第25話

 ――僕は気持ちを落ち着かせながら、ふと涼香の絵になる仕草と何気ない会話を思い出していた。


 ある日の夕方、僕たちは大学の屋上にあるベンチに並んで話をしていた。


 その時は天気が良くてちょうど夕焼けが見えていたころだ。


 ガツンと鼻に来るニオイが隣から漂っていた。


 隣を見ると黄昏ながらタバコを咥える涼香の姿があった。


 なんだかその涼香はとても絵になっていたし格好良かった。


「すごい美味しそうに吸うけど、タバコってそんなにいいもんなの?」


「一応の嗜好品だからね。でも体には良くないから吸わないに越したことはないと思うなぁ。私が言えたことじゃないけどね」


 そう言いながらも、再びタバコを唇で加える涼香。


 なんか、とても様になっていた。


「そのタバコはなんていう銘柄なの?」


 なんとなく興味が湧いてきたから僕は訊いてみた。


「ん?教えないよー。陸の体が悪くなるし」


 涼香はふうっと息を吐いてから僕を見て答えた。


「吸わないからさ、なんていうタバコか教えてよ」


 気になって仕方がなかったんだ。


「ダメダメ、教えない」


 涼香はどうしても教えてくれないようだったから、僕は周りで漂っていた煙のニオイを最大限まで吸おうとした。


 涼香が僕の前でタバコを吸うたびに、その特有のにおいを感じて、気が付けばそのニオイを感じるだけで安心するようになっていた。


 涼香がいなくなってから、僕は余計そのタバコのニオイを感じたくて仕方がなかった。


だが、銘柄がわからず、僕は必死になって色んな種類のタバコを試してみたんだ。


そう簡単には見つからなかったが、ある日やっと見つけることができたんだ。


ラッキーストライクだった。


ラッキーストライクを吸った瞬間だ。


涼香と共に過ごした記憶が溢れるように出てきたんだ。


それから僕は、ラッキーストライクを吸うことで、涼香と過ごした過去の思い出に思いを馳せることができるようになった。


 ……――。


 気が付けば、左手に持っているラッキーストライクの箱を見つめていた僕である。


 ごめん、あの時吸わないって言ったけど、僕は弱いから君を思うためのタバコはやめられそうにないよ。


 僕は最後にふわぁっと欠伸をしてから深く深呼吸した。


 さて、そろそろ部屋へ戻るとしよう。


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