第20話 千年大罪のミカ①

 僕が千年大罪のミカに何度か殺されている。


 そう告げられた僕は、大いにショックを……受けることはなかった。


 何せ実感がまったくなく、レニの言うことが本当なのかどうかでさえ、僕は判断しかねた。


 時間が戻って同じ日の同じ時間に何度も戻っているのは確かに事実として感じているが、その遡りの事実を認識する前にも同様に遡りを繰り返していたかどうかについては、僕にとってはまったく手がかりのないことなのである。


 そんなわけで、僕は驚いていいのかすらよくわからなかった。


 そもそも僕の最後の記憶についても、どうして死んでしまったのかすらよくわかっていない。気がついたら、いつものように時間が戻っていたにすぎないのだ。


 だから、別にミカにやられてしまったわけではなく、気がつかないまま魔物の不意打ちを食らって力尽きてしまったのかもしれない。


 とにかく誰にやられたかについては確かなことが言えない。


 僕のそういった一連の思いが顔に出てしまったのだろうか。レニは僕の困惑を察したかのように、諭す口調で話を続けた。


「人に殺されただなんて、やっぱりショックだったようね。だから、可能な限りは告げないでおくつもりだったの」


 どうやら僕の困惑は特に伝わってはいなかったようだ。


 いちいち訂正するのも手間なので、僕はそのままレニの話に合わせてうなずいたり唸ったりして、話の続きを促した。


「でも、これまでとは状況がかなり違ったの。まだ、特に戦えなかった時代のあなたではなかったから、大丈夫なんじゃないかと思っていたの」


 レニはそこで渋い顔でため息をつくと、さらに続けた。


「ミカはね、根本的に悪い人ではないと思うの。でも、決めつけが早すぎるというか何と言うか……」


 何やら歯切れ悪くそう語る姿は、僕に対する弁解の気持ちが先に出ているからなのかもしれない。


 少なくとも、人を殺めるのを悪い人ではないとするのは無理があるように思えるのだが、そこは黙っておくことにした。


「次は私がちゃんと話をつける」


 手で額を抑えながら、レニは僕にそう宣言した。


 その後、いつもの面子が集まって解散しようとするところで、レニはミカを呼び寄せた。


 テーブルを囲って椅子に座り、僕とレニとが隣り同士となって2対1で対面するという、何だか妙な構図になっている。


 ミカは特に不満を露わにすることもなく、こちらに向かって素直に腰を掛けてくれた。


 思えば、イナズマのアッキーや煤闇(すすやみ)のシムナは、まず相手をしてくれないタイプだった。それを思うと、ミカはまだ接しやすい部類になるのだろう。


 向かい合って改めてミカの姿を見てみると、目を包帯状の布か何かでぐるぐる巻きにされ、ついでに布の終わりで顔の中心を縦に隠されて鼻と口が確認できないこと以外は、普通の女性という感じもした。いや、それだけでしっかり普通でもないが。


 鼻と口を覆い隠す垂れ下がった帯には「投獄千年」と忌々しく書かれている。そこからの印象がまたミカから不気味さを感じてしまう。


 僕はいくつか前までは異形とまで感じていたが、落ち着いて見てみると、不気味なのはそのあたりだけで、実際にはけっこう普通の女性ではないかと考え直している。


 目を覆い隠されていて、どうやって行動しているのかと思っていたが、よく見るとぐるぐる巻きの目の中心付近には隙間があり、そこから視界を確保しているように感じられた。


 声や肌から判断するに、僕から年が離れているようには思えない。もしかすると、同年代なのかもしれない。


 前髪が左頭部から流れるように揃えてあるのに対し、後ろ髪はかなり短くしていて、肩のあたりまでの長さになっている。少しはねたりしていて、雑に切られているようにも思える。


 首から下となると、印象はかなり変化し、誰もがひと目で聖職者と思うような出で立ちだ。


 金色の縁取りが施された純白のローブを、青い宝石がはめ込まれたブローチで留められており、肩からはこれまた真っ白いマントが垂れ下がっている。


 ローブの下もまた真っ白く、それでいて簡素なドレスであり、高いウエストの位置から短めのスカートが広がっている。袖は七分丈で、全体的に肌の露出が多い気がするが、それもまた何か意味があるのかもしれない。


 これだけ上位の聖職者の威厳を漂わせる姿で、顔のど真ん中には「投獄千年」と掲示されている。一体、何をしたらそうなったのだろうか。


 僕には実感のないことだったが、ミカは僕の命を奪っているらしい。だから過去にもたくさんの人を手に掛けたのかもしれない。


 いや、しかし。それならそれで、すぐさま処刑されて既にこの世の人ではなくなっている気もする。


 他国の事情はよくわからないけど、少なくとも「投獄千年」とは実に穏やかではない。


 そこのあたり、本人に尋ねたい気持ちもなくはなかったが、今は基本的にそれどころではないので、僕の中だけで棚上げにしておいた。


「それで、私に話って何かしら……?」


 落ち着きながらも透き通った声を響かせてミカは尋ねた。その声からして、彼女の生真面目な人となりが伝わってきた。


「あなたにお願いがあるの」


 レニもまた落ち着いた声で、なおかつ力強さを含ませて言った。

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