10 山育ち、大いに呵う
アレから俺は、出口を目指して行き交う探索者を広いながら進んでいた。
結構な人数がこの第二階層に足を運んでいるせいか、征く先々で探索者が見つかる。
出口がわからないのも相まって、結構な人数を拾ってしまった。
とはいえ問題はない、迫りくるモンスターは俺にとっては鎧袖一触。
触れれば消し飛ぶ程度の雑魚でしかない。
歯ごたえがないことは不満だが、どれだけ人が増えてもそれを守り切れる自身はあった。
何より、ありがたいこともあった。
「コウジさん! 落ちてたモンスターのドロップアイテムは全部拾えたよ!」
「応、では先に進もう」
俺の代わりに、他の人がモンスターの落としたアイテムを拾ってくれるのだ。
こうすれば俺は戦闘に集中できる。
戦闘に集中できれば、俺が遅れを取ることはありえない。
「けどやっぱり、報酬は全部コウジさん持ちの方がいいんじゃないか? 俺達はただの荷物持ちでしかないんだから。ロストさえしなけりゃ御の字だよこっちは」
「それでは俺の気がすまないんだ。一割で少ないと感じてしまうんだぞ俺は。できれば二割……いや、三割は貰ってほしいんだがな」
「いやいやいや! 仮にそんな貰って、バレて炎上するのはゴメンだよ! 一割でも危ないくらいなのに!」
そして、俺はアイテム拾いをしてくれる探索者たちに謝礼を払おうと思っていたのだが、探索者はそれを固辞している。
まぁ中には二割くらいいいんじゃないか、という人もいるようだが。
最初に救出した探索者が、人を纏めるのが得意なのか最終的に一割ということで纏まった。
これがどういう話かというと、単純に俺達は結構余裕があるということだ。
今のうちから終わった後の話をする辺り、俺だけでなく助けられた探索者もここを無事に切り抜けられることは実感している。
「それにしても、本当にコウジさんはすごいな。……どうして第二階層なんかに?」
「実は、俺は数日前に新規登録を行ったばかりの新人探索者なんだ」
「え!?」
「ははは、可笑しいだろう。今までずっと、ダンジョンなんてものに縁のない田舎の山奥で暮らしててなぁ」
「いや、それ……」
ううむ、やはりドン引きされてしまった。
そんなに可笑しいことか?
ちょっとした場を和ませる会話程度のつもりだったのだが。
ちなみに。
さすがの俺も、加護薬を呑んでいないことを明かすつもりはないぞ。
ただでさえ探索者になるところで一悶着あったのに。
ダンジョンすら知らぬ田舎者ということを話しただけでこういう反応をされるのだ。
口に出したら絶対ろくなことにならぬ。
なぜかソラ殿は、別に喋ってもいいんじゃないですか? とか言っていたが。
「それで、音の方向からしても、出口はこっちで間違いないのだよな?」
「多分。いや俺には全然その音とやらは聞こえないんだけど」
さて、俺達は現在出口に向かって進んでいる。
しかし、今のところ出口を見つけるための手がかりであるシオリ殿は見つかっていない。
けれども問題はない。
音が聞こえるのだ。
先ほどから散発的に、比較的大きな爆発音が遠くから。
これは氣で強化した俺の聴力だから拾える音だ。
そして、この音の意味はすぐに分かる。
シオリ殿の戦っている音だ。
シオリ殿はスキルで魔法とかいう広範囲を攻撃する力を持っているらしい。
それを使った音だと、判断できた。
「先ほどから、音の根源へ近づきつつある。そろそろ追いつけるだろう」
「シオリちゃんも、きっとここの探索者を救助しているだろうから、無事だといいんだが」
それは同感だ。
他の探索者は、なすすべなくやられるしかない。
シオリ殿は、かなり優秀な探索者だそうだが。
果たして、この嵐を無事に乗り切れるかどうか。
まぁ、今は気にしていても仕方ない。
俺はモンスターを吹き飛ばす勢いを強め、先に進むよう皆を先導した。
そして、ようやく”音”へ追いついたのだが――
「ようやく出口まで来たぞ! って、うお、何だあのデカブツは!」
黒い牛のような人型のモンスターが立っていた。
なかなかの威圧感、見るだけで強敵だと解る面構え。
ほほう、これまでのモンスターと比べてずいぶんと歯ごたえがありそうだ。
「え、あ、……誰!?」
「皆、俺を見るとそういう反応をするな。いや、それが自然なのだが」
思わず驚いて声を上げると、一人の女性がこちらを向いて驚く。
間違いない、シオリ殿だ。
無事にここまでたどり着いたのだなぁ、よかったよかった。
「って、貴方……!」
「先ほど、俺を見ていたな? どうも、シオリ殿。助太刀が必要そうか」
俺が誰であるかに、向こうは気付いたようだ。
先ほど俺のことを一瞥していたから、俺のことを知っているとは思っていたが。
やはりそうだったようだ。
何にせよ、俺のことを知っているなら話は早い。
シオリ殿は、ずいぶんと悲壮感に溢れた顔をしている。
死ぬ覚悟を決めた者の顔だろう、それは。
「必要な――」
「――必要そうだな。加護薬を呑んでいるのだろう。死ぬわけではないんだから、そんな辛そうな顔をするな」
「…………え?」
必要ない。
そういいかけたシオリ殿の言葉を遮った。
俺は、シオリ殿の横に立って視線を向ける。
有無を言わさず、黒い牛人の魔物へ向かうのだ。
「安心しろ、ここは俺がなんとかする」
「ちょ、ちょっと待って!」
「ああしかし……その、なんだ」
シオリ殿は、俺を引き留めようとする。
きっと危険だからだろう。
あのモンスター、おそらくシオリ殿より強い。
だから俺を止めようとするわけだ。
が、そんなシオリ殿へ俺は少し困ったような顔をして頼み事をする。
「俺がここまで連れてきた人々を、シオリ殿に守ってほしいのだ。一応、
「それは、でも……って、助けた人の人数おおくない!?」
そうだろうか。
まぁ、シオリ殿にまかせておけば安心だろう。
俺はシオリ殿があっけに取られるうちに、するりと彼女の横を通り抜けた。
「――さて、モンスターよ」
黒いモンスターは、その牛頭で人のような笑みを浮かべている。
こちらを蹂躙したいのか?
なるほど、人に害する妖怪と同じだな、お前は。
それなら――相手がしやすくて助かる。
「カ、
呵う。
俺は大いに、笑みを浮かべる。
山から降りてきて、初めてまともな”実戦”と呼べる機会だ。
少しばかり、楽しませてもらうとしようか――!
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