冴えない少女、目を覚ます
一般的に、ダンジョンの第一階層に屯してる連中っていうのは、色々と不適合な連中だ。
例外はダンジョン潜りたての子供くらい、まぁそういう子供はすぐに第二階層に進むんだけど。
なんで第一階層に入り浸るのが、ちょっと冴えない連中――私みたいなの――ばかりかっていうと。
ぬるいからだ、何もかもが。
ダンジョンの難易度とかもそうだけど、ダンジョンに潜る人間の態度もそうだ。
だって、稼ぐにしたって第二階層の方がもっと稼げる。
確かにモンスターが多少危険で、一人で戦闘できるくらいダンジョンに慣れてないと危ない目に合うけれど。
加護薬もあるのだし、気にせず突っ込めばいいのだ。
普通の人はそうしている。
一般人のサラリーマンや学生が、休日に小遣い稼ぎをする場合は第二階層を使うのが普通。
でも、無理。
私みたいなチキンには、大丈夫だと解っていてもモンスターに挑む度胸なんてない。
正直、スライムですら攻撃するのに躊躇してしまうのに、ゴブリンなんて出た日には死を覚悟する。
何より第一階層は稼ぎとしてあまりに効率悪い。
一日稼いで二千円くらいになればいいところ。
何も稼げないことすらある。
いくらぬるいからって、ダンジョンに潜ってこれじゃあそもそも潜る意味あるの? って話。
でもある、あるのだ。
なぜならたとえ稼げていなくても、潜っているという事実は手に入る。
ここにいる人間は諦めきれない人間だ。
ダンジョン探索者になって、大金を手に入れたり周囲からちやほやされたいという欲求を抱いてダンジョンを訪れて。
そして、諦めた人たちの墓場。
それがダンジョン第一階層という掃き溜めである。
私もそう、学校では冴えないモブその4くらいだった私が、ダンジョン探索者として有名になれば私をハブってくる連中を見返せるかも知れないと思って。
だけどダメだった、ダンジョン怖すぎる。
加護薬があっても、中での戦闘は現実なんだ。
そもそも、加護薬っていうのが結構な罠で。
最初の一本は運営が支給してくれるけど、死にかけて脱出した後。
二本目は有料だ。
これがバカたかい、私はお母さんにお小遣い前借りしまくってなんとか二本目を手に入れた。
そのくせ、一度加護薬の効果が切れるとそれまで使えていたスキルとかが使えなくなるのだ。
そもそも加護薬はダンジョンの魔力を体内に循環させることで様々な恩恵を得られる薬である。
これはなんというか、私達現実の人間をダンジョンというゲームシステムに調整するための薬。
そうすることで、モンスターを倒せば魔力を取り込んで「スキル」が使えるようになり。
死にそうになったら緊急手段として自動で脱出できる。
代わりに持ってるスキルは全ロスト、アイテム倉庫のアイテムがロストしないのは救済措置かも。
手に持ってるアイテムはロストするけどね。
不思議のダンジョンみたいな感じかもしれない、私はプレイしたことないからイメージだけど。
とかく、私達第一階層の住人は、ダンジョンと言う場所に憧れていながらダンジョンで何も成せていないダメな奴らってわけ。
そんな私達の前に、新たな新顔が現れた。
年の頃は多分高校生、私と同じくらい。
黒髪で、やたらと精根な体つきの、ぼーっとした感じの男だった。
スポーツか何かやってるのかな、スキルのお陰でダンジョンでそういう鍛えられた肉体とか全然関係なくなってるけど。
そんなヤツがどうしてこの掃き溜めに?
装備もつけてないし、何か事情でもあるのだろうかと思ってみていたら、そいつはどうやらスライムと戦うようだ。
なんでスライム? 目についたモンスターなら何でも良かったんだろうか。
とか、思っていたら。
そいつは、一瞬でスライムをふっとばした。
何をしたのか、まったく理解できなかった。
というか、見えなかった。
多分拳を叩き込んだ? 鈍い音がして、気がつけばスライムは弾け飛んでいた。
何が起きたのか理解できず、周囲の見物客と一緒にドン引きしていたことだけを覚えている。
後に、その様子は動画として探索者SNSにアップされ、結構話題を集める。
そして最終的には、『山育ち』が初めてネット上で認識された動画として歴史に残る事となるわけだけど。
その時の私には、想像もつかないのだった。
というか、それどころじゃなかった。
彼はスライムを倒すのにスキルを使っているようには見えなかった。
スキルを使うと体が少し光るからわかりやすい。
光ってなかったということは、アレは素の身体能力だったということになる。
なにそれ怖い。
そう思うと同時に――
アレなら私でもできるんじゃないか?
そう、思ったのだ。
もちろんそれはとんでもない誤解で、単なるバカなJKの考えだったんだけど。
大事なのは、私でもできるということだ。
スライムは動きが緩慢で、私ですら勇気を出せば倒すことができる。
だから練習を続けていけば、あんなふうに私もスライムを倒せるのではないかと考えた。
そこから、私は毎日ただただスライムを倒し続けた。
第一階層の人間でモンスターと戦おうとするやつなんていない。
ある意味格好の狩り場だ。
そこでスライムを倒すことにだけ集中し、ひたすらスライムを倒して倒して倒し続けて――最終的に、結構な月日が経った。
その間、私はスライムを倒す動画を無編集で探索者SNSに上げ続けた。
なんかこう、無限に継続しつづければどこかでバズらないかなーという皮算用によるものだったけど。
何しろ、無編集で上げるだけならコストもかからない、やるだけならタダだ。
結果として、それは正解だった。
最終的に私は『スライム狩り』として有名になり――まぁ、そこそこの位置のダンジョン配信者になるわけだけど。
今の私には……これも、想像のつかない話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます