3 山育ち、第二階層へ

 第一階層でスライムとかゴブリンとかいうモンスターを倒していたら、いつの間にか運営から探索者として活動する許可が出ていた。

 第一階層のモンスターは雑魚ばかり。

 ゴブリンなんて人の形をしているから少し期待していたが、子供が棍棒で叩いてくる程度のものでなんてことはなかった。

 それでも、派手に倒していれば運営も認めてくれるらしい。


 そういうわけで、俺は第二階層へと足を踏み入れることとした。

 第一階層は、小遣い稼ぎにもならないからだ。

 一日やって、なんとか一日の食費を稼げるかどうか。

 運動の後はとにかく食べるべしと爺ちゃんに言われてるから、五千円じゃ全然足りないよ。


 ダンジョン探索者は、稼いでるやつだと一日で普通の人の一年分くらいの稼ぎを叩き出すらしい。

 そりゃあすごい、俺もそれくらい稼げるようになれば、食べるにも困らないのかなぁと思う。

 社会の金勘定については、まだまださっぱりだけどな。


 というわけで、第二階層。

 第二階層は第一階層と比べて明らかに人が少ない。

 というか、広さが段違いだった。 

 第一階層は安全な代わりに狭くてヌルいと運営の人が言っていたけど。

 それはまぁ事実みたいだな。


 早速探索を始めようか。

 最初の目的はモンスターの捜索だ。

 ここのレベルを図っておきたい。

 まぁ、おそらくそこまでの強さではないだろうから、すぐに次の階層を目指すことになるんだろうけど。


 金は稼ぎたいが、あくまで目的は戦場で戦うことだ。

 弱い相手と戦っても意味がない、少しでも早く歯ごたえのある相手を見つけないとな。


「とはいえ、これだけ広いのだ、モンスターくらいすぐ見つかるだろう」


 と考えて適当に歩く。

 脱出の際は、探索者アプリで脱出を選択すると外へ出られるらしい。

 これは加護薬の効果ではないのかと思うが、探索者アプリそのものにダンジョン由来の技術が使われているからだとかなんとか。

 よくわからん。

 とにかく、帰りの心配はないのだから、さっさとダンジョンを進むとしよう。


「マップ機能とやらもありがたいな、歩いた場所がすぐに解る」


 この機能を使って、歩いていない場所を歩き回ることで次の階層への入口を見つける。

 それが当面の行動方針だ。

 そして、そんなことを考えている内に目的のモンスターは見つかった。


「ほう、角の生えたウサギ。妖兎をおもいだすなぁ。きちんと処理して食べると上手いんだこれが」


 残念ながら、ダンジョン内のモンスターは倒しても消滅してしまう。

 素材とやらを落とし、これを換金することができるわけだが。

 解体ができないのは味気なさもあり、ありがたさもあり、だな。


「この兎が肉を落とせば、持ち帰って食べるのもありだなぁ」


 とにかく、とりあえず戦ってみるとしよう。

 兎はこちらに気付くと、結構な速度で突っ込んできた。

 ゴブリンのような、歩くよりはマシ程度の速度とはぜんぜん違う。

 普通の人が全力疾走してくるような速度、体躯も俺の半分くらいはあるから結構威圧感を感じるだろうな。

 それこそ、普通の人なら。

 しかし、これくらいならなんてことはない。


「倒せば消えることにも利点はある。肉を得るために加減する必要がないということだ……!」


 そして俺は、一気に踏み込んで角の生えた兎を殴り飛ばした。

 この程度なら、一瞬だけ氣を込めて踏み込めば十分である。

 兎を的確に殴り抜けると、勢いよく吹き飛んだ兎がそのまま消滅した。


「やはり脆いなぁ、第二階層であればこの程度か」


 軽く拳を開閉して感触を確かめる。

 ほとんど手応えがなかったな。

 ただ、一つ気になることもあった。


「兎の角、何やらおかしな気配がしていたなぁ。氣とも違う感じだが……定命の気配とは異なる気配だ」


 妖怪連中の使う妖力が一番近いだろうか。

 いや、それも少し違うように思える、似て非なるものというか……。

 まぁ、次にあったら確かめるとしよう。

 なお、落とした素材は肉だった。

 これは売らずに持ち帰るとしよう、今日は兎肉だな。


 そのまま、ダンジョンを進む事すこし。

 俺は先程の角の生えた兎や、でかいコウモリなんかを倒しながら先に進む。

 どれも動きは第一階層の雑魚と比べて明らかに俊敏。

 だが、人が生身で十分対処できる程度の速度だった。

 やはり第二階層では相手にならんな、と思いながら先に進んでいると。


「……色の違う兎?」


 先ほどまでとは違う色の兎を見つけた。

 さっきまでは青で、今は黄色だ。

 何が違うのだろう。

 ただ、纏う気配は明らかにこちらが濃密。

 といっても、俺からしてみたらほとんど誤差レベルだが。

 とりあえずこちらが上位の兎であると判断するべきだろう。

 多少なりとも強い相手と戦えるのは歓迎だ。


「お、何をしてくるつもりだ?」


 兎は、こちらに気付くと動きを止めて何やら力を貯め始めた。

 俺からしてみれば、あまりにも致命的な隙。

 だが、あえて放置することにした。

 爺ちゃんが見ていれば、怒鳴り散らしてきそうだが。

 何事も観察というのは大事だ。

 決して遊んでいるわけではない、本当だぞ。


 と、思っていると。



 ――黄色い兎の角から、バチバチと電気が俺に襲いかかった。



 妖術の類か!?

 慌てて回避しつつ、俺は兎に対する警戒を少しだけ引き上げた。

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