第8話 筋トレ聖女、爆誕

 そして迎えた宮廷舞踏会当日。

 私はマーメイドドレスに身を包んで会場である大広間に現れた。


 髪の毛は結い上げて真珠の髪飾りをつけ、首元にも真珠のネックレス、夜の闇を思わせる濃紺のドレスにはいくつものクリスタルをちりばめた。腰の位置は高めに、ヒップの丸みは強調して、足元に流れるドレスの裾は優雅に。上身頃は露出を控えた代わりにレースをたくさん使った。背中は大きく開いており、コルセットを着けていないことも強調。


 私が入場した途端、おしゃべりの声が鎮まり、誰もが私のドレスに目を瞠る。

 私を出迎えたアルバート殿下ですら言葉を失っていた。


「……エルシーア嬢だったのか。見違えたよ。……斬新なドレスだね。いったいどこで?」

「私がデザインしましたわ」


 たずねるアルバート殿下に、周囲で聞き耳を立てている人達にもはっきり聞こえるように大きな声で言う。


「実はこちらで侍女見習いをしておりますアマリエ様に、癒しの聖女の力があるそうですので、その力をわけていただいていたのです。王宮にて体調を崩した私に、アマリエ様は惜しみなく癒しの力を注いでくれましたわ。そしてアマリエ様のお力でわずか二か月にて、この通り、コルセットなしでコルセットがあるのと同じ体にしていただけましたわ」


 言いながら私は腰に手を当てて腰の細さを強調する。


「異国には癒しの力を持つ聖女が現れると国が栄えると申します。アマリエ様のお力は本物と確信いたしました。この国は間違いなく栄えることでしょう、アルバート殿下。ぜひアマリエ様を大切にしてくださいませ」


 私が(少々芝居がかった大げさな)笑みを浮かべると、アルバート殿下は私の勢いに呑まれながらも頷いた。


 今夜の計画はこうだ。

 私は、私のスタイルのよさと斬新なドレスの美しさを見せつけること。

 これを着こなすにはアマリエの力が必要であること。

 アマリエの癒しの力はすごいんだぞと吹聴してまわること。

 そしてクラヴィスにも取ってつけたように「そういえば、こんな話を聞いたことがある」と(ありもしない)遠い国の聖女伝説を語ってもらう。


 本当にこんなことでうまくいくだろうか? とは思ったけれど、私がコルセットなしでスタイルキープをしていることを知ると、特に同世代の令嬢たちは前のめりになって話を聞きにきた。

 筋トレはスタイルキープだけでなく、病気も遠ざける。

 その話までつけたら、令嬢だけでなくその母親たちも興味津々で私の話を聞いてくれた。

 いつの時代も女性の関心ごとは美容と健康なのだなとしみじみ……。


 クラヴィスはクラヴィスで男性たちの間に「聖女が現れた国がどれだけ繁栄したか」という昔話を流布してくれた。

 あとで聞いたら、クラヴィスの話はあながち作り話でもなく、聖女伝説が伝わる地域の話をきちんと調べて流布したとのこと。

 ずっと東の国では、空からやってきたため「天女」と呼ばれているらしい。

 知らなかった。

 聖女伝説って、ちゃんと存在したのね。


 こうして筋トレパワーで人々を癒す(というか健康にする)聖女アマリエが爆誕した。


 アマリエの癒しの力は(プラセボ効果もあると思うけれど)すぐに評判となり、アマリエは本物の聖女として認められ、多くの人々から敬われる存在となった。

 そして聖女爆誕から半年後。

 私、エルシーア・ラインとアルバート殿下との婚約は破棄され、アルバート殿下は聖女アマリエと婚約し直した。


 私は、というと……。

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