第23話

「なんどもすみません」


 猿渡准教授の部屋の前で僕は一言。


「いいえ、とんでもない。来ていただくのは大歓迎ですよ、さあどうぞお掛けになってくださいな」


 そう言って、猿渡准教授は僕たちを部屋の中へ案内してくれた。


 猿渡准教授は昨日言っていた通り、ジャスミンティーを提供してくれた。


 ティファの前にも温かいジャスミンティーが置かれている。だが、ティファは飲めない。


「ジャスミンってこんなにスッキリしているんですね」


 猫舌を我慢して一口飲んだ僕が感想を言う。


「ジャスミンにはですね、リラックス効果、むくみ解消、美肌効果などあるんですよ。最近の若者は男性でも美容に気を遣うそうですね。若い陸さんにはおススメかもしれないですよ。ホホっ」


「はは、若いって年じゃないですよ。僕もう二十八ですし、アラサーですよ」


「それを言ったら私は五十三ですよ。五十三になると美容よりも健康に気を使ってしまうんですよねぇ」


 ニコチン中毒でアル中の僕にはなんだかグサッと刺さる言葉だ。


 猿渡准教授みたいに生活リズムを整えられると良いんだけど、僕にはまだまだ難題なようだ。


 僕はいつも通り猿渡准教授のペースに乗せられるところだった。


 そんなところを、


「陸さん、お話を」


 と、ティファが話を取り戻してくれた。


「ああ、そうだった」


 僕は昨夜、ティファと話した依田雅の残した暗号について話を始めた。


「残された怪文章にはちゃんと意味があったのです」


「ほう、意味ですか」


 僕はその暗号が意味する文章を猿渡准教授に伝えた。


「――ですから、この暗号は“人類滅亡を免れるためには、依田雅の読んでいた本の間に挟まっている栞を見つけろ”と言うことなんですよ」


「実はこの部屋の奥には割とでかめな書物倉庫がありましてね、確かに、彼はよくここで本を読んでいましたよ」


「今から、依田雅が挟んだであろうものを探してもいいですか」


「構いませんよ、私も手伝いましょうか?」


「いえ、一旦僕たちで探してみますよ。猿渡さんはゆっくりしていてください」


「そうですか。膨大な量の書物が重なっていますので無理せずになさってくださいね」


「ありがとうございます」


 それからは、一冊ずつ本を手に取り、ページをパラパラめくってしおりらしきものが挟まれているかひたすら探した。


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