機械少女
佐良
機械少女
「私……もう…ダメに……なっちゃったから……」
速射砲のような鈍色の雲から、霧と雨が降っていた。
その下は、銃声が隙間無く鳴り響く戦場だった。
柔らかく泥濘んだ地面で、頭部に損傷を負い、人工プラスチックの義眼を覗かせている少女が倒れていた。
彼女は人形戦闘機、クライシスMK.2型、通称「アリア」。
彼女の視界にはノイズは走り、とてもクリアとは言えない。
意識は今にも電子の藻屑へと消えそうだった。
頭部、両足の損傷。
右腕も半壊し回路が見えている。
フルスロットルで全出力の20パーセントも出ない。
「いや、まだ直せるはずだ。工兵!クソっ!」
「アレグ指揮官…もウ……よいのです……」
隣にいたアレグと呼ばれた彼女の指揮官がそう叫ぶと、アリアが損傷していない方の腕でアレグの手を握り、宥めた。
周囲はバグどもの群れが囲んでいた。
戦線の右翼と中央はすでに友軍が突破した。
正確には無線で聞いただけだが。
仲間が来るのも時間の問題だろうことは分かる。
「…………」
アレグは沈黙した。
アリアは回路の露出した顔に笑みとも言えぬ表情を浮かべ言った。
「私は…核に……攻撃…さレました……もう少しで…タイムリミット…ガ……だから……」
アレグはアリアの話を遮るように強く、優しく彼女を抱きしめた。
人形戦闘機は自我を維持し、戦闘に対する意欲を向上させる「核」を持ち、それを「命」とする。
それが攻撃され、損傷を受けたら自爆する機能が搭載されている。
これを作ったやつは趣味が悪いと、始めて見たときに、冗談半分でアレグは思った。
まさか本当に使うことになるとは思わずに。
これは、周囲にいる敵を最後まで殲滅させるための最終戦闘機能だった。
両腕の五十口径砲も、両肩のミサイルランチャも、人形戦闘機1体につき3発支給される小型の熱核弾頭も、それら全てを失った時のための最後の抵抗手段だった。
「だったら、俺もここで…お前と終わる!」
アレグはハッキリと、心の内からそう叫んだ。
「……あナタには………生きテいて…ホシイです」
感情回路も損傷しているのか、涙は出ていない。
それでも震えた声で言う。
「すまん…俺は……お前が居ないと生きてはいけない…だから、アリアと一緒に天国へ行くよ」
アリアの核が青白く光り始めた。
爆発の兆候の光だ。
もうまもなく自爆機能が起動することを表している。
「……ふフ……最後マで、あなたラしい……姿デ…イテクれて……アリガトウ…ござイマシタ……」
核の光が点滅し始めた。死へのカウントダウンだ。
アリアの声も人間調から機械調の声へ変化していくのがわかったていたが、それもどんどんと質の悪い合成音声のようになっていった。
アレグは涙を流しながら、強く抱き締め、最後にこう言った。
「こちらこそ…ありがとう……愛してる」
「エエ……ワタしも…アイしてイマスヨ……」
直後、青白い光が彼らを包み、それから全て終わった。
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あれからどれくらい経っただろう。
ある時「バグ」と呼ばれる地球外生命体が、地球に来た。
バグは有無を言わせず人類へ攻撃を始め、それから戦争が始まった。
ここはその中でも特に戦いの激しかった、フランスのヴェルダンだ。
砲弾の跡が今でも多数残る、この万緑の草原の真ん中に、ポツンとクローバーの花が咲いていた。
機械少女 佐良 @sar4
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