第10話 tueee!
シュッ、シュッ。シュッ、シュッ。
そうしている内に、外から喧騒が聞こえてきた。
このタイミングで無数の足音。あいつらに間違いない。
「来たか、ゴブリン軍団!」
もう僕は蚊帳の外でも何でもない。新しく生まれ変わったこの僕があいつらすべてを倒してやろう。
「うおおおお……!」
僕は乱暴に自室のドアを蹴破って通り道を作ると、猛ダッシュでホームから飛び出し、ゴブリン軍団のもとへと駆け抜けた。
いつもと違って足も非常に軽やかだ。たったあれだけのろくろ回しで、走ってもまったく息が切れないぐらいに僕の足は強くなっていた。
すごい……! この壺すごいよ、レニ……! こんなにすごいものがあるなら、最初から使わせてくれればよかったんだ……!
わらわらと集まるゴブリン軍団の前には、イナズマのアッキーが腕をブンブン回しながら立ち構えている。
今となっては、彼女も僕からするとただの格下にすぎない。ちょっとそこをどいてもらおう。
「な、何しに来たんだ、お前……!」
後方から駆けてきた僕に気づいたアッキーは驚きの声をあげていた。
優しくて弱者思いの僕は、格下の彼女を蹴飛ばすことがないよう間を空けてあげて、その脇を駆け抜けた。
彼女があれだけ僕を邪険にしたのが早くも懐かしい。
何とも言えない皮肉ではあるが、強さを手に入れた今の僕には当時の彼女の気持ちが手に取るようにわかってしまう。
自分よりはるか格下に対する雑音と同等の感覚。
逆の立場であれば、僕も彼女と言葉を交わそうだなんて微塵も思わないだろう。
申し訳ないけど、今の僕も無能な味方相手に時間を取る意味すら感じないのだ。
アッキーとのすれ違いでそこまで考えると、僕はそのままゴブリン軍団のど真ん中へと突っ込んだ。
アッキーは何かを叫び続けていたようだが、うっとうしいだけなので、僕は注意を寄せるのを放棄した。
そして目の前に立ちはだかるゴブリン軍団は僕に対して驚きおののいているようだ。
すまないな、まさか突然これほどまでに強い人間がやってくるとは、奴らも想像すらしなかっただろう。
僕は真ん前のゴブリンに鉄拳を喰らわせようと腕を構える。
その相手のゴブリンがそのまま僕を殴り返そうと腕を振り下ろすのが見えた。
どうやら僕の視力も強化されていたようで、前方のゴブリンたちの動きもすべて捉えるのが可能になっている。
左右から並々ならぬ数のゴブリンが棍棒を僕にめがけて振り下ろそうとしているのが、スロー状態で確認できた。
たった1体相手とは思えないぐらいの数多の攻撃の手が僕に降り注ぐ。
そのひとつひとつが僕の体に差し迫り、そして……。
「……ん? あれ?」
と、そこで、僕はホームを目の前にして立っていたことに気がついた。
あれだけ多くいたゴブリン軍団はどこかへときれいさっぱりと消えてしまっている。
これは一体どうしたことだろう?
ろくろ回しの効果は肉体の強化だけではなく、魔法で魔物をすべて消し去るみたいな能力もあったのだろうか?
「い、いや……。ちょっと待てよ……」
今の僕はホームに向かって立っている。
ゴブリン軍団がいたのは、ホームとは真逆側である。
なんだかとても嫌な気がする。
とりあえず、僕はホームに入ることにする。
ぎぃぃぃぃぃ……。
ゆっくりと扉を開ける。相変わらず部屋は昼間にふさわしくない薄暗さで、中にはレニがたたずんでいた。
「ゴブリンの軍団はどこへ行ったのかな……?」
恐る恐る僕は尋ねた。
「ゴブリンの軍団なら、初日のあの日に3人が撃退したわよ。……あなたが死んだその後に」
「やっぱり……。そうなんだ……」
どうやらゴブリン軍団に突っ込んでいった僕は、総攻撃を喰らって死亡し、そして時間が戻ってあの場所にまた立っていたようだ。
だ、ダサい……。あまりにもダサい……。
「あの魔法はやっぱりまだまだ研究が必要だったみたいね。馴れない強さを急に与えられてしまうから、元々強くない人ほど精神に支障をきたしてしまうようなの」
「な、なるほど……。確かにおかしいと思ってたよ」
僕の最も長い30日間はまだ始まったばかりのようだった。
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