのだろうなぁ。

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