第11話 強化の仕組み

「こんな物を使わせてしまって本当に悪かったわ。ごめんなさい」


 レニは心底申し訳なさそうに頭を下げた。


「いや、そんな、謝らなくてもいいよ。場違いなところにいる僕が悪いわけだし……」


 もっと言えば、おかしな人選をしている僕の国が悪いのだが、それは飲み込んでおくことにした。


「この魔法で何とかと思ったけど、やっぱりまだ実用には至らなかったわ。何か他の方法を考えなきゃね……」


「他の方法ってどんな……?」


「ここから安全な場所に移動して隠れてもらうとか、とにかくあなたの安全を第一に考えているわ」


「ちょっと待ってほしい。それならまたあの魔法を使わせてほしい」


「え? ……でも」


「確かに僕は無力だ。あの3人と比べたら、戦力として数える価値もないのはわかってる。でも、何の力にもなれないままなのが悔しいのも確かなんだ。頼むよ……!」


 僕の訴えにレニはしばらく目を見張っていたかと思うと、少しうつむいた。


「やっぱりそう来るのね……」


 小さな声でそう言ったかと思うと、どこに隠してあったのか、レニは例の壺を取り出した。


 どうやら既に準備は終えていたらしく、手をかざすと反応するようになっているようだった。


「改めて説明をするわ。あなたがあの日みたいに過剰な自信で暴走してしまったのも、本当は想定通りのプロセスではあったの。ただ、あそこまでの強さだと想定できていなかったのが失敗だったわ」


「今度は大丈夫だよ。きっと使いこなす」


「ええ。そして、この魔法は感覚を養うことでより強くなっていく」


「感覚……?」


「そう、感覚。ところで、私たちにかかっている呪いによって時間が戻った時、体調に変化が起きていることに気がついてる?」


「え? どうだったかな……」


「例えば、それまで空腹だったのが、今日の日に戻った途端に空腹を感じなくなっていたり、また逆に満腹だったところから急にお腹が空いてくるとか」


「体調ってそこのところから……? どうだったかな……」


 言われてみると、極度の緊張と興奮の状態から、時間が戻った瞬間に脈が落ち着いた気がする。


「言われてみると、そういうのはあったような気がする」


「もっと繰り返せば自然とわかるようになるけど、とにかく戻ってきた時間の瞬間に肉体も戻っているの。だからケガだって治っているのよ」


「そうかあ……。時間が戻るってそういうことなんだろうね」


「ただ、例外があって、記憶や感覚は引き継がれているのよ」


「え、そうなんだ」


「だから私も同じ魔法陣を何度も書いていたから、ここに来る前よりもかなり早く書けるようになったわ。それでも魔王の封印に成功するまでには届いていないのだけど」


「ということは、僕も死亡前の記憶や感覚を維持できるっていうこと……?」


「その通りよ。そしてこの魔法は使用者のより深く順応した感覚に応えることであなたを更に強くしてくれるというわけ」


「強くなったまま新しく始まるって、とってもすごいじゃないか」


「失敗作の魔法をそのまま使うわけだから、本当はよくないのだけど……」


「十分すぎるほどだよ! ためらわずに積極的に使わせてくれればよかったのに……!」


「でも、他に何が起こるか、まだまだわからないの。私にもよくわからない死に方をするかもしれない」


 よくわからない死に方……。心配の仕方を少々不思議に感じる。


「なに、気にすることはないよ。どうせ魔王の封印に失敗したら結局死んじゃうんだし」


「でも、どこか安全な場所に身を隠せば安全に30日後をしのげるかもしれないわ。この危険な魔法を選ぶより、他に逃げる方法を考えてみるべきよ」


「あんな強烈な光を世界中が喰らったら、社会も崩壊して生き残り損になるだけだよ」


「……わかったわ」


 レニは最後には優しい笑顔で壺を僕に手渡した。


 その顔は何だかとても嬉しそうだった。


「よし! 回すぞ、ろくろ!」


「……ろくろ? 何それ?」


 レニはとてもとても不思議そうに僕を凝視した。


「あれ? これに何か名前とかあった?」


「いえ、名前とか一切ないわ。改めて最初から研究しなおして作り直す予定だし。好きに呼んでくれて構わないわ」


「じゃあ、回すよろくろ!」


「え、ええ……」


 思いの外、僕の30日間は明るくなるような気がした。

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