第4話 そうと決まったら、善は急げ
「古今東西、人を集めて金儲けをした集団ならいくらでもいる。たいていは奇跡を見せつけることで無知蒙昧な人を騙す。この際の奇跡というのは、タネも仕掛けもある奇術だな。あとはサクラ、つまり奇跡があるかのように騒いでくれる仲間がいるか」
場所を変えて王都にあるクラヴィスの自宅、つまりフェルス侯爵家のタウンハウスにて。
私はバラが美しい中庭がよく見えるテラスに通された。
メイドがお茶を淹れてくれる。いいにおい。
その茶を飲みつつ、私とクラヴィスは「アマリエを聖女にする方法」について相談していた。
「あまり変な奇跡だと、それこそカルト宗教の教祖様になってしまうわね」
「……かると……?」
私の言葉にクラヴィスが首をひねったが、あいにくと私はカルトをこの世界の言葉に変換する語彙力がなかった。
「王妃様になるのだから、奇術系の奇跡もなし。できれば一発芸ではなくて、ずっと再現できるもののほうがいいわよね。クラヴィス様はどうお考え?」
「そうだな。異論はない。……できれば特別な知識、のようなものならいいのだが……。この国にはないような知識であれば。たとえば、病気を治す知識とか」
ああ、なるほど。医療系の専門知識。
ないわ……持っていない……前世の私は一般人でした。すみません。
いやでも待てよ?
「……健康増進の知識は?」
「は?」
「この国の女性は華奢であるほど美しいとされているわよね。だからコルセットで体を締め上げて細く見せることが一般的なんだけれど、実は私、コルセットは窮屈でたまらないの。コルセットで健康被害は出ていないのかしら」
「どうしてそんなことを知りたいんだ?」
「私、こう見えて筋トレマニアだったのよね」
もちろん前世の話である。
エルシーアは筋トレをしていない。
「きんとれまにあ……?」
私の言葉に再びクラヴィスが首をかしげた。
「決めたわ! アマリエ様には筋トレ聖女になってもらいましょう! そうと決まったら、善は急げだわ」
私はガタンと立ち上がった。
こうはしていられない。早速行動開始だ。
「おいおい、勝手に暴走しないでくれ」
「気になるのならクラヴィス様もお付き合いくださいな。動きやすい服装でいらしてね! ああ、お茶をご馳走様」
私はそう言い残すとクラヴィス邸をあとにした。
***
作戦はこう。
私とアマリエ二人で筋トレをする。
私が健康増進して「奇跡だ!」と吹聴する。
実際、今の私はなんのトレーニングもしていないので、しっかり筋トレをすれば効果を実感できると思う。
あながち嘘ではない。ここがポイントだ。
まったくの嘘っぱちなら、バレた時のダメージが大きい。
嘘ではないから、アマリエの聖なる力は本物ということになる。
奇跡の体験者が私だけでは少なすぎるので、第三者が私たちの筋トレに参加して奇跡を体感する。
こうしてアマリエは筋トレ聖女になる。
この国で高貴な女性は継続的に体を動かす習慣はない。
労働は労働者層のものであって、貴族階級の、特に女性は屋敷の中で優雅に過ごしていることがよしとされる。
運動不足は健康によろしくない。
きっと効果があるはずだわ。
それに筋トレの知識は私しか持ち合わせていない(動画サイトで見たものだけど)。
聖女の力にぴったりだ。
というわけで、私は自宅に戻ったあと、大急ぎでメイドに命じて「体操服」を作った。
学校で着ていたものではないわよ。伸縮性のある生地が手に入らないので、ゆったりめのブラウスにズボン。
この世界の基準でいうと、下着かな? というような代物だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます