S級探索者、歓迎する。
私、アーシア・コールマン。
S級探索者だ。
S級、もしくはSランク。
探索者のランクを示すもので、EからAまである。
例外として、特別にSランク指定される探索者もいる、その一人が私。
ま、とっても凄いお姉さんってことで。
二十年ほど前に、世界各地にダンジョンが誕生してから世界は様々な変革に迫られた。
その中で産まれた国際ダンジョン運営委員会、現在はそのメンバーとして活動している。
活動内容は、ダンジョン内の秩序の意地。
まぁ、警察みたいなものだね。
そんな私だが、数日前にある報告を受けてこの「東地区中央ダンジョン」にやってきていた。
東地区中央ダンジョンは、この島国の東にあるダンジョンでは最も大規模なダンジョンだ。
当然、人の出入りも多く問題も多い。
その問題を、S級探索者として解決しに来たわけだ。
今回、報告を受けている問題は二つ。
そのうちひとつと、先程私はちょうど出くわしたところだった。
報告の内容はこうだ。
「山から降りてきたという少年が、加護薬を飲まずにモンスターを素手で討伐した」。
なんだそれ、と思う。
ただ、変なのは彼が持ってきた封筒を上の人間に渡したら、一発で加護薬を飲まずに探索することが許可されたということ。
私の方からも問い合わせてみたけど、返答はなし。
こういうことをしそうな人間……もしくは、できる人間に一人心当たりがあるけど。
ソイツに聞いても、答えなんて返ってくるわけ無いしね。
一旦保留するしか無い、というか……直接彼と話をしてみるしかない。
というわけで、ちょうどダンジョンにやってきたばかりのタイミングでその少年とすれ違った。
早速声をかけて、その人柄を探ってみようと思い振り返ったのだが――
視線があった。
その瞬間、思わず私の直感が警鐘を鳴らす。
この男は、とんでもない存在だ――と。
実際、こちらが意図してぶつかりそうになったのを避けたと見て、振り返る感覚の鋭さ。
そして、只者ではない雰囲気がピリピリと肌を焼く。
なるほど、コレなら加護薬やいらないなとか考えつつ。
少年は、コウジくんというらしい。
雰囲気は恐ろしいが、本人は朴訥とした性格のようだ。
世間知らずと本人は言っていたが、上手く馴染もうとしているように見える。
アレなら、そうそう困ることもないと思う。
ただ問題は――やはり、その強さ。
そもそも戦う動機が「鈍らせないため」とは。
生粋の戦士、山奥から降りてきたと彼は言っているが、彼の住んでいた山奥には一体なにがあるんだ?
ともあれ、その後も少し話をして別れた。
結論から言って、私は彼を見定めきれなかった。
本人の性格に危険はないように見える、しかし戦うためにダンジョンに潜るという動機は危険だ。
なんというか、少しぼんやりした感じの印象と、戦士としての印象が重ならない。
何なんだろうな? あの少年は。
そして、その後受付で彼のことを担当しているという女性に話を聞いた。
私はそこで、驚くべきことを知ることになる。
「ハイアルミラージが第二階層で?」
「は、はい。コウジさんが一人で討伐したそうですが……」
「ハイアルミラージを一人でかい? あの電撃をどう対処したのかな?」
「さ、避けたそうですけど」
「ふぅん……」
ハイアルミラージといえば、第三階層の魔物だ。
もともと電気属性だったアルミラージが、実際に角から電撃を放つようになった姿。
第三階層の魔物としては脅威ではないが、何の準備もしていない状態で第二階層で出くわしたら加護薬による脱出を覚悟するレベルだ。
原因は電撃、生身で受けるとまず間違いなく行動不能になる。
動けなくなった所を角で突かれればそこでおしまいだ。
まぁ、装備かスキルさえ整えれば、電撃を耐えて次の電撃を放つ間に接近して屠れるのだが。
避けてなんとかしたというのは、初めて聞いた。
というか、そんな魔物が第二階層に出てくるあたり、やっぱりあの話は可能性が高いのか?
対策できることじゃないけど、できることはしないとな。
「まぁ、避けること事態は可能だけど……そもそも避けれるなら、最初の溜めの間に殺してるから」
「ええとつまり、あえて相手の行動を見た、ってことですか?」
「そうなるかな」
何にせよ、それだと最低でもBランク級の探索者ということになる。
生身で? 何の装備もなく?
そもそも加護薬を飲まなければ魔力とスキルは使えない。
仮に魔力がなくとも、なんとかなるのは第二階層がせいぜいだ。
「しかしこれはー、困ったなぁ」
「困った……ですか?」
「そう、こんな逸材――今の時代、一瞬で有名になるよ」
言いながら、私は探索者アプリでSNSを開く。
いいねしておいたとある発信を、受付嬢に見せた。
それは動画だ。
内容は――一人の少年が、スライムを一瞬で吹き飛ばす動画。
それなりにバズっていて、すでにいいねが四桁を越えている。
「これ、昨日の夜の動画」
「昨日の夜……ってことは、昨日やったってことですか? 昨日が彼の初めてのダンジョン探索ですよ?」
「そうなるね。そしてこんな簡単にバズるってことは、この後の彼の行動もそれはもう目立ったものになるだろうね」
そう言いながら、私は更にスマホを操作した。
この後のことを考えて、誰かに連絡。
黒羽……は、ダメだな。
私の直感がダメだと言っている。
それなら――
「はぁい、シオリ。元気にしてる?」
通話を選択し、つながった相手と話をする。
隣でなにやら受付嬢が目を見開いているが、シオリって読んだだけで理解してしまったのかな?
勘のいい子は嫌いじゃないよ。
「そう、少し気にかけて欲しい子がいるの。ああ、別に直接顔を合わせる必要はないから、これからしばらく東地区中央の第二階層で――」
電話越しの彼女と話をしながら、私は今後のことを考える。
「初心者向け配信をしてくれるだけでいいから。そうそう、銀盾持ち配信者の実力で人を少し集めてほしいの」
さてさて、人目を集めてしまうなら。
さっさと集めてしまいましょう、彼は有名になるべき逸材だ。
ああ、楽しみだなぁ。
新しい逸材がダンジョンの中で産声を上げている。
もっともっと、ダンジョンを楽しい世界に変えていこう。
世界は、もっと面白くなるべきだ!
――なんて考えている私が、後に彼の行動で何度も頭を痛めることになるのを、このときの私は想像もしていなかった。
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