第6話 筋トレの効果
二か月もすると、私たちはその効果を実感できるようになってきた。
季節は夏。
「おなかが引き締まってきたわ」
体操服の上から自分の腹部をさすると、
「私もです、エルシーア様」
アマリエもおなかを触る。
「それに心なしか胸も大きくなったような」
体操服の上から自分の胸をもむと、
「私もです」
アマリエもモミモミ。
「僕がいることを忘れているだろう」
すぐ近くからクラヴィスのツッコミが聞こえたが無視をする。
「ということは、いよいよアレを実行する時ね」
「いよいよですか」
「ええ、いよいよ」
「エルシーア様はスタイルが抜群なので、きっと社交界の皆様の注目の的になりますね!」
「ええ、まかせてちょうだい」
私はガッと体操服のズボンの裾をまくり上げて脚をあらわした(膝から下だけよ)。
「私の脚線美で必ずや社交界のご令嬢方の視線を釘付けにしてくるわ」
「……」
「クラヴィス様、ここはツッコミをいれる箇所です」
私のダメ出しに、クラヴィスは微妙な顔をしてみせた。
最初こそ下着に見える体操服に動揺していたクラヴィスだけど、みんな同じ体操服姿で筋トレをしているうちに、そのかっこうでいることへの抵抗感もなくなってしまったらしい。最近では真夏ゆえに「暑い暑い」と私とアマリエが上着の袖やズボンのすそをまくり上げても何も言わなくなった。
クラヴィスは暑くてもそんなことはやらないけれど。
私たちの国では社交シーズンの始まりの日と終わりの日に宮廷舞踏会が開かれる。
そこで私は新しいデザインのドレスを披露するつもりだ。
コルセットなし、体の線を出したスタイルのドレス。日本でいうところのマーメイドドレスだ。
この国では上身頃はコンパクトでデコルテを出し、スカート部分は大きく広がるドレスデザインが主流だ。ウエディングドレスでいうところのプリンセススタイルというものね。マーメイドドレスは相当に目を引くだろう。
豆知識だけど、ハリウッドセレブがこうしたドレスを着るときは下着をつけない。ブラもパンツもナシだ。
私はパンツははくわよ。そこまで勇気はないから。ただしドレスに下着の線が出てはいけないので、極小の紐パンである。現世はもちろん、前世でもこんなセクシーパンツなんてはいたことはない。
マーメイドドレスを作ろうと思ったのは、エルシーアが長身で元々のスタイルがいいからだ。たぶん筋トレ前でも着こなせた。しかし筋トレをしたことで体が引き締まり、よりメリハリがついたので「これはマーメイドドレスを着るべき」と閃いたのだ。
エンパイアスタイルと迷ったけれど、筋トレの効果を見せつけるにはやはり体のラインを出したほうがいい。
問題は斬新なスタイルが受け入れられるかだけれど、夏の間のお茶会で友達や知り合いにそれとなく聞いてまわったところ、みんなぎちぎちコルセットには閉口していると言っていたので、解放的でも上品なデザインならいけるはずだと踏んだのだ。
何よりマーメイドドレスはロマンチックだものね。
仕立て屋を招いて話をしたら斬新すぎて「えー」という顔をされたけど、あまり得意ではないイラストでせっせと説明をしたら引き受けてくれた。
まだ仮縫いで仕上げまではもう少しかかるのだけれど、私が思った以上に素敵に仕上がりつつあるのでとても楽しみだ。
前世で「結婚式にはどんなウエディングドレスを着ようかしら」と妄想していたことを思い出す。
プリンセススタイルもいいけれどマーメイドドレスもいいわね~、なんて。相手はいなかったけど。
でも前世の私は小柄でスタイルがいいというわけでもなかったから、プリンセススタイルはあまり似合わなかったと思う。
エルシーアは長身でスタイル抜群だからなんでも似合う。
転生万歳。
「ですが、あのドレスでダンスができますか? 足が動かしにくそうに見えますが」
ふと、アマリエが聞いてきた。
「さあ……? できるのではないかしら」
やったことはないけれど。
「練習していったほうがいいと思います。ドレス、デザイン用の仮のものがございましたよね。あれで練習しましょう。私がお相手します」
ダンスは得意だったんですよ、と元伯爵令嬢のアマリエがやる気を見せる。かわいい。
「だったら、僕が練習相手になろう」
クラヴィスがアマリエを遮って申し出る。
え、と思って振り返ると、
「だって、実際にダンスをするのはアルバート殿下なんだろ? アマリエは小柄だから、練習台なら僕のほうが適している」
クラヴィスの説明に、それもそうねと私は頷いた。
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