第7話 魔王に敗北した世界
随分移動したはずなのに、何故ここに瞬間移動しているのだろう?
ずっと集めていたキノコもどこかへ消えてしまった。食べるのを楽しみにしていたのに……。
仕方がないので、家屋の中に入ってみることにした。
ぎぃぃぃぃぃ……。
昼間なのに薄暗くなっていたところに、やはりレニがたたずんでいた。
「なんだかよくわからないけど、ここに戻ってきたみたいなんだ」
とりあえず、僕はレニに声をかけてみた。
すると、レニは心底驚いた顔をした。
「何もそこまで驚かなくてもいいじゃないか」
あまりの驚きように、僕は少し呆れて反応してしまった。
まあ、出戻りの人間に対して良い印象がないのは仕方がない。いや、そもそも僕は自分の意思でここに戻ってきたわけでもないが。
ところが、レニが次に言ってきたことは、また少し予想したのは違う内容だった。
「あなた、私の名前がわかる?」
「レニでしょ? 封魔という二つ名の」
そう言うと、何故かレニはとても悲しそうな顔をした。僕はそんなに何かまずいことでもしたのだろうか。
少し虚空を見上げてから、レニはどこからか小箱を取り出して、僕にたずねた。
「この箱の中に入っているものを言ってみて」
見覚えのある小箱だ。僕は少し考えると、レニと初めて会った日のことを思い出した。
確か、あの時に入れていたものは……。
「……そうだ、魔法陣を書き終わった時にチョークを入れた箱だよ」
そう言うと、レニの目からは涙がこぼれた。
僕は何かひどいことでも言ったのだろうか。まるで意味がわからなかった。
「ど、どうかしたの……? 僕、何かやっちゃったかな……」
レニは涙を拭いたかと思うと、息を整え直して、僕に話を始めた。
「私はここに来てから、この箱はまだ一度も開けていないはずなの」
「え? じゃあ、それとは別の箱だったのかな……」
「……この建物の2階の1番奥に、私が使っている部屋があるのだけど、それは知ってる?」
「なんとなくは知ってるけど、近くに寄ったことはないかな。もちろん入ったこともない」
「わかったわ、私についてきて。そこであなたに説明しなければならないことがある」
そう言うと、レニは階段を上っていくので、僕もそれについて行った。
レニが2階の奥の部屋を使っているのは一応知っていたが、これまで何か用事があったわけでもないので、ずっと近寄らないままだった。
「さあ、入って」
先に入室したレニに促されるままに、僕も部屋に入った。
すると、そこには……。
「わあ。これはきれいだなあ……」
僕は思わず、うなってしまった。
今までに一度も見たことのない大きさの砂時計が美しく虹色に光っていた。
高さは子ども1人分ぐらいになるのだろうか。輝く虹色の光は、その砂時計自体から発せられているようだった。
この砂時計は詰まってしまっているようで砂は落ちていなかった……と、最初見た時にはそう思ったのだが、よく見てみると、ほんのわずかにだが砂が落ち続けている。この分なら砂が全部落ちきるのに相当時間がかかるだろう。
「この砂時計は私自身にかけた呪いよ。私が死ぬと時が戻るようになってる」
「へ?」
レニが突然に物騒なことを言うものだから、僕は目が点になった。
「より正確に言えば、この砂時計は1日1回、私の生存を確認するの。そこで私が死んでいるのを察知した瞬間、この世界の時間を今日に巻き戻す」
「死んだらって……」
「私は既に数え切れないぐらい殺されてるの。もちろん私だけじゃない。他の3人もそうだし、あなただって私の知る範囲内でも何度も殺されているわ」
「いやいや、僕だって、殺されたりなんてしたら忘れるわけが……」
そこまで言いかけて、僕は言葉が詰まった。
魔物の群れに襲われたこと。急な光に包みこまれたこと。そして、その直後に初めから何もなかったかのように場所を移動してきたこと。
自覚のないまま、僕は死んで、そこからまた時間が戻って復活したと仮定するなら、全部辻褄が合ってしまった。
「確かに、僕は2回、おかしなことが……」
「いえ、それが2回どころじゃないの」
「一体どういうこと……」
「私は何度も死んでは今日の日に戻っているから、同じだけあなたも死んでいるはずなの……」
僕は、僕自身が知らないところで何度も死んでいた!
……言葉にしてみると、何者かに化けた動物から説教を聞かされている気分だ。
「でも、それを私以外が気づくはずはなかったの……。それなのに……」
そこまで言うと、レニは頭を抱えてしまった。
その姿は、親に厳しくしかられてしょげている少女のようだった。
「要は、今までレニだけが死んで時間を戻るという経験をしてきたけど、僕も同じように経験するようになっちゃったということ……?」
「本当にごめんなさい……!」
僕は謝られたが、それに対してどういう反応をしたらいいのかよくわからなかった。
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