第5話 私を超えておゆきなさい
筋トレ聖女を思いついて数日後。
私はライン公爵家のタウンハウスにアマリエ、クラヴィスを呼び出した。
アマリエには「アルバート殿下への気持ちが本物なら私のところに来い」というもの……まるで果たし状……
クラヴィスには「聖女爆誕の立会人になりなさい」という内容で。
なのでアマリエはびくびくしながら、クラヴィスは何が何だかという顔で我が家に現れた。
そして出迎えた私は「体操服」姿。しかも両脇に二人のぶんの体操服を抱えている。
「……なぜ下着姿なんだ」
現れた私に、クラヴィスが呆れ果てる。
「体操服よ。あとであなたたちにも着ていただくわ」
「……なぜ令嬢の前で下着姿になる必要がある!」
「その! ピチピチのズボンにシャツにベストにタイに上着姿で、筋トレができるわけないでしょうが! 動きやすい服装でいらしてねと言ったのに!」
私の剣幕にクラヴィスがあわあわする。
その隣でアマリエまであわあわする。
……やだ、かわいい……
ちょっとキュンとしちゃった。
「アマリエ様、まずおうかがいしたいのですけれど、あなたのアルバート殿下へのお気持ちは本物ですか?」
私はアマリエを見つめた。
私の声に、アマリエが真剣な表情に戻って私を見つめる。
「もちろんです」
「アルバート殿下の妃になりたい?」
「か、かなうのなら」
「側妃でもいいとは思わなくて?」
「……私は側妃でもかまわないと思っています。でもアルバート殿下はどうしても正妃として迎えたいと。そうしなければ私の立場が弱いままでつらい思いをすると。それはいやなのだと常々おっしゃっております。アルバート殿下が私に正妃をお望みでしたら、私はその思いに応えたい」
私の質問に、アマリエが真っ赤になりながらも真剣な表情で言い返す。
なるほど~……。
「であれば、あなたは私を倒さなくてはなりませんわね。私はアルバート殿下の婚約者なのですから」
「……」
「実は私、好きでアルバート殿下の婚約者をしているわけではありませんの。今からあなたに私を超える力を授けます。私を超えておゆきなさい、アマリエ様。あなたならきっとできます! そして私を超えるガッツをお持ちなら正妃の座などチョロいものでしょう!」
「は、はい……?」
アマリエが首をひねる。
私の言っていることがよくわかっていないわね。私もよくわかっていないもの。
「声が小さいですわ!」
「は、はい!」
「というわけで、二人ともこれに着替えていらして。更衣室はあっち。部屋は別々にご用意してあります」
私がパチン、と指を鳴らすと、部屋の外に待機していたメイドたちがスススと入ってきて、「こちらへどうぞ」と二人を誘った。
「本気か? 下着だぞ、これは。下着姿で令嬢二人に男が一人って、すごくまずい気がする」
「だったらご自分で体操服を用意していらっしゃいな!」
こう見えても試作を重ねて作った体操服なのだ。文句を言うクラヴィスに腹が立って、私は小脇に抱えていたクラヴィスのぶんの体操服をクラヴィス目がけてぶん投げた。
ボン、といい音がしてクラヴィスがキャッチする。
「……コントロールがいいな……」
「でしょう」
ふふん、と胸を張ったが、たまたまである。
こうして私の「アマリエ筋トレ聖女化計画」はスタートした。
ところでこの計画、私の筋トレ知識をアマリエに伝授するというものだけど、はた目には私がアマリエの聖女の力に心酔しているように振る舞った。
突然急接近した私とアマリエに、当然、周囲の人々は不思議に思う。
特にアルバート殿下は私を警戒した。
この計画、私のほうが知識の持ち主だということがバレたらアマリエを聖女にできないから、口外禁止である。
アマリエはけなげにも恋人であるアルバート殿下にすら、ちゃんとこの計画を黙ってくれていたようだ。
さて、筋トレ。
私たちは週に三回、筋トレの日を作って一日に一時間、せっせとワークアウトに励んだ。
アマリエは見習いとはいえ侍女なので、時間は仕事帰り。つまり夜だ。
アマリエはアルバート殿下のためにちゃんとその時間にやってきた。
驚くべきはクラヴィスね。そんな時間にもかかわらず、彼もまたちゃんとやってきた。
素晴らしい。
筋トレも、最初は「どうだったかなー」と記憶がおぼろげな私だったけれど、やっているうちにいろいろと思い出してきて助かった。ありがとう筋トレにハマっていた前世の私!
若くして死ぬことをあなたは嘆いていたけれど、あなたの人生は決して無駄ではなかったわ。
あなたの生きた証が、こうして転生した私を助けてくれる。
思い出したことはノートにしたためてアマリエと情報共有。
私たちの筋トレにクラヴィスも付き合ってくれた。
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