13 山育ち、その後のアレコレを聞かされる

 というわけで、俺達は無事に第二階層を脱出した。

 まだ生き残りの探索者がいたら、と思ったが流石に発生からもう一時間近く立っている。

 孤立した探索者はもう助からないだろう、とのこと。

 それより俺自身が心配だからもう無茶しないでくれと、シオリ殿と俺が最初に助けて、その後は探索者たちをまとめてくれていた人――タスク殿というらしい――が引き止めてくれた。

 ならまぁ、それに応じない方が失礼というものだろう。

 できる力があるのにそれを使わないのは罪だと爺ちゃんは言うが、同時に周りの人間を心配させてまで無茶をする必要はないとも言っていたからな。


 さて、その後は特に何事もなく。

 持って帰ったアイテムに受付の人が少し引いていたが、無事に売却できた。

 荷物持ちをしてくれた人に一割お礼として渡したいと言うと、サクッと処理をしてくれたのもありがたい。

 というか、一割をお礼として渡したのにとんでもない額になった。

 逆に助けた人数が多かったから、一割をその人数で分配するとちょっとしたお小遣い程度で収まった。

 なるほど、だから一割なのだなタスク殿。


 そのままホクホク顔で家に帰ったら、ソラ殿がニコニコと楽しそうな笑みを浮かべて出迎えてくれた。


「いやぁ、コウジくん大立ち回りでしたねぇ」

「もうご存知だったか、ソラ殿」

「ええ、ええ。みていましたよぉ、定点カメラでその勇姿をばーっちり」


 指で輪っかを作って、双眼鏡のジェスチャーをして見せるソラ殿。

 相変わらず独特な方だ。


「それで、ソラ殿。俺はこれからどうすればいいのだろう。……とりあえず帰っていいとは言われたものの、結構目立ったからなぁ」

「んんー、コウジくんの思うがまま、あるがままを私としては行ってほしいのですがー」

「流石にここからの対応は、個人にどうこうできる域を越えてないだろうか……」


 何やら俺を、自由に大暴れさせたい節のあるソラ殿。

 だからダンジョンに関する知識はほとんど教えてくれないし、俺の好きなようにすればいいの一点張りだが。

 単純にこの人が適当なだけではないかと思わなくもない。

 とはいえ、


「それもそうですね」


 今回は普通にそう言ってくれた。


「とりあえず、今回起きた出来事と、これからの展開について軽くお話しておきましょうか」

「助かる」

「あ、夕飯を食べながらにしましょう。今日も美味しいものをたぁんと用意してありますよ……宅配サービスで」


 ソラ殿は本当に忙しいようだから、わざわざ夕飯を俺に合わせてもらっているだけでもありがたい話なのだ。

 無理を言ってはいけない。


「まず、暴走についてはすでに学習済みですよね?」

「ええ、基本的なことは」

「でも暴走がいつ、どうやって収まるのかまでは把握していないと思います」

「お察しの通りで」


 その時は、とにかく今どうすればいいのかを調べるので手一杯だったからな。


「まず、暴走事態は数日で収まります。暴走したモンスターが他の階層へ漏れ出したりとかもしないので、暴走は初動さえすぎれば後は数日その階層に立ち入れなくなる程度で終わりです」

「つまり、実質暴走事態は終わっているということか」

「そうなりますね。とはいえまぁ、ほぼ予兆なく起きるので、その初動が一番恐ろしいのですが」


 実際、暴走の警報が出た時点で脱出不可能だったからなぁ。

 アレ、あくまで前兆の内に別階層へ脱出できる人間向けで大多数には警報にもならないだろう。

 ないよりはマシなんだろうが。


「とはいえ、今回はコウジくんとシオリちゃんが頑張ってくれたおかげで、犠牲者の数は驚くほど抑えられました」

「それはよかった」

「第二階層の暴走で被害者が三桁越えないって、なにげにダンジョンが発生して初めてのことなんですよ?」


 ソラ殿は詳しいなぁ、と思いつつ。

 それでも数十名が加護薬で強制脱出させられたのかと思うと凄まじい話である。

 加護薬がなかったら、もっとひどいことになっていたのだろう。

 すさまじいな、加護薬は。


「それで、これから俺はどうなるのだろう」

「そうですねぇ。まずはダンジョン運営から結構な量の謝礼が出ると思います」

「すでにアイテムの回収で、結構な報酬になっているのだが」

「それはコウジくんが凄いだけですよぉ。普通は回収なんてやってられませんから」


 まぁ、シオリ殿の方はアイテムを回収していなかったようだし。

 普通はそうなのだろう。


「次に、今回大活躍したコウジくんは知名度が急上昇! 探索者ランクも結構上がっちゃうと思います」

「そうなのか」

「Cかなー、Dかなー、私はC言ってほしいんですけどねー」


 相変わらず、呑気な様子のソラ殿。


「後はまぁ、それに関連して色んな人がコウジくんと接触してくると思います」

「むむぅ……それは少し面倒だなぁ」

「でも、コウジくんが社会に出てやりたい社会経験を積むには、こういうところが大事ですよ」

「それもそうか……」


 とにかく、暴走タイラントは無事終息した。

 数日後には第二階層の封鎖も解け、日常が戻ってくる。

 俺も謝礼を貰ってウハウハだ。


 ただまぁ、周囲からの視線は明らかに増えた。

 アレだけ目立ったのだから当然だし、時折わざわざ声をかけられてお礼を言われたりもするしな。

 とはいえ、皆お礼を言ったら去っていくし、今のところここから関係性が発展することはないだろう。

 関係性が発展するとしたら、シオリ殿とかタスク殿、それから先日声をかけてくれたアーシア殿あたりか?


 他にも、第三階層へ到達したことで敵の強さが少し増したが、正直第二階層との違いはあまりないな。

 第四階層へ到達すれば違うのか、と思わなくもないが……まぁ、今のところはそれも叶わない。

 何せ――これからしばらく、俺はダンジョンへ集中的に潜れなくなるのだから。


 なぜか? 答えは簡単だ。

 学校に編入する時がやってきたからである。

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