第6話

「歌麻呂、私達は付き合ってるのか?」

「何を今更、毎週デートしてるやんか」

「そうか、私は歌麻呂と付き合ってたのか」

「なんか、ノリが悪いなぁ」

「言ったろ? 私はレ〇プされて子供を堕ろした女なんだぞ」

「それでもええから! 僕は凜さんが好きやねん。嫌な思い出は、これから全部楽しい思い出に塗り替えたらええねん」

「うーん、歌麻呂のことは気に入ってるんだけど、なんか付き合ってるっていう実感が湧かないんだよなぁ」

「ほな……」

「……いきなりキスするな!」


 パシーン。


「キスしたら、ちょっとは恋人気分にならへん?」

「まあ、ちょっとだけ実感が湧いたかなぁ」

「ほら、もっとキスしようよ」

「今日は、もういい」

「ところで、今度の土曜はウチの両親と夕食やから、よろしく」

「歌麻呂の両親? ラスボスじゃないか!」

「そう、ラスボスを攻略すれば、僕達の将来も明るいやろ?」

「うわ! めっちゃ気が重い!」

「僕は、凜さんと婚約するつもりやねん。せやから、親の承諾を得ないとなぁ」

「婚約?」

「そう、婚約。凜さんを他の男に盗られないようにしないとアカンから」

「婚約……」

「今から緊張しなくてもええよ」

「まあ、いいか。こんな私を歌麻呂の両親が認めるわけがない。私は両親から反対されて、この恋は終わりだな」

「なんで、そんなに悲観的やねん」

「まあいい、両親に反対された方がスッキリするかもしれない。よし、行くぞ! 決戦は土曜日だ」



「凜さんって、歌麻呂が話していたとおり、本当に美しいお嬢さんね」

「そうだな、歌麻呂は面食いだったんだな」

「凜さんって、最高の女性なんや。ちなみに、疾風と影丸は凜さんの友人と付き合ってるねん。上手くいってるみたいやで」

「そうかそうか、それで、凜さんはどこの大学に行くのかな?」

「私は、施設にいますので、卒業したら就職します」

「そんなことを言わずに、歌麻呂と同じ大学へ行ってあげて。お金の心配ならいらないから。施設を出たらウチに住んでほしいわ」

「そこまで甘えられません」

「いいのよ、凜さんはもう私達の家族なんですから」

「そうだよ、遠慮されたらこっちが困る。是非、甘えてくれ」

「はあ……ありがとうございます」



「あら、こんなところで中庭を見ているの?」

「あ、すみません。トイレに行ったら、中庭がキレイだったので」

「凜さん、何を悩んでいるのかしら?」

「え! わかりますか?」

「ずっと考え事をしてるでしょう?」

「……はい」

「良かったら、話してくれる?」

「私は、ここにいられるような女じゃないんです」

「どういうことかしら?」

「私はレ〇プされて、妊娠して、子供を堕ろした女なんです。私は歌麻呂と付き合う資格も無い女なんです。結婚なんて……無理です」

「凜さん、私達はあなたを家族として迎えたいんです」

「こんな私を、ですか?」

「凜さん、これから歌麻呂のことをよろしくお願いしますね」

「私でいいんですか……?」

「歌麻呂は、もう凜さんじゃないとダメなんです」

「他にも素敵な女性は沢山いると思いますが」

「凜さんじゃないとダメなのよ、私と主人にも障害があったの」

「障害?」

「私はお金持ちのお嬢様、主人は庶民、親に反対されちゃったの。でも、結局は結婚を許してくれたけど。だからわかるの、“この人じゃないとダメ”っていう想いがあることを。歌麻呂はもう凜さんじゃないとダメなのよ」

「私……私……」

「泣くなら私の胸で泣いてちょうだい。私はあなたのお母さんだから」

「うわあああ!」

「よしよし、つらかったわね。もう大丈夫よ、もう……ねえ、凜さん、歌麻呂と婚約してくれる?」

「……本当に私でいいのでしたら」

「婚約成立ね。とてもかわいい娘ができて、嬉しいわ。後何年かしたら、私、お婆ちゃんになるのね。孫の顔が見たいわ」

「私、歌麻呂と結婚できるんですか?」

「高校を卒業したら結婚しなさい。学生結婚もいいものよ。私と主人も学生結婚だったしね。子供は卒業してからの方がいいと思うけど」

「全て、お任せして良いですか? 私は、お母さんの言うことに従います」

「あらあら、素直な娘ね。素直なのはかわいいけど、言いたいことは言ってちょうだいね。遠慮されるのは嫌だから」

「はい……」

「さあ、涙を拭いて。食堂に戻りましょう!」







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