4 山育ち、魔力を喰らう
まぁ、警戒度を少し上げたものの。
あの電撃を使うのには多少の溜めが必要で。
その溜めの時間は、俺にとっては狙ってくれと言わんばかりの隙で。
次の電撃は放たせなかった、拳を叩き込むとやはり一撃で黄色兎は倒れる。
見たことない攻撃を使うという程度で、そこまで脅威というわけではなかったな。
「落としたのは角か。まぁ元々肉も余ってきているし、別にそれで構わんのだが」
上位のモンスターを倒せば、上位の肉を落とさないかと少し期待していたところはある。
少し残念だ。
それにしても、先程の一撃。
明らかに氣とも妖力とも違う何かをまとっていた。
角をしげしげと眺めながら、俺はその力を感じ取る。
先ほど、青い兎にも感じていたが角にはその”力”とやらが眠っているようだ。
山には存在しなかった力なので、興味深い。
そこでふと、俺はある単語を思い出した。
「そういえば、ダンジョンには”魔力”とやらが存在すると言っていたな、これがそれか」
スマホを取り出して調べる。
探索者アプリによると、兎の名前はアルミラージ、黄色い兎はハイアルミラージというらしい。
角に宿った「魔力」を開放して雷で攻撃……やはりこの力は魔力で正しいようだ。
しかし、何とも便利だなぁスマホと探索者アプリ。
使い方をしっかり習っておいてよかった。
「それにしても魔力か……確か、加護薬は魔力を体内に取り込むのだったよな?」
つまり、魔力は体内に取り込んでも問題ないというわけだ。
俺自身の第六感も、魔力を体内に取り込むべきだと言っている。
……いや、どうやって?
「まさか煎じて飲めと? 一部を削り取って粉末状にするか……?」
流石にそれは、小石を潰して飲んで飢えを癒やすような所業だ。
そんなこと、流石に俺も一回しかやったことないぞ。
むう、当時の記憶が蘇ってくる。
やめろ、それは生物の生き方じゃない……!
「ええい、致し方あるまい。とりあえず今回は粉末にしてみよう。次回からはまた今度考える」
そう言って、角の一部を氣を込めた指で削り取る。
そこまで硬くはなかったので、そのまますりつぶして粉にする。
「とりあえず、魔力を取り込めればそれでいいのだ」
そういって、ええいままよと粉を飲み込む。
味がしない、喉をイガイガとした感覚が通り過ぎていく。
感触は最悪だな。
しかし、直後のことだ。
「……お、おお? 体内に氣とも違う力が流れているのが解るぞ」
どうやら上手く行ったようだ。
魔力が微小ながら体内を巡っているのが解る。
うむ、ふむ、少しそれを循環させて理解した。
「これは……なかなかいいものだな」
氣でも、妖力でもない全く別の力。
体内に駆け巡るとともに、一気に活力が湧いてくる。
端的に言えば、強くなったという感覚だ。
これがなかなか面白いもので、ちょっとの魔力で身体能力を跳ね上げられるようになった感覚がある。
ううむ、妖力を初めて取り込んだような感覚だな。
「とはいえ……妖力とは少し相性が悪いな、混ぜて使うことはできないから奥の手と併用はできないか……まぁ、修練すれば使えるようになるだろう」
取り込んだ魔力は微小だが、そもそも俺の体内に魔力は存在していなかったのだ。
ゼロがイチになるというのは成長において最も成長幅が大きい。
何事も、伸びしろは伸ばしはじめが一番伸びやすいのだ。
「この調子で魔力を取り込んで……と行きたいところだが、流石にこれ以上粉末にして飲むのはごめんだ。なにか別の方法はないか?」
先ほどからダンジョンを潜っていて感じていることだが、このダンジョンには命の危険が確かにある。
俺のように鍛えていなければ、そもそもモンスターに対抗することも難しいだろう。
それを解決するには、魔力を体内に取り込まなくてはならない。
そして魔力を体内に取り込めば、人間は劇的に成長するだろう。
故に、ダンジョン探索者は軒並み魔力を体内に取り込む方法が存在するはずなのだ。
おそらくは加護薬がそれを担っているのだろうが……少し調べてみるか。
再び出番と相成ったスマホを操作する。
最終的に、加護薬に関する記述から概ね理屈を把握することができた。
加護薬とは、そもそもダンジョンの魔力を体内に取り込むための薬。
それ自体はすでに理解してる。
人は魔力を取り込むことで人体は驚異的に強くなる。
その第一歩を加護薬は勝手にやってくれるわけだ。
そして、その後の魔力取り込みも自動でやってくれるらしい。
モンスターを倒すと、その痕跡が魔力として残る。
それを加護薬の魔力が吸収してくれるのだとか。
結果、モンスターを倒していると「スキル」と呼ばれる特別な力に目覚める。
これが加護薬の原理とのこと。
俺が先程魔力を取り込んだのと、理論は同じだろう。
気をつけるべきは、魔力はダンジョンそのものの魔力に結びついているということ。
取り込んだ魔力はダンジョンの一部であり、ダンジョンの中でしか効果を発揮しない。
外に出ると、ダンジョン内では超常的な力を発揮していた人間が、普通の人間に戻ってしまうらしい。
とすると、せっかく強くなった俺も、元に戻ってしまうのか?
いや、そう考えるのは早計だろう。
魔力の感覚は肌で覚えた、後はこれを氣のように体内で生成すればいい。
なるほど、ダンジョンでも修練ができるわけだ。
修練はいい、強くなるという感覚は実に良いものだ。
これは悪いことではないな、と俺はダンジョンでの狩りに戻るのだった。
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