14 山育ち、案外学生生活はいい感じ
さて、俺が社会に出てやりたいこととして、一番に希望していたのは学校に通うことだった。
これまで、婆ちゃんに色々と勉強を教わっていたから、学校というやつに通ったことはない。
というか同年代の友人もいないのだ。
それは、十代の少年としてよろしくない、と婆ちゃんは言っていた。
そこで、山を降りた以上は学校へ通うことが最大の目標であった。
ダンジョンの存在を知って、そちらで思う存分腕を振るえるようになったから、しばらく興味はダンジョンに移っていたものの。
本命は、やはり学校だ。
正直、不安も多い。
何分粗暴な山育ち、社会常識を知らぬ世間知らずがうまく学校という集団の中に溶け込めるものか?
周囲に迷惑をかけてしまわないだろうか?
そういった心配は当然した。
が、 俺の学生生活は、案外いい感じに落ち着いていた。
というのも、
「おはよう」
「おお、おはよう無手の英雄。今日も元気そうだな」
「くすぐったい物言いだな?」
「はは、悪い悪い。おはよう草埜」
”無手の英雄”なんて二つ名が、俺についたからだ。
原因は言うまでもなく先日の
アレで結構な数の探索者を救い、探索者SNSでも話題になったそうで。
編入初日にクラスで挨拶をしたら、それはもう驚かれた。
そんな肩書を背負ってやってきたものだから、多少粗野でも周囲は受け入れてくれるらしい。
何でも、ダンジョン探索者というのは、現在最も若者が憧れる職業だそうだから。
その中で、注目を集める存在と同級生というのはそれだけで彼らにとっては嬉しい出来事なのだろう。
俺としても、ちやほやしてくれるついでに、山奥で育ったせいでダンジョンのことも知らない世間知らずというところをスムーズに説明できたのはありがたい
そうして席につくと、隣の女子に声をかけられる。
「あ、おはよう草埜くん」
「おはよう、スラ子」
「うん……おはよう」
彼女はスラ子。
本名は涼瀬ライカというそうなのだが、なぜか自分のことをスラ子と呼んで欲しがっている。
殿もいらないと言うから、呼び方はすっかりスラ子で定着していた。
……なぜスラ子なのだろうな?
本人の容姿は、いたって普通の女子といった感じだ。
少し癖のある髪を二つ結びにして、分厚いメガネで顔を覆っている。
顔立ちは整っているものの、整った顔立ち以上にメガネが印象に残る感じだな。
「今日が終われば……週末、だね」
「そうだな……スラ子は週末、何をして過ごすんだ?」
「うん……ダンジョン。草埜くんも?」
「ああ、学校が始まってから一度も行けていないからな」
学校に来てからは、学友にいろいろな所を連れ回されたからな。
何せ、初っ端から現代文明を全く知らぬ山猿だと明かしたのだ。
じゃあせっかくだし、色々行ってみようとなるのは当然の成り行き。
おかげさまで、街のいろいろな施設のことを知れたし、学友とも親交を温められたが。
ダンジョンに行く機会というのは、とんとなかったわけだ。
「しかし、ダンジョンに行くのは俺達だけか」
「うん……やっぱりダンジョンっておっかないからね。加護薬があっても、怖いものは怖いから」
じゃあその流れで週末はダンジョンに行くかと思ったら、どうやらそうではないらしい。
なんと、このクラスでダンジョンに通っているのは俺とスラ子だけらしいのだ。
なんということだ、ダンジョンとは力試しができて金も稼げる最高の場所ではないのか?
まぁ、多くの人にとってはそうではないようだが。
「それに、ダンジョン行く気のある子は中学までにダンジョンに行ってて、加護薬を失って帰ってきてるから」
「最初の加護薬は支給されるが、二個目からはなかなか高額なのだったか」
「うん、二個目をわざわざ買ってもらって、ダンジョンに挑もうっていう人はそんなにいないよ」
その点、スラ子は一度加護薬を失ったうえで、わざわざ二個目を入手して今もダンジョンに潜っているらしい。
おとなしい性格のようだが、度胸はあるようだ。
「……わ、私は他にできることがないから。それに、ダンジョンなら人づきあいを避けながらお小遣いが稼げるし」
「普通に、人付き合いをしているようにも見えるがなぁ」
スラ子は、クラスのマスコットみたいな扱いを女子から受けているようだ。
スラ子と話をするたびに、女子から「スラ子に変なことするなよー」とからかい混じりに声をかけられる。
本人がどう思うかはともかく、クラスにもそこそこ馴染んでいるように見えたが?
「……少し前までは、あんまり馴染めてなかったよ」
「そうなのか?」
「うん…………のおかげ」
何やら恥ずかしそうに、スラ子は言葉を濁す。
「なんと?」
「あ、えっと。なんでもないよ。……うん」
ごまかされてしまった。
本人が誤魔化すことを追求するのはよろしくないだろう。
それに、チャイムがなって教師がクラスに入ってきた。
ホームルームが始まったら私語は慎むべし、と教師は言っていた。
まぁ、あまり守っている学友もいないが。
ともあれ、一日の始まりであることに変わりはない。
俺達はそこで話を打ち切って、意識を教師の方へ向けることにした。
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