第22話
今日は、一段と冷えていたから僕は、朝起きてすぐに、シャワーを浴びて湯船にも浸かった。
部屋の中には、いつものようにティファが窓際の腰掛に座っている。
ティファを見ていた僕は、ふと、猿渡准教授から預かった記憶を思い出した。
――本のしおりは、群青が枯れ果てる間際の姿
資料の中から紙切れを取り出し、僕はティファに声をかけた。
「ねえ」
「なんですか」
ティファが髪を揺らして振り返る。
「依田雅が残した文章なんだけどさ、全くもって意味が分からないんだよね。もう考えるのやめたい……なんて」
僕はベッドに寝そべりながら大あくびをして、何となくぼやいてみた。
「私もその文章についてちょうど考えていたところです」
ティファが話し、僕はだらけていた体に思わず力が入った。
「この文章が何を連想させるっていうんだよ。僕は考えようにも考えられないよ」
「空の色が惜しくて、ですね……。ずっと見ていました」
「空の色が惜しい? 空なんていつでも見れるじゃないか。その景色がたとえ違う景色でも空は空じゃない? 普通に暮らしていたら、生きている間は一生見続けることができる空が、何故惜しいの?」
「たくさんの青色で作り上げられている鮮やかな空も、いつ見れなくなるかはわからない。文章はそんなことを訴えているように思えたんです。だから私は見れるうちにたくさん見ておきたかったんです」
「そんなこと文章に書いてあったかなぁ……」
――本のしおりは、群青が枯れ果てる間際の姿
もう一度しっかり読んでみた。けど、僕にはわからなかった。
「群青が枯れ果てるとはきっと空が鮮やかではなくなる、と言う意味ではないでしょうか。即ち、地球、または人類滅亡を示唆しているのかと考えてみましたが、どうでしょう」
「……な、なるほど……。ティファって感情がないはずなのに案外、色んなことを考えていたんだね」
そう言ってから、少し上から目線過ぎたかもしれない、と反省を一つ。
「それじゃあ、本のしおりっていうのは、依田雅の読んでいた本を探せば見つかるかもしれないってわけだ」
「きっと見つけてもらいたがっていますね」
「おおぅ、手柄じゃないか。流石だよ、ティファ」
その夕方、大学を通して猿渡准教授に連絡を入れておいた。猿渡准教授は「明日はジャスミンにしましょう」と言っていた。
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