第19話 まさかそんな
僕の目の前に広がってきたのはいつものホームであった。
はて。これはどうしたことか。確か僕は魔物の軍団に立ち向かっていた真っ最中のはずなのだが。
ふと気がついたら魔物の姿がひとつもない静かなホームの前にいるということは、僕はまた死亡したということなのだろうか。
僕は腕組みをしてしばし考える。
記憶がどうも曖昧だが、つい先ほどまで非常に心地よい夢心地だったような気がしてきた。
いや、そうだ。実際に気持ちよく眠っていたような気がする。
ちょっと待て。それはおかしい。魔物の軍団に立ち向かっていた真っ最中でありながら、気持ちよく眠っていたとはどういうことだ。
記憶が混乱している。少し落ち着いて考え直してみよう。
僕は1人の女性を背にして、魔物の軍団に相対していたのだ。
その女性とは、千年大罪のミカである。
順調に記憶が戻ってきている。少し歩きつつ、更に考える。
ろくろ回しという鍛錬による強化に行き詰まりを感じていた僕は、後衛である煤闇(すすやみ)のシムナと共に戦うということで未知のレベルアップに挑もうとしていた。
が、しかし、そこから成果を得られるものはなかった。
「じゃあ、今度はミカと組んで戦ってみましょう」
予想はついていたが、レニは僕にそうアドバイスした。
ミカは回復魔法が得意な僧侶のようで、今までにそれ以外で何かしていた記憶がない。
魔法に関して才能がまったくない僕が得られるものなんてシムナ以上に見当たらないのだが、かといって代案も思いつかないので、レニのアドバイスに素直に従うことにした。
いい調子だ。だいぶ記憶が戻ってきた。
ミカという女性は、目鼻と口を的確に隠すように白い包帯か何かで覆われており、こちらから何か話しかけても表情がまるでよくわからなかった。
それ故に、何をしてもどう反応しているか、まるで理解ができない。
そこで例のごとく魔物の軍団がやってきたところで、僕はいろいろと一方的に話しかけてから彼女の真ん前で戦ってみることにしたのだ。
コミュニケーションをとるのが不可能なら、行動で意思を伝えようというわけだ。
「そうだ……! その時だった!」
思わず声が飛び出る。思い出したぞ。
ミカを背にして魔物の軍団を迎え討とうとしたその時、急に後ろから光が放たれたかと思うと、体がふわっと軽くなり、そのまま安らかな眠りについたのだ。
その時は、とても心地が良く、何よりも安らかだった。
そして、それからふと気がつくと、僕はホームの前に戻っている。
「ん……? ということは……」
嫌なことを思い描きながら、僕はホームの中に入った。そこにはいつものようにレニが待っていた。
「レニ。僕はもしかして、死んだのかな?」
「ええ、死んだわよ」
「そうかあ……。やっぱり……」
僕は思わず頭を抱えてしゃがみこむ。まったく自覚なく、命を落とし、また時間を戻して復活したようだった。
「それで、今度はどんなよくわからない死に方をしたのかな?」
僕がレニに尋ねると、レニは少し苦虫を潰したような顔をしてから答えた。
「おそらくだけど、あなたは殺されたわ。……ミカに」
「ええ!」
僕は驚いた。いや、薄々そういう可能性は感じていたが、それでも信じられないことだった。
他の2人にやられるのならまだわかる。イナズマのアッキーは既に僕を殴って気絶させている。シムナも僕を死なせる気でいっぱいだった。
しかし、ミカは僧侶か何かとしか思えない。僧侶が人を殺めるなんて、僕の想像力では信じられなかった。
「どういうこと……?」
「何から確認したい? どうやってやったのか。それとも、何故やったのか」
「え、ええっと……」
とにかくわかりやすく教えてほしいとしか思えなかったが、とりあえず思うままに答えた。
「レニは大丈夫だった?」
レニは少し目を丸くしたかと思うと、何度か咳払いをして自分自身を落ち着かせようとした。
僕もなんでとっさにそんなこと言ったのか、今ひとつよくわからなかった。でも、自然とするっとその言葉が出てきた。
レニは静かに冷静さを保った顔をしているが、その時ばかりは何故だかあどけなさを露わにしていて、可愛らしい顔だった。
一旦深呼吸を繰り返して落ち着きを取り戻すと、レニは改めて説明を始めた。
「あなたの記憶にはないはずだけど、あなたはミカに何度か殺されているの」
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