カラの友
このめづき
第1話 友達?
参ったな、思ったよりも難しくなってしまった。
横からクラクションの音が聞こえたとき僕は、どうすれば
気がつけば、僕は道路の真ん中を歩いていた。横断歩道の信号機は、赤だった。
慌てて音がした方を向くと、寸前で止まっていた車が見える。反射的に走って、横断歩道を渡りきった。運転手が再び車を走らせながら飛ばした野次を背景に、どこからともなく、『信号赤だったって注意できなくてごめん』と、
やってしまった。書いている小説について考えていたせいで、周りが見えていなかった。
胸の中に、なんとも言えない嫌な感じが広がったが、
『大丈夫、次から気をつければいいんだよ』
と真人に励まされたので、少し気分は軽くなった。
『一時間目、歴史だよ』
教えてくれた真人に対して、ありがとう、と声に出さず礼を言った。
真人は、僕の友人ではあるけれど、実在しないし、周りからは見えない、僕の中にだけいる人格だ。本当に幼い頃、幼稚園児の頃に、うまく友人が作れずに一人ぼっちだった僕の前に現れた存在で、言うなれば、真人は友人の代わりになるような妥協策なのだろう。初めの頃は姿も見えたけど、高校生となった今は声だけになっている。また、真人は僕の中にいるため、声を出さずに意思疎通をすることができる。
そして、真人には僕の小説にも出てもらっている。
今書いている小説は、語り手である母を死に追いやってしまった少女、須川絵凪と、真人がモチーフとなった肝臓に病を患う少年、
絵凪の両親は四年前に離婚し、それから絵凪は母親である須川
由紀は離婚する前から日記を書くのが習慣となっていて、九月十六日も律儀に日記を記してから夕麗山へと向かい、自殺した。由紀は日記を書いていたことを絵凪に秘密にしていて、日記も普段から隠してあり、それはその日もそうだったから、日記には喧嘩が原因で自殺するということが記されていても、絵凪がそれを知ることはなかった。しかし、由紀の弟である須川
その後、絵凪は独り身である暢に引き取られてから、一年間かけて罪悪感を蓄積していった。もちろん、母を死に追いやったことについてではなく、母親が死んだ、しかも自殺したというのに自分が大して悲しみを感じていないことについて。例えば、葬式では「お母さんが死んだのに、それほど気にしていないようね」といったことを、これは絵凪のいないところでだったけど囁かれていた。それでも、直接言われなくとも周りがそう思っていることはなんとなく察せられるもので、絵凪の心はそういう聞こえない誹りに少しずつ蝕まれ、少しずつ負い目を育んでいった。
そして、奇しくも由紀が自殺したちょうど一年後の九月十六日に絵凪と暢は大喧嘩をして、うっかり暢は、日記のことを口走ってしまい、絵凪は母の自殺を最後に後押ししたのが自分であることを知る。それまでに蓄積された罪悪感とそのきっかけは、絵凪の足を夕麗山へと運ばせるのに十分過ぎるほど足るものだった。と、絵凪についてはこんな感じ。
さて、序盤から中盤にかけての大まかなプロットは出来上がっているが、終盤の、いよいよ絵凪を説得する場面で詰まってしまっている。理由は単純で、思っていたよりも絵凪が説得しづらくなってしまい、どうすれば止められるのか分からなくなってしまったからだ。それと、よくよく考えると、真人は肝臓に病を患っているのに登山するのはおかしいというのもある。
ちなみに、絵凪は真人と違って小説の中だけの存在だから、真人よりも行動や口調などを考えるのが難しい。イメージが漠然としているため、真人だったらこうだろうな、といった感じで動かすことが出来ない。それもこれも全て、キャラクターが固まりきっていないのが悪い。
脱線したけど、とにかく、どうやって真人に絵凪を説得させるか、というのが課題なのだ。
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