第52話

 ――№8。急にキミの笑顔が見たくなって、ティファに笑ってみてって言ったんだ。ティファは笑ってくれたけどなんかやっぱり違った。勿論ティファの笑顔はキミの面影もあって可愛らしかったけれども、僕はキミが見せてくれていた自然な笑顔を求めているんだね。是非、再会を遂げた時には笑顔を見せてほしい。欲は言わない。キミの笑顔を見ることが出来たら、僕はもう人生に満足するだろうし、他には何もいらないと言うだろう。――




 僕は十年単位で自分の人生を振り返ることにしている。


 そして、今日振り返って、僕は自分が五十八歳になっていることに気が付いた。


 その瞬間から、待ち遠しい日々に対して、あと二十年もすれば涼香と再会できるという喜びと、自身の体が衰弱していっているという恐怖を感じるようになったのだ。


 日記は毎日とは言わないものの今でも僅かに書いている。だが、明らかに頻度は減った。


 僕が№560を書こうと思ったのは、猿渡教授のことがあったからである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る